間奏:一

 葵は本を一度閉じて、最初の部を読み終えたことを駆に伝えた。同好会室の灯りに気づいた教授に、もう夜遅いから帰るよう指摘されてしまったため、二人一緒に学校を後にした。

 翌日の昼、二人は再び同好会室へおもむいた。駆はこれから、イタリアに到着してからの出来事を書こうとしている。

「イタリア……私達の旅で初めての国ね」

「旅が終わった後、故郷に帰ったとか言ってたかな。懐かしいなぁ」

「元気にしてるかしら、彼」

 葵は彼の本をじっと眺めると、一つの質問を投げかけた。

「ねえ、その本っていつから書いているの?」

「うーん……、三週間前くらいかな、何で?」

「ん……うぅん? 特に理由はないの」

 少しドギマギした仕草をする葵に、駆は提案した。

「そうだ。次の部は葵に書いてもらおっかな?」

「え!? 私が?」

 動揺し過ぎだって、と笑う駆と、顎に指を当ててもじもじとする葵。

「そんな……、いいの? 私があなたの書く物語に手を出してしまって」

「いいって。これは僕だけの物語じゃない。葵、君も物語に登場する人物の一人だからね」

「そう……ありがとう。なら、お言葉に甘えて、書かせてもらうわ」

 彼女は駆から、書いていた本と当時の日記帳を借り受ける。そしてペンを握って、彼らの旅の経緯を綴り始めた。次回・第二部『不可測な旅』は、文月葵を語り部として物語を進めていく。

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