第41話 朝にばったり
「よし。シロ散歩に行くか」
「わふっ!」
翌朝のこと。俺は朝目覚めた後、シロと日課の散歩するために玄関を出た。
なんだかんだ今日もはやることが多い。
自分の畑のコーロを収穫したり、ブルドー村の方々から頂けるワイン樽を置くスペースを用意するために地下室の片づけに取りかかったり、エリスさんからこの世界の宗教を教わったり……良い意味で忙しない。
だけど何かに追われる訳ではないから楽と言えば楽だ。
ブラック企業務めの控えめに言ってキツイ……ストレートに言えば人外なノルマも当然存在しない。
だから、できることをできるだけやっていこう。
「今日は良い天気だな」
「わふっ!!」
シロが返事をしながら尻尾を振る。やっぱりウチの子は天才だな。
それで可愛いとか隙がない。
あ、そうだ。全然関係ないけど、トウモロコシ茶を作るのもありだな。
それなら一部お茶用に乾燥させつつ、ヒゲも取っておこう。
曰く、トウモロコシを炒めたやつをヒゲと共にお湯にいれても作れるらしいから、しばらくはお茶も楽しんでみようと思う。
まぁ、出来上がるのはトウモロコシ茶じゃなくてコーロ茶なんだけどね。
どんな味になるのか楽しみだ。
折角だしユイちゃんと一緒に作ろう。
そんなことを思っていると、『パシュン! パシュン!』と風の切る音が聞こえる。
音の方に向かうと、そこには弓を的に向かって放つ耳長(・・)の少女がいた。
「あれ? ラティアさん?」
「あ、ユキトさん!! お疲れ様っす!!」
ラティアさんは深々とお辞儀をする。
「弓の練習ですか??」
「そうなんす!!」
俺がラティアさんに尋ねると、元気良く返事する。その後ラティアさんは少し申し訳なさそうな顔をして。
「あ、そう言えばお借りするって言ってなかったっすよね。申し訳ないっす。少し木をお借りしてたっす……あ、でも傷を付けないように練習してたんで許してほしいっす!!」
「別に気にしなくていいですよ。好きに使ってください」
「ありがとうございます!!いや〜!! 練習を怠っちゃうといざという時、大変っすからね!!」
「そうですか。精が出ますね」
たしかに、冒険者の
身体一つで依頼をこなしてお金を稼がなきゃいけないとなると、普段の練習も命綱になる……改めて、冒険者って仕事は大変だ。
「ユキトさんは散歩っすか?」
「そうです。一応日課なんですよ」
「まじですか!! たしかにシロちゃんと一緒に散歩をするなら楽しそうっす!!」
すごい……めちゃくちゃ後輩ムーブだ。
社会に出て、可愛がられるタイプNO.1。
やっぱりラティアさんと根本が違うのだろうか。
「そういえば、ラティアさんはパーティとか組まないんですか?」
俺はわざとらしく話題を変える。
ステラさん曰く、基本的に冒険者はパーティを組むらしい。
前にブルドー村の依頼をこなした時は臨時的にパーティを組んでいたけど、ラティアさんからパーティのことについて聞いたことがない。
だから興味本位で聞いてしまった。
「実はっすね。ウチ、今は一人で仕事をしてるっすけど、昔はパーティ組んでたんすよね。でもある時モンスターの討伐に失敗しちゃって……その時に仲間が大怪我して冒険者を引退することになっちゃったんすよね」
「……え?」
ラティアさんの口から出るには予想外の内容だった。
「その人は命が助かっただけ儲けもんだ〜!!とか言ってましたけど……時々思っちゃうんすよね。あぁ……あの時、こうしてたらとか、もう少し気をつけられていたらとか……どこか責任みたいなのを感じちゃってるんす」
冒険者パーティってゲームや漫画でなんとなく仲間と楽しくやるみたいなイメージがあったけれど、辛くて重い一面もあるのか。
「まぁ、ウチと同じことを当時のパーティはみんな思ってたみたいで……結果としてパーティは解散しちゃったんすよね。だからしばらくは任務を受けるのは1人でかなって思ってるっす」
そうか……ラティアさんは明るい性格をしているから気付けづらいけど、ラティアさんにも過去があって大変な思いをしてきていたんだな。
「それは……大変でしたね。それとすいません」
「え? なにがっすか?」
「あ、いや……嫌なことを話させてしまったかなと」
「あ~!! そんなことないっすよ!! ウチもあんまりそんな話を誰かにしないんで!! ……なんというか、話せてちょっと心が楽になったっす。また良かったら聞いてくれると嬉しいっす!」
ラティアさんは照れたように笑う。
「いつでも聞きますよ。俺でよければ」
俺は願う。
せめて
「そういえばユキトさんは弓とかやらないんすか!? 楽しいっすよ!」
ラティアさんは持っていた弓を俺に向けて突き出す。
やっぱり武器ってかっこいい。
中学生の修学旅行で木刀を買うくらいには憧れがあったけれど……結局、木刀も捨ててしまった。
平和な現代日本において武器はロマンだけど、必要ないものになってしまった。
社会に出たらなおのこと、いらないモノ。
「弓ですか……やったことないんですよね」
アーチェリーとかあるような娯楽施設に行くこともなかっから、触れたことすらない。
「そうっすか……」
ラティアさんはちょっと残念そうな声を出す。
「あ、興味はあるんですよ?? ただ俺が元々いた場所は趣味に興じる時間はなかったので」
正しくはブラック企業という場所にいたからなんだけどね。
「わぁ……ユキトさんも色々と大変なんすね……」
ラティアさんは憐れみの視線を送る。
「大変……でしたね。今はみなさんのおかげで楽しく過ごせてます。
けれど、それはもう過去の話。もちろん異世界に山小屋という居場所をくれた神様にも感謝しかない。
「俺にもいつか弓、教えてくれないですか?」
「全然いいっすよ!!」
「ちなみに、弓は触ったことすらないので本当に初心者ですけど大丈夫ですか?」
「任せて下さいっす!! 手取り足取り教えるっすよ!!」
「さすが弓の達人。楽しみにしてます」
「いや~!! 褒めてもなんにも出ないっすよ!!」
ラティアさんはめちゃくちゃ分かりやすく嬉しがる。
どこかエリカさんにも似ている。
そういえば、ラティアさんはエリカさんのことを慕っている節がある。
エリカさんを慕っているからこそ、似たような反応になるのだろうか?
「あと話変わるんすけど、それとブルドー村にワイン樽を取りに行くのは明日にでも伺おうかと思うっす!!」
「そうですか……お手数お掛けします。それと道中気を付けて下さいね」
「安心して下さいっす!! なるはやで戻ってくるっす!!」
なるはや……なるべくはやくってことか。
仕事が早いことに越したことはないかもしれない。けれど、俺は急かしたくない。
あくまで自分のペースで行って欲しい。
「ゆっくりでいいですよ。ラティアさんにお手数かけてますけど、それで焦らせてラティアさんの負担がもっと増えるのは嫌なので」
俺がラティアさんにそう言うと、
「違うんすよ」
「え?」
ラティアさんは首を振る。
「ウチがなるはやで戻ってきたいんす!」
ラティアさんは晴れやかな笑顔で言ってくれるのであった。
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