第9話 新たなお客さんとドラゴンの尻尾

「ごめんなシロ~寂しい思いをさせちゃったよな~」


 辺りはすっかりと暗くなっていた。


 俺が玄関に戻ると「くぅ~ん」と鳴きながら、尻尾を振って駆け寄ってくる。


 やっぱり自分を迎えてくれる存在は有難い。


 俺はシロを撫でると、シロはお腹を見せてくる。


 やだ……シロったら可愛すぎ。


 俺はシロを一通り撫で終わると、立ち上がる。


「今ご飯作るからな。ちょっと待っていてくれよ」


 俺は台所に向かい手を洗う。


 きっとシロもお腹を空かせていることだろう。


 昨日、明日のためにと余分に切っておいたを焼く。


 相も変わらず、美味しそうな匂いが漂ってくる。


 いや、ダメだ。今日は誰もいないのだから健康に気を遣わないと。誘惑に負けるのは簡単だが、美味しいものは特別な時に食べるのがコツ。


 その内、エリカさんも戻ってくる訳だし……油断しないよう頑張ろう。


 そんなことを思っていると、


 コンコンコンコン。


 と玄関を叩く音がする。


「キャンキャンキャン!!」


「こら!!」


「くぅ~ん」


 条件反射でシロを怒ってしまった。


 でも、一々吠えていたらシロだって疲れるし、来た人もビックリしてしまうだろう。


「……エリカさんかな?」


 いくらなんでも早すぎではないだろうか? 昨日の話だと冒険者ギルドに街に向かうのにも時間がかかりそうな感じだった訳だし。


 俺はそう思いながらも玄関に向かうと、


 そこには大きな帽子被った小さい女の子がいた。


 身長は小学生くらい。帽子はまったく背丈にあっていないくらい大きい。


 ぱっと見、魔女のコスプレと言った方が近いかもしれない。


「あの……どちら様でしょうか?」


「ユイはエリカのともだち」


 ユイちゃんというのか。


「あぁ……エリカさんの友達。今、エリカさんは街に行きましたけど……」


「そう……」


 ユイちゃんは少し残念そうな顔をする。


「えっと……入る? 立ち話も疲れるだろうから」


 俺がそう提案すると、無言でコクンと頷く。


 なんか悪いことをしている気分になる。


 というか日本なら普通にアウトか。


 とはいえ今は夜。


 こんな夜道に小さな女の子を放っておく方が論外だ。


 それにエリカさん荷物もここに置いて行っているから、近い内にここに戻ってくるだろう。


「そういえば、自己紹介していなかったな。相沢 幸人。幸人でいいよ」


「わかった」


 ユイちゃんはコクンと頷く。


 その後、ユイちゃんは右手を掲げると、


 突如虚空から布に包まれた物体が現れた。


 これも何かの魔法なのだろうか? 魔法ってすげぇな。


「ユキト。これ、おみやげ」


「えっと……いいの?」


「おみやげ持っていくとよろこばれるってきいた」


「そっか……じゃあ有難く頂戴するね」


 ユイちゃんはコクンと無言で頷く。


 めちゃくちゃ礼儀正しい子だな。


「ちなみに、これは何?」


「これはドラゴンのしっぽ。にくがおいしいってきいた」


「ドラゴンの尻尾!?」


 急な異世界肉!! というかドラゴンの尻尾ってどこで手に入れたんだ?


 まぁ見た感じは腐ってなさそうだし、いっか……。


 とりあえず、俺はユイちゃんを招きいれる。結構大きいし……折角なら食べてしまおう。


 2日か3日に別ければ、食べきれるだろう。


「ユイちゃんだっけ。どうしてここにエリカさんがいたって分かったの?」


「エリカのマナの痕跡があったから」


「なるほど??」


 ちょっと何を言っているか分からない。


 そういえば、マナといえば魔法を使うのに必要な概念だったっけ? エリカさんも魔導具を使ってこの場所が分かるのか。


「とりあえず。リビングに荷物置いておいで。そうしたら、お風呂の場所教えるから」


「わかった」


 ユイちゃんはリビングに向かう。


「とりあえず……このドラゴンの肉を台所に持っていくか……」


 一旦は布のまま冷蔵庫に入れよう。常温で置いていても傷んでしまうから。


 今日の献立は少し豪華になりそうだな。


 シロは嬉しそうに俺を見つめていた。

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