5

最後に会ったのは、彼女のハレの日。


白無垢姿の美しき娘は、赤い紅を指し、笑みを浮かべながらに訪れた。


そんな彼女に私は手を振り、近づいた。


「この度は、おめでとう……」


彼女は頭を下げて一礼し、怪訝な顔で伺い立てる。


「有難う御座います。あの、どちら様でしょう……?」「覚えて無いですか?」


私が微笑むと、彼女は申し訳なさそうに頭を垂れた。


「すみません」「いや、良いんですよ」


謝る彼女に手をやれば、その目を見開き私を映す。


「えっ、あの……」「かなり前の事ですから」


頬に手を当て、愛しく見つめて。


そして静かに呟いた。


「これからは、忘れなければ良いだけの事」


彼女の紅に口付けすると、彼女は怯み、やがてしおらしくなった。


「では、参ろうか」「……はい」


差し出す私の手を取り、伴に歩む彼女のおみ足。


石畳を進み、鳥居を潜る。


そこに連なる下りの石段。


彼女は迷わず歩み続け、私はそっと手を離す。


おみ足が石段から外れた後、我に返った彼女の悲鳴が轟いた。


それから間もなく。


石段の最下層────横たわる赤い花嫁に、私は思わず見惚れていた。



「嗚呼、彼女はやはり……」



赤が似合う。



彼女のハレの日、私は彼女に似合う着物を着せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る