第45話 エリカの提案

「ユキトさん。良かったらキノコ狩りに行きませんか?」


 ラティアさんが帰ってきた翌日の晩。


 今は飲みの席。


 ラティアさんは缶ビール片手に俺に尋ねる。


「キノコ狩りですか?」


「そろそろ、旬な時期だと思うんですよね。なので行かないですか? お酒のツマミにもちょうどいいですし」 


 この世界のキノコの旬は分からないけれど、たしかに山小屋(ここ)に来てそろそろ1ヶ月。


 俺自身、今のところ季節を感じないけれど、1ヶ月が経てば季節の変わり目があってもおかしくはないかもしれない。


 この世界のキノコがどういうものか分からない。


 それに……、


「ステラさんがいるなら安心ですもんね」


 鑑定のスキルを持っているステラさんなら、キノコに毒があるかないかを判別できる。


 特にキノコ狩りはキノコに対しての知識を大きく求められるから、ステラさんがいるなら問題ないだろう。


「ん? 呼んだかい〜??」


 ステラさんは酔っ払っていた。


 なんでもちょっとギルドで溜まっていた雑務を一区切り良いところまで終わらせられたという。


 名目上、ステラさんは聖女のエリスさんと聖水を取りに行っているから、基本的にはリーファさんがやっても違和感のないものを選んで仕事をしているという。


 ステラさんのそういったところは本当に真面目だと思う。


「これからキノコ狩りに行かないかって話をしてまして、ステラさんがいたら安心だと思ったんですよ」


「あぁ……たしかにそんな時期か〜?? それで〜?? 私がいないと寂しいのかい〜! なら仕方ないな〜!! そんなに言うなら行ってあげようじゃないか〜!!」


 おっと……今日はからみ酒の日か。


 そりゃあ良いことあったら、羽目を外したいよな。


「あ、ステラさんは家に居てもらっても大丈夫ですよ?? 収穫したキノコを食べれるかどうか鑑定していただければ結構ですので」


「エリカひどい〜!! 冗談だって分かるだろぉ!? せっかくユキトくんが私も誘ってくれたのだ! 嬉しいさ!! 行かない訳ないじゃないか! 照れ隠しなんだから言わせるんじゃないよ!」


 なんというか……ステラさんはお酒が入っているからこその本音。


 本音だと理解してしまうと喜びの感情を直接受けて、こっちまで照れてしまいそうになる。


「ユイもきのこがり、いきたい」


「ユイちゃんも行こうね」


「シロもいこう」


「もちろん。シロも一緒に」


「わふっ!」


 最近、ユイちゃんはシロのことを気に入っている。


 結果としてシロもユイちゃんに懐いている。


 それはとても良いことだ。


「ふふっ……私も行かせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「エリスさんもですか? 是非行きましょう」


「ありがとうございます。ユイ様、一緒に頑張りましょうね?」


「がんばる」


 なんだか、エリスさんはユイちゃんのことをかなり気にかけている様子。


 エリスさんは子供が好きなのだろうか。


 やっぱり聖女となると、子供が好きになりやすいとかあるのだろうか?


 いや……なんとなくだけど、エリスさんが根が優しいからかもしれないな。


「リーファさんとラティアさんはどうしますか??」


「いいんすか!! ウチも行っていいんすか!?」


 ラティアさんは嬉しそうなご様子。


 彼女はいつも喜びの感情を分かりやすく伝えるから、俺の心が一瞬ざわめく。


 そろそろ慣れても良さそうなのに。


「もちろんですよ。みんなで晩御飯を豪華にしましょう」


「まかせて下さいっす!! 不肖ラティア!! やってやるっすよ!!」


 ラティアさんは袖をめくりガッツポーズをする。


 思ったよりも筋肉はなく、普通に細い腕をしている。


 何を言っているのか分からないが、普通に女の子の腕だった。


 冒険者だから筋肉がガッチリしているものかと思っていたら、そんなことはなかったみたいだ。


「申し訳ございません。嬉しいお誘いですが私は遠慮します。まだ少し仕事が残ってますし、テイマーの方から荷物も受け取らないといけないですから」


 しかしリーファさんは頭を下げる。


「そうですか……」


 ちょっと申し訳ない。


 俺もできる仕事であれば手伝いたい気持ちもあるのだけれど、さすがに俺ではギルドの仕事に関して分からない。


「あ、でも気にしないで下さい。残っていると言っても本当に少しだけですし、テイマーの方から荷物を受け取ったら、あとはのんびりするだけですから」


「あんまり、無理しないで下さいね」


 山小屋ここに来て、こんをつめて仕事をしてたら本末転倒だと思うから。


「ただ……皆さんがお出かけの間、お風呂に入ってもいいでしょうか? 1人で思いっきり羽を伸ばしてみたいです」


「構いませんよ。お酒も飲んで頂いて構わないですから」


「ふふっ……ありがとうございます」


 リーファさんは柔らかい笑みを浮かべる。


 最近、リーファさんの笑みはかなり柔らかくなっている気がする。


「リーファさん!! ウチ、リーファさんのために頑張ってキノコたくさん取ってくるっすよ!!」


「ありがとうございます。期待して待っていますね」


 相変わらず、リーファさんとラティアさんの仲は親密だ。


 冒険者とギルドの職員。


 2人の立場は違えど、友人ならば関係ないのかもしれない。


「それじゃあ!! 明日に備えて乾杯!!」


「「「カンパーイ!!」」」


 エリカさんの音頭で今日も飲む。


 明日は突発的なキノコ狩り。


 いっぱい獲れたら嬉しいな。


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