第47話 つまみ食い

「いや〜!! 大量ですね! ユキトさん!!」


 俺達はキノコ狩りを終えて、山小屋(家)に帰宅していた。


 マナで山小屋の場所が分かるから日が落ちるギリギリまで探すことができた。


 俺達が帰る頃には夕暮れだったから、ギリギリすぎたかもしれないけれど。


「そうですね。皆さんのおかげですよ」


 机には大量のキノコが入ったカゴが置いてある。


 何も分からない素人なら毒キノコのリスクもあるけれど、ステラさんが鑑定スキルを持っているおかげで毒キノコを省くことができる。


 つまり、安心して調理して食べることができるということ。


「本当にステラさんがいてくれて助かりました。ありがとうございます」


「いやいや。私こそお礼を言いたいよ。こんなに夢中になって何かを探すなんて……この年でするとは思わなかったよ」


 ステラさんがしみじみと語る。


「いつもは依頼をこなすにあたって、緊張感を持っていながらやらなきゃいけなかったけど、仕事のしがらみなく楽しめるなら、またやりたいもんだね」


「ぜひぜひ、みんなで行きましょう」


 たしかに、俺も知識はあったとはいえ、キノコを探すのは楽しかった。


「ユイもたのしかった。またいきたい」


「そうだね。ユイちゃんもまた行こうね」


「ウチも行きたいっす!」


 意外とみんなから好評だった。


 あまりシロの散歩以外で外に出るつもりはなかったけれど、近所で色々と遊べるならばみんなを連れて外で遊んでもいいかもしれない。


 そういえば、遠出をしている訳ではないけれどモンスターと遭遇することはなかった。


 思えば山小屋付近もモンスターが現れたことはない。


 日本ですら山小屋や別荘の近くに野生生物がでるのだ。


 たまたまの可能性もあるけれど、神様が危なくないようにしてくれているような気がする。


 もしそうなら、ありがとう神様。


「是非、私も行きたいです。いつになるか分かりませんけれど。またいつか」


 そっか。エリスさんは聖女の務めもあるから、あと2週間したらひと時の別れがやってくるのか。


 それまで楽しい思い出を残してくれたらいいな。


 そしたら、きっとまた来たいと思ってくれるだろうから。


「何はともあれ、せっかく大量に採れたので今から晩御飯を作りますね。みなさんお腹空いたでしょうし」


「待ってます!! めっちゃ楽しみに待ってます!!」


「ユキトさんのご飯!! ウチも楽しみっす!!」


 大喜びのエリカさんとラティアさん。


 みんな頑張ったのだし、その分も俺も期待に応えたいと思う。


 俺は台所に向かう。


「よし。やりますか」


 俺は少し気合いを入れて、調理に取り掛かる。


 大事なのは下ごしらえ。


 野生のキノコは見た目以上に汚い。


 そりゃあ、地面に野ざらしにされていたから汚いのは当たり前なのだけど。


 ただ意外とキノコの傘の中には虫がいる。下ごしらえをすることで取り除くこことができる。


 その下ごしらえはどうしたら良いのか。手順はこんな感じ。


 一つ目は塩水で数分漬ける。 

 二つ目は沸騰した水に三分入れてから、冷や水でさらしてゴミを取る。


 その時、キノコを切ると味が落ちるから注意。


「まぁ、こんなもんだろ」


 今日収穫した全てのキノコの下ごしらえは終わった。


 キッチンペーパーで水をしっかりとふき取る。


 今日使う分と、明日の炊き込みご飯用のキノコを別けた。


 量は結構あるけれど、6人+シロ分のご飯と考えたらひょっとしたら少ないかもしれない。


 けれど、キノコだけを食べる訳ではない。


 色々な食材を使って調理をする。


 とはいえメインはキノコ。その事は忘れてはならない。


 「……とはいえバターを多く使いそうだな」


 俺はフライパンにバターの塊を入れる。


 バターは『ジュ~!!』という音と共に溶けていく。


 縦に半分に切ったキノコをフライパンにひき詰めて醤油を適当に入れる。


 醤油の香ばしい匂いとバターの甘い匂いが食欲をそそる。


 作ってるこっちがお腹が空いてくる。


 大雑把な味付けで明らかに健康に悪いかもしれないけれど、それがまた美味しい。


 明らかに健康に悪いのは理解しているけれど、たまには許してほしい。


 俺とステラさんは胃もたれとか不安だけれど、きっと他のみんななら大丈夫だろう。


「ユキトさん。すごく良い匂いですね……」


 エリカさんは缶ビールを片手に俺に話かける。そのエリカさんはヨダレが口の端から垂れている。


 多分、ツマミが欲しいのだろう。


「一口要ります?」


「いいんですか!! なんて言いましたけど、本当はユキトさんのご飯を目当てに来ました」


 エリカさんは「てへっ」と小さく舌をだす。


「それなら、この小さいのでいいですか?」


 俺は菜箸さいばしで小さなキノコを取る。


「全然いいですよ!!」


「それじゃあ、小皿に乗っけるので適当にフォークで食べて下さい」


 と俺が言うと、


「あ、待ってください。せっかくなんでユキトさんが『あーん』して下さいよ」


「え」


「ダメですか?」


 ねだるような。それでいて、甘えるような声。


「別にダメではないですけど……」


 俺はエリカさんの行動に少し動揺した。


「それなら、あーん」


「あ、あーん……」


 俺は菜箸さいばしで小さなキノコを取って、


 エリカさんの口の中におそるおそる入れる。


「~~っ!! 熱いですよ!! お美味いですよ!! ユキトさん!!」


「す、すいませんっ!」


 エリカさんは両方の反応をする。


 でも申し訳ない。俺は『あーん』するシチュエーションに慣れていないんです。


 それなりの人生経験を積んだつもりだったけど、女性経験だけは無に等しいのだ。


「二人だけの秘密ですよ」


 みんなに内緒でツマミ食いをしたのか、はたまた、あーんをしたことなのか。


 エリカさんが何を差しているのか分からないけれど。


 ただ一つ。またエリカさんとの秘密が増えてしまっただけは理解できた。


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