プロローグ

 アメリカ・デトロイト某所。

 廃ビルの中に、二人の少年と、黒いローブに身を包んで顔が見えない一人の男がいた。包帯を巻いた手に手鏡を持つ少年と、赤みがかった黒髪の少年だった。

 男は手鏡を持つ少年の腕を掴み、見せしめるように、もう一人の少年の前に突きつける。

「彼に……何をする気だ?」

「彼の仕事は君を始末する、それで終わりだ」

「た……助け……、て」

「ご苦労。悪いがもう君は……必要ない」

 男は少年に闇のエネルギーを注ぎ込む。

「ゥぁアアアアアアッッッ!!」

 少年は喉が張り裂けるほどの絶叫をあげ、男に意識を破壊されてしまった。地面から無数の針が生え、彼を包み込んでいく。

「救えるか? 君に」


 *

 

「はっ‼︎」

 静けさの漂うとある日の二十時。文芸部として使われている教室の中で、机に突っ伏したまま寝ていた一人の青年が、息を荒くしながら目を覚ました。

 その教室に入ってきた彼と歳の近い、同い年くらいの青髪の少女が、彼の様子を伺う。

「大丈夫? うなされてたわよ?」

「昔の事がちょっと夢に出てきただけ。気にすることないよ」

 彼女は安心したように息をついた。

「はい、お茶買ってきたよ」

「ありがとう」

 ほうじ茶とラベルに記されたボトルを彼女からもらい、一口、また一口飲む青年。そして、五分の一ほど飲み終えては、ふぅ、と安堵の息をついてボトルのキャップを閉めた。

「その本は何?」

 少女は机の上に置かれている一冊の本に気づいて尋ねる。彼は本を見せながら、答えるように話し始めた。

「僕たち昔、旅に出た頃あったろ? その時の日記を振り返って、それを基にした物語を創ってたところなんだ」

「私たちが高校生の頃?」

「うん。あの旅からもう二年経ったと思うとなぁ」

「そうね……懐かしい」

「まだ完成はしてなくて、明日文芸部のみんなにも見せる予定なんだけど……、ちょうどよかった。途中まででも読んでくれないかな?」

 青年が言うと、少女は彼の本を手に取って開く。そして最初の一ページから、目で文字を追い始めた。



 これは、普通とはかけ離れた力を持つ少年少女達が織り成す、国や世代の境界を越えた旅路を辿る物語である。

 この旅の中で希望の光を見出すか、あるいは絶望の闇に呑まれるか。その全ては旅の記録であるこの本が知っている。

 名は『朝苗駆あさなえ かける』。これより、この青年によって書かれた物語を、彼自身を語り手として振り返って行くこととしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る