第38話 収穫
「よし。そろそろ収穫しても大丈夫そうだな」
リーファさんとラティアさんと翌日のこと。
ユイちゃんと俺は畑の前で仁王立ちをしている。
ユイちゃんに任せている畑にはご立派なコーロが何本も生えている。
種を植えてから2週間しか経っていないが、見た目は収穫するには十分な大きさのトウモロコシだった。
そして俺の畑も大きなコーロがたくさん実っている。
「おおきくそだった」
「うんうん。ユイちゃんが頑張って育てたからだね」
「さすがユイのこたち」
ユイちゃんは『ふんすっ』と鼻息を荒く漏らす。
とは言うものの、ここで植えた植物の成長速度はめちゃくちゃ早い。
一般的なトウモロコシは種まきをしてから90日ほどかかる。
それなのに2週間足らずで収穫できる大きさまで成長したのだ。
コーロが異世界の植物だとしても早すぎる。
逆にコーロの成長速度が2週間で実ができるならば、この世界はかなり豊かのはずなのだが、ギルドがあるクローリーの街とブルドー村に行った限りはそうでもなかった。
主食は麦系の食事だったことを考えると、コーロの正直速度は俺が元いた世界で採れるトウモロコシと同じ感覚で間違いないはずだ。
これは神様パワー以外の理由は説明がつかない。
ありがとう神様……おかげ色々なものが食べられる。本当にのんびりしがいがあるなぁ……。
「じゃあ、収穫がんばろうか」
「おー。ユイ、しゅうかくする」
俺はユイちゃんに少し大きめのハサミを渡す。
「このハサミで実の根本を切るんだ」
「かぜのまほうできれる」
ユイちゃんはまたまた『ふんすっ!』と鼻息を荒く漏らす。
確かに……風の魔法の方が切れ味いいのかな……?
「ユイちゃん。届きそう?」
「とどかない」
「……うーん。ハサミ使ってもギリギリかな?」
「まほうとばす」
でも収穫する度に風の魔法を使っていたら疲れるんじゃないだろうか。
ユイちゃんはS級の魔法使いだからひょっとしたら問題ないのかもしれないけれど、せっかく初めてちゃんと収穫するんだから楽しんでほしい。
「ユイちゃん。脚立持ってくるからちょっと待ってね」
俺は倉庫に向かい脚立を取りに行く。
脚立は5段と3段の2つあった。
俺は脚立を肩に担いでユイちゃんの元に戻る。
金具が当たってカチャカチャと金属音が響く。
「お待たせ」
俺は脚立を組み立てる。
この高さなら天板まで登らなくても、トウモロコシを切るだけなら十分だろう。
「危ないから気をつけて登ってね」
「わかった」
ユイちゃんは手足を使ってゆっくり登る。
俺は念のため脚立を抑える。
ユイちゃんは3段ほど登った後、緑の魔法陣を右手に展開する。
「ういんどかったー」
風の刃でコーロの実の根本を切る。
コーロの実は『ぽとっ』と柔らかい土の上に落ちた。
ユイちゃんはゆっくりと脚立から降りてコーロを拾う。
「ユキト。とれた」
ユイちゃんは採れたコーロを嬉しそう掲げる。
「すごいね。それに上手に採れたね」
「えっへん」
ユイちゃんは自慢気に胸を張る。
「じゃあ次はちょっと大変かもしれないけど、手でもぎ取ってみようか」
「わかった」
俺は転ばない様にユイちゃんの腰をおさえる。
「えいっ」
ユイちゃんは勢いよく引っ張るとコーロが『ポキッ』と折れる。
「おひげ。いっぱい」
ユイちゃんは目を輝かせる。
コーロを折るとトウモロコシのようなヒゲがたくさん出てきた。
たしかに子供の頃、夏休みの宿題で植物を育てて収穫するのが楽しかったな。
大人になるにつれ、そんな感覚はなくなっていったけど……今なら童心に返って楽しめるかもしれない。
「それじゃあ、一通り収穫し終わったらみんなで一緒に食べよっか。ユイちゃんが育てたって聞いたら、きっとみんな驚くよ」
「たのしみ」
ユイちゃんは分かりやすく興奮していた。
これをきっかけにユイちゃんもずっと山小屋ライフを満喫してくれたら嬉しい。
そう思いながら、俺とユイちゃんはコーロを収穫するのであった。
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