第37話 おひさしぶりです
「ユキト様。お久しぶりです」
ドアをノックされたので玄関の扉を開けると冒険者ギルドのリーファさんとエルフのラティアさんがいた。
シロも慣れたもので、尻尾を振って『へっへっへっ……』と口を開けて喜んでいる。
一度、安全な人だと分かったら人懐っこいって……やはりウチの子は賢い。
ちなみにユイちゃんと間引いたコーロはヤングコーロとして美味しく頂いた。
個人的には茹でたアスパラに似ていて好きな触感だったから、定期的に食べたいと思った。
「突然お伺いして申し訳ございません。この度はお仕事のお話しではなく、単純に遊びに来させて頂いたのですが……大丈夫でしょうか?」
リーファさんは少しだけ申し訳なさそうに聞いてきた。
「もちろんですよ。是非上がってください」
だけど俺に予定なんてものはないから問題ない。
俺的にはいつでも来て下さいといった感じだ。
「ありがとうございます。あと、こちらつまらないものですが……」
そう言いながらリーファさんは収納袋から1本の瓶を取り出す。ブルドー村で頂いたワインと同じもの。
「ご丁寧に……ありがとうございます。頂きます」
「実はあと5本あるので、そちらは部屋の中でお渡しする形にさせて下さい」
正直、お酒はあればあるだけ助かる。
お酒の種類が増えれば、作るツマミの種類も増えるし、楽しみも増える。
それにブルドー村のワインは美味しかったし、また飲めるのは嬉しい。
「ユキトさん自分もいますよ!! お久しぶりっす!!」
「ラティアさんもお久しぶりです。今日も元気そうでなによりです」
ラティアさんは長い耳をぴょこぴょことさせる。
「ウチの取り柄は元気なとこっすからね!」
笑顔のラティアさんから後光が見える。
やはり彼女は俺にないものを持っている……。
「ははは……立ち話させてしまいましたね。ひとまずお上がり下さい」
俺は二人を
「初めまして。エリス・ルナールと申します。ステラ様のご紹介とユキト様のご厚意でこちらにお邪魔しております。どうぞ宜しくお願いします」
「ウチはラティアっす!! よろしくっす!!」
「エリス様。こちらこそよろしくお願い致します」
エリスの挨拶に二人は各々の挨拶で返す。
ラティアさんは首を傾げながら、
「エリス……どこかで聞いたことある名前なんすよね。どこで聞いたんだろ」
「あぁ。多分、聖女だからじゃないか?」
「ひぃん!! 聖女様っすか!!」
ラティアはすごく変な声をあげた。
「まぁ、立ち話もなんですから座りましょうか」
俺がそう声をかけると、各々ソファに座る。
エリカさんだけは変わらず椅子で缶ビールを飲んでいた。
「そういえばブルド―村の皆様がユキト様にお礼を言っていましたよ」
ブルドー村近く出現したウォータードラゴンとロードドレイク討伐の依頼を達成した件だろう。結果としてブルドーの人々に被害はなかったから、俺としても嬉しい。
「いえいえ、俺の方もお礼を言いたいくらいですよ。ワイン、すごく美味しかったです」
「以前お話した際にワイン用の樽を差し上げようかというお話を受けておりますが、可能であれば今度こちらにお持ちするように手配しましょうか?」
「本当ですか? 是非、よろしくお願いします!」
ワインの樽があれば、自分でワインを作ることもできる。
自分で作れるだろうけれど、やっぱり経験者から教えて頂けるなら失敗は少ないはずだ。
置き場所は入ったことがないけど地下室もあったから、そこを綺麗にすれば使えると思う。
埃の有無は重要だから、風の魔法で空気をコントロールすれば綺麗にできるだろう。
急ぎではないけど、リーファさんとラティアさんが帰った後あたりに始めるか。
「では後ほどで構わないので樽を置くようの部屋を拝見してもよろしいでしょうか? 寸法さえ合っていれば収納袋にさえ入れてしまえば問題ないです。ただ大き目の収納袋ですとギルドの備品になりますので書類を作らないといけない関係上、お時間を少しだけ頂きます……ここにはステラギルド長もいらっしゃるので、そこまでお時間掛からないと思いますが」
リーファさんはステラさんに視線を向ける。
ステラさんはノリノリでウインクをしながら、
「ユキトくんためなら、ステラちゃん一肌脱ぐさ。あ、ついでに服も脱ごうか? 自慢ではないがスタイルには自信があるんだ。ほら、ユキトくんなら嬉しいと思ってくれるだろ?」
「服を脱がれると困りますが、頼りにしてます。ワイン造り楽しみなんですよね」
「まったく……本当に照れ屋だな。ユキトくんは」
ステラさんは「やれやれ」と言いながら首を振る。
「ユキト。てれてない」
「ユイ……そんなことはないだろ。いや、むしろそんなことはないと否定してくれないとステラちゃん泣いちゃうよ?? いいの?」
「10才相手に号泣する28才ってどうなんですか?」
「エリカもひどいなぁ!!」
ステラさんはビシッ!! とエリカさんに指を指す。
なんというかいつも通りの風景に安心する。
「あぁ……リーファ。収納袋の手配はしなくていいよ。私が個人的に持っている収納袋ならギルドの備品よりも大きいものだからそれを使ったらいい」
「かしこまりました。ではそのように致します」
「ルール的にはギルドの備品を使った方がいいかもしれないけど、無駄に仕事を増やすのも良くないもんな」
「お気遣いありがとうございます」
リーファさんは少し嬉しそうに笑った。
「あ、でも手配するって仰ってましたけど、この山小屋の場所を誰かに知らせるってことになるんですかね?」
あんまり大人数で来られたら、さすがに困る。
準備も大変だろうし。
「いいえ。ちょうどここにユキト様のお住まいの場所を知っていて、良い感じに動けるA級冒険者様がいらっしゃるので、その方に頼みます」
「えっ!? ひょっとして取りに行くのってもしかしてウチっすか!?」
消去法的にラティアさんになるのか……?
手配と言っていたから、大それたものかと思っていたけど……たしかに俺的にも助かる。
「ふふっ……ラティアさんよろしくお願いします」
「仕方ないっすね~!! リーファさんとユキトさんのためならやってやりますよ!!」
「すいませんラティアさん。本当にありがとうございます」
本当ならば俺自ら行くのが筋なのだろうけれど、ここはお言葉に甘えよう。
代わりに二人に貢献できることがあれば、微力ながら尽くそう。
「気にしないで下さいっす!! 今日お邪魔する分の働きくらいは務めてみせるっすよ!!」
「あ、俺個人的には急ぎではないので、ラティアさんのタイミングにお任せしますよ」
「本当っすか!? じゃあ今日明日休んでからでもいいっすか!?」
「もちろんです」
「やったっすー!! これで明日もエリカ先輩とお酒が飲めるっすー!!」
エリカさんは後輩に好かれるな。
たしかに、エリカさんは普通に良い人だもんな。
「私? まぁ、なんでもいいですけど、何はともあれ乾杯しましょ!!」
「まだお昼ですよ……? あ、なるほど。皆様準備済みなんですね」
リーファさんもジョッキを持って、乾杯する。
最近になって木のジョッキを使い始めた。
ステラさんからの頂きもの。木のジョッキで飲むビールはここが異世界に来たと実感できる。
カランカランと木材の当たる音が心地いい。
「ぷは〜!! おいしいです!!」
エリカさんは相変わらずの飲みっぷり。
やっぱりみんなで飲むお酒は楽しい。
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