第25話 助言
俺は再び外に出た。
魔法の練習がしたかったから。
ユイちゃんが使った雨を降らす魔法を見て、俺も使えるようになりたいと思った。
魔法で雨を降らすことができれば水やりの効率は上がる。
せっかく異世界に来て、魔法が使えるのだ。ユイちゃんにお願いするんじゃなくて自分自身の力で雨を降らせたい。
ちなみにユイちゃんはエリカさんにお風呂入れてもらっている。
「それにしてもどうやって雨雲を出しているんだろうな」
ウォーターボールは体の水分を集まるイメージでできた。
「ということは雨が降る仕組みを考えないといけない訳か」
まず雲を作るために、水蒸気とその他冷たい空気を集まる。その空気が上空で冷やされることで水分が氷となる。
雲の中でできた氷が重さに耐えきれず落下して、地面に到達する頃には氷の温度が上がり水へと戻る。
簡単な原理としてはこんなもんだ。
「まずはやってるしかないか」
最初は雲を作るための水分を用意する必要がある。ウォーターボールとウインドボールを合わせれば応用できるだろうか?
「ウォーターボール。ウインドボール」
俺は右手に青の魔法陣を展開させる。
しかし、どっちかを立てようとすれば、どっちが上手く立たなくなる。
「くっ……難しいな」
二つのことを一つで同時にやるのは大変だ。
いや、待てよ。
俺は学生時代にギターをやっていた。
別にバンドを組んでいたとはなくて、当時はただの若気の至り。
その時にギターを弾きながら歌う練習をしていた。その時の経験を活かせるかもしれない。
「まずは、風の魔法と水の魔法を50%ずつくらいの力で発動っと」
とりあえず魔法陣は出せた。問題はここから、
頭の中で水の魔法陣を軽く意識しながら、風の魔法陣を意識するだけ。
ギターを弾きながら歌った時と同じような感覚を思い出す。
維持はできる。そこから形にしようとした時に失敗してしまった。
「まだまだ……!! 次こそは!!」
次は行けそうな確信があった。
俺は再度、風の魔法陣と水の魔法陣を展開させる。
最初は小さくてもいい。俺は風と水の魔法陣からウォーターボールとウインドボールの両方を作り出すことができた。
「はぁはぁ……とりあえず、ここまではいけたぞ」
あの時の経験は無駄ではなかった。
だけどここから雲を作って雨を降らせるのはどうしたらいいんだ?
まったく想像がつかない。
「精が出るね」
「はぁはぁはぁ……ステラさん?」
後ろを振り向くとステラさんが微笑んでいた。
「ユキトくん。そんなに興奮されると、さすがの私も困ってしまうよ」
「だ、誰もしてませんよ!! あっ……」
展開していたウォーターボールとウインドボールは消える。完全に集中力が切れてしまった。
ステラさんはそんな俺に肩を叩いて、
「実はこっそり一部始終を見ていたよ。二つの魔法を同時に展開できる魔法使いは少ない。それだけでもユキトくんの実力は少なくともB級以上は確実にある。エリカから聞いたけど、まだ魔法を習って日が浅いんだってね。ユキトくん。君は間違いなく天才だ」
「ステラさん?」
ステラさんは急に真面目な顔をしていうものだから困惑した。
「先に言っておくが、ユイはユキト君よりも天才……文字通りの稀代の天才だ」
「え?」
「この王国には1万人の冒険者がいる。一応、これでも私はギルド長だからね。その中で10才という年齢で王国屈指のS級まで上り詰めた魔法使いだ。本来なら真似ができるものでもない」
エリカさんは「まぁ、そういう意味では種類は違えどエリカも天才なのだけどね」と苦笑する。
たしかにユイちゃんはすごい。だからと言って無理と言われて、はい。そうですか。とは思いたくない。
俺は魔法を使うのが楽しいのだ。
「なぁ、ユキトくん。魔法とはなんだと思う?」
「魔法ですか……?」
急に哲学的な事を言われても分からない。
「本来魔法とは自然の理を借りる力なんだ。自然の中にあるものを使って本来は魔法を発現させるんだよ。それをユキトくんは自身の中にあるマナそのものを使って発現させている」
「正直、それでできちゃうのはすごいと思うが、試しに自然にあるマナを意識して魔法を展開させてみてはどうだろう? 大丈夫。ユキトくんならできるよ」
そうか。ステラさんは俺を励ましてくれたのか。
本当に分かりづらい。でも有難い。
「……少しやってみます」
俺は意識する。
この世界に流れる空気。全身を巡るマナを。
そして俺は緑の魔法陣を展開する。
「ウェザーコントロール」
空気は風や水、塵を含む。その空気を上空にかき集めて圧縮する。
見えない水分は集まり水滴となる。その水滴は冷やされ凍る。
氷は落ちて雨となる。
「できました!! できましたよステラさん!!」
それは小さいけれど確かに雨雲だった。
俺が創り出した雨雲から雨が降る。
成功した。やばい。めちゃくちゃ嬉しい。
「……いやいや、そんなすぐにはできないって」
俺が喜びとは対照的にステラさんは口角を引き攣らせていた。
「え? さっきステラさん『ユキトくんならできるよ』って言ったじゃないですか」
「そうだけどさ……なぁ、ユキトくん。本格的に冒険者になってみないかい? 君ならA級……いや、S級だって夢じゃない。どうかな?」
「すいません。俺はここでのんびり暮らすと決めたので」
俺はステラさんの誘いに即答で断った。
「そっか。それは残念……気が向いたら言って頂戴。待ってるよ」
きっと、そういう未来もあったかもしれない。
神様がくれたのが山小屋じゃなくて、すごいスキルだったなら。
俺の中でゆっくりとした時間よりも冒険に心が躍っていたなら。
いくつもの選択肢はあったかもしれない。
でも俺は神様がくれた『存分にゆっくりと過ごすといい』という言葉を大事にしたい。
そうじゃなきゃ神様に怒られそうだ。
「ユキトくんはまだやるのかい?」
「今日はもう止めておきます」
「そっか。じゃあ戻ろうか」
俺とステラさんは
これから美味しい晩御飯を作ろう。
ここにいるみんながゆっくりとした時間を過ごせるためにも。
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