第23話 初めての日本食

「ユキトさん。この料理はなんですか?? 上に乗ってるのはなにかの卵だというのはなんとなく分かるんですけど」


 朝食の時間。ユイちゃんを起こして、全員で食卓を囲う。


 目の前には醤油と味の素をかけた目玉焼き丼と味噌汁のお椀。お椀の中にはインスタントの味噌汁の素を入れている。


 エリカさんは見慣れない食べ物に困惑しているようだ。


「えっと、これは俺の故郷の料理です。本当は目玉焼き……卵の料理とご飯は別なんですけど」


「ご飯?? この下のやつはご飯というのかい?? 私の鑑定スキルでは出てこないのだが……」


「あ、これは米という植物です。俺の国では主食なんですよ」


「へぇ〜。じゃあ本当にユキトくんの故郷の料理なのかい。それは食べないといけないね」


「ユイ。おなかすいた」


「あぁ、ユイごめんよ。せっかくユキトくんが作った料理だしね、食べようか」


 まぁ、たしかに見慣れない料理は躊躇ちゅうちょするよな。気持ちは分かる。


 だとしても日本食はインスタントだとしても美味しいのだ。


 この美味しさをみんなに伝えたい。


「ユキトさん……この茶色いやつはなんですか??」


 エリカさんは興味津々の様子で聞いてくる。


「ちょっと待って下さいね。これにお湯を入れるんですよ」


 俺は全員のお椀にお湯を入れる。湯気と共に味噌の香ばしい匂いが漂った。


「え!? すごく良い匂いがします……! なんというか……すごくお腹が空いてきます……!」


「あとは適当にかき混ざれば完成です。あ、かき混ぜないと美味しくならないので気を付けて下さいね」


「すごく簡単ですね!!」


「ユイもまぜる」


 そう言って、エリカさんとユイちゃんは味噌汁をかき混ぜる。


 心なしか楽しそうだった。


「本当に良い匂いだね……このお湯入れは……鉄かい?」


「いや、アルミニウムという金属ですね」


「またアルミニウムかい!!」


 ステラさんはオーバーなリアクションをする。


「熱伝導が良いので、火が沸きやすいんですよ」


「熱伝導?」


「火の熱が通りやすいんですよ」


「へぇ……アルミニウムってすごい素材なんだねぇ」


 ステラさんはアルミ素材のヤカンを見て、うんうんと頷いていた。


 きっとアルミニウムは異世界では未発見……もしくは存在しない素材なのかもしれない。


 自分で言いながら思っていたけれど、アルミニウムって熱伝導以外にも電気も通しやすいんだよな。


 ひょっとしたら、この異世界にある魔法と組み合わせて何かできそうだ。


 今度色々試してみようかな。


「ちなみにこの味噌汁。二日酔いによく効く素材を使ってるんですよ?」


「ありがとうユキトくん。早速頂くとするよ」


 ステラさんは誰よりも早く味噌汁をかき混ぜ口を付けた。


「おぉ~!! 生き返る~!!」


 ステラさんはめっちゃ笑顔になった。


 お口にあって良かった。


「それじゃあいただきます」


 俺は味噌汁を口に入れる。口の中では旨みを含んだ塩味がして、芳醇ほうじゅんな味噌の香りが抜けた。


 そのまま飲み込むと、味噌汁が胃に流れていく感覚がする。


「くぅ~!! しみる!!」


 五臓六腑ごぞうろっぷに染みわたるこの感覚。 


 やはり俺は日本人だな。


 この感覚がたまらない。


「ユキト。このたまご。美味しい」


「いや本当に濃いですよ。それに……この黒い液体もしょっぱいのに美味しいです。米?? ですか? めちゃくちゃ進みますね……」


「そうでしょ? これと味噌汁があれば最高の朝になるんですよ」


「これを毎日食べているユキトくんの国はすごいね。この朝ご飯が毎日出るなら頑張って惰眠だみんむさぼるのがもったいなくなってしまうよ」


「ユイ。このあじすき」


 ユイちゃんは目を輝かせながら目玉焼きを頬張っている。


 実際、目玉焼きの黄身も驚くほど濃くて美味しい。


 みんなに気に入ってもらえて俺も嬉しい。


 卵も今まで食べたことないくらい濃いし、お米もパックのご飯のはずなのに炊き立てのご飯のように美味しい。これも神様の粋な計らいなのだろう。


 あぁ……パックでこのクオリティなら、普通のお米を炊いてしまったらどうなってしまうのだろう。


 よし。今日の夜は絶対に炊いたお米を食べよう。


 そのためには、今日やらなきゃいけないことを早く終わらせないとな。


 俺はそう思いながら、久しぶりの日本食の味を噛みしめるのだった。

 

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