第10話 酒のつまみ

「さてと、俺はご飯の支度でもするかな」


 ユイちゃんをお風呂に案内した後、俺は台所に立つ。


 そういえば、折角だし食欲のそそる焼肉のタレで食べてみよう。


 ドラゴンの肉に焼肉のタレがどこまで合うのか楽しみだ。


 なにせ食大国日本×異世界肉との初コラボなのだ。ワクワクしない方が無理って話だ。


「へっへっへっ……」


「お? どうしたシロ」


 シロは舌を出して、俺を見上げていた。


「安心しろ。ちゃんとシロの分も用意してあげるから」


 俺がそう言うと、全力で尻尾を振っていた。


「ご飯できるまではソファで待っててな」


「わふっ!!」


 俺がそう言うと、シロはリビングにトコトコと歩く。


 あぁ……シロったらなんて賢いんだ。


 折角なら、鱗は取っておこう。なんかかっこいいし。


 俺はドラゴンの尻尾に包丁を入れる。鱗に傷を付けないように、内側から抉り取るように肉を取り出す。


 とは言ってもそれなりに量がある。とりあえず肉を取り出して、食べない分はラップに巻いて冷蔵庫に入れておこう。


 俺はてきぱきと肉を切り取っていく。まな板の上には肉の塊が3個。


 ……よし。こんなもんか。


 俺がラップにドラゴンの肉を包んでいくと、後ろから袖を引っ張られた。


 俺はビックリして振り向くと、


「ユキト。からだあらって」


「ゆ、ユイちゃん!? なにしてんの!?」


 目の前にユイちゃんがあられのない姿で立っていた。


「ひとりでおふろはいれないから、からだあらって」


「それなら、最初にそう言いなさいって……」


 俺は一応目を逸らして、


「分かった。でもさすがに俺と入る訳にはいかないから、一旦服を着てこようか」


「なんで? ユキトがあらってくれたら解決」


「なんでって……いや、解決しないから」


 そりゃあ、色々と誤解を招くと面倒だからだよ。


 現代日本に生きてきた者として、本人が良いと言えど余計なことはしないのが一番だ。


「ユキトさん!! 不詳エリカ・アッカルド。今帰りました!! って……ユキトさん。何をしているんですか?」


「え、エリカさん。いや、これは違くて……」


 終わった。


 まさかこのタイミングで帰ってくるとは……。これではただの犯罪者と思われてもおかしくない。さよなら、俺の異世界生活。


「えりか。まってた」


「って、ユイ?? どうしてここに?」


 ユイちゃんは全裸のままエリカさんに抱き着いた。


 あ、そういえば、そもそもユイちゃんはエリカさんを訪ねてきたんだっけ?


「あー、なんかエリカさんに用があるみたいで……ところで、さっきのは誤解で……」


「?? 大丈夫ですよ? この子、本当は一人だと生活能力皆無だから、ユキトさんを頼ったですよね?」


 なんで分かるんだよ。だったら最初から言ってくれ。


 いや、エリカさんがここに来てくれたから助かったところもあるけれど。


「そんなことない。ごはんはたべられる」


「そんなこと言って、いつも乾パンとか保存食ばかりじゃないの」


「えりか。いじわる」


 ユイちゃんは口を膨らませて、抗議の意を示していた。


「それにしてもユキトさん、すごいですね。ユイは私以外に全然懐かないのに」


「そうなのか? いや、俺初対面だから分からないんだけど……」


「この子めちゃくちゃ人見知りだし、ちょっと自由なところがあるので」


「あぁ……多分、エリカさんに会いたくて頑張ったんじゃないか?」


 俺も若干人見知り気味だから理解できる。極端なことを言えば、人に会わなくて済むなら極力会いたくない。


 かといって人との関わりは切りたくない。だから決まった人と定期的に会えればそれだけいい。


 かくいう俺は、ブラック企業勤めだったおかげで定期的に会える友人すら消滅してしまったけれど。


「というか、エリカさんとユイちゃんはどういう繋がり?」


 曰く、この周辺はモンスターがいるらしい。


 それなのに、ここに来ている時点で普通の子供ではないことは察していた。


「あれ? ユイったら言ってなかったんですか?」


「この子は天才魔法使いですよ。私と同じS級冒険者です」


「……まじか。すごいな……まだ幼いだろ」


「えへん。ユイはすごい」


 ユイちゃんはドヤッとした顔をしながら、胸を張る。


「くしゅん」


 くしゃみをするユイちゃんは……そういえば裸だったわ。


 このまま身体を冷やしてしまったら、風邪引くよな。


「エリカさん。すいませんけどユイちゃんをお風呂に入れて頂けないでしょうか? その間にご飯を用意してますので」


「ユキトさんのご飯ですか!! 分かりました!! あ、できたらお酒も……」


「分かりました。用意しておきますから」


「行くよ!! ユイ!!」


 エリカさんは俺が言い終える前に、ユイちゃんを抱えてお風呂場にダッシュするのであった。


「じゃあ……俺も料理の続きでもするか」


 俺は背筋を伸ばして、少しだけ気合いを入れる。


 そういえば、ユイちゃんから頂いたあのお肉……ドラゴンのって言ってたよな?


「そうだ。いいこと思いついた」


 尻尾の肉は焼き鳥だと『ぼんじり』って言うよな。


 折角なら酒のつまみにするか。


 量はそれなりにあるのだから……味付けは塩とタレ。食べやすい大きさにカットすればユイちゃんだって食べられるはずだ。


 きっとエリカさんは喜んでくれるだろう。


 気が付いたら俺は鼻歌を口ずさみながら、料理を作っていた。

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