第7話 はじめての魔法
「ありがとうございます。この世界のことを色々と聞いてもいいですか?」
「もちろんです! なんでも聞いてください! あ、できればその前にお酒を頂けると……」
快諾してくれた矢先、お酒を求めるエリカさんの姿に笑ってしまった。
我ながら変な質問だとは思っている。でも何も聞かないエリカさんの優しさに感謝した。
「あ、そうですね。ちょっと持ってくるので、待ってください」
俺は台所に行き、冷蔵庫から缶ビールを取りに行く。
そこから、俺は色々なことをエリカさんに尋ねた。
ここはシューメルという国で、エリカさんはギルドに所属しているらしい。
エリカさんはギルドの依頼でモンスターを倒した帰りとのこと。
ギルドの中でS級というのはギルドで数人しかいない1番高いランクらしい。
その他、街の人の暮らしとか、美味しい食べ物とか教えて貰った。
その中で1番驚いたのは、
「あの、良ければ先程仰っていた魔法を見せて頂いてもいいですか?」
「魔法ですか? いいですよ? あー、本当に簡単なやつでも大丈夫ですか? いつもはモンスター相手に使用しているので……」
「……簡単なやつでお願いします」
「じゃあ、行きますよ。ウォーターボール」
右手から水色の魔法陣が展開し、水の球体が宙に現れた!!
「すごい……! これが魔法……!!」
俺は今、本当に異世界に来たんだと実感している。
だってさ、ゲームや漫画でしか見たことないんだよ? すげぇ……生の魔法を見れるなんて……!
「ど、どうやって出しているんですか!? 魔法陣ですかね? これとか覚えるのは大変なんですか!?」
俺は興奮していた。というか、興奮しない方がおかしい。
「説明すると複雑なんですけど、この魔法陣は個人が所持しているマナの形なので、模様とか覚える必要はないですよ」
「なるほど……つまり、誰しも使えるものではないんですね……」
「いえ?? 練習すれば誰でもできますよ? 人は産まれながらにしてマナを持っているので。ただ魔法を使って戦うとなると、才能に依存してしまいますが」
そう言うと、右手に展開していた球体の水をグラスに入れた。
かっけぇ……!
「そうなんですか!! あのできたら、教えてもらえたりとか……」
「私にですか?? 高くつきますよ?」
エリカさんはニヤリと俺を見る。
「エリカさん……エイルのおかわりどうですか??」
そっちが生の魔法ならこっちは生のビールだ。
「頂きます!! 魔法くらい教えますよ!!」
勝った。生のビールの勝ちみたいだ。
「じゃあ、グラス貰いますね」
俺は台所に行き、グラスを洗う。
エリカさんのグラスには、魔法を見せてくれるために入れた水が入っている。
ついでにグラス変えるか。
俺は新しいグラスと缶ビールを持って、リビングに戻る。
缶を開けると、カシュ! という軽快な音が鳴る。そのままグラスにビールを注ぐと、エリカさんはソワソワしながらその様子を見ていた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
エリカさんは嬉しそうに受け取った。
「まず簡単にですが、魔法で大事なのはイメージです。右手から水の形を想像し続けて、整えるんです」
「はい、先生」
俺は右手を掲げて、エリカさんの真似をする。
「うぉ、ウォーターボール!」
俺は右手から水を出すイメージをする。
そういえば、人体の70%は水分だったな。
身体にあろうが、どこにあろうが水は流れる。うん、そのイメージでいこう。
俺は右手を通じて、蛇口をひねるイメージをする。
すると、
「お、おおお……! すげぇ出た!」
俺の右手から青い魔法陣が出現し、エリカさんが出した水の球体よりも2倍くらい大きいウォーターボールが現れる。大きさとしては手のひらから少しはみ出すくらい。
成功した。これが魔法か……俺も魔法が使えるのか。
しかし、感動していたのも束の間。
「くはっ!! もうダメだ!!」
維持するのは難しい。多分、5秒も持ってない。
「こりゃ……片付けるの大変だな」
失敗したウォーターボールは床をビシャビシャにした。
うん。次からは外で練習しよう。
「本当に初めてなんですか? 普通、初めて魔法を出すだけでも、体内に流れるマナを理解して……みたいなことをやって1年くらいかかるのが普通なんですよ?」
「いや、嘘をついたって何も良いことないじゃないですか」
「それはそうですね……だとしたら、才能ですか」
おぉ、どうやら俺には魔法の才能があるらしい。
褒められると俄然やる気が湧いてくる。
折角の異世界での生活だ。楽しまきゃもったいない。
「ありがとうございます!! あとは自分で練習してみます!!」
さすがにエリカさんの時間を奪うわけにはいかない。
「ユキトさん。もしよければ、私が魔法を教えてあげましょうか?」
「嬉しいですが、エリカさんも忙しいでしょう? さすがにそこまでして頂くのは申し訳ないです」
「え……?」
「エリカさん??」
何故かショックを受けるエリカさん。
「そ、そんなことはないですよ? ほら、仕事量なんて調整すればいいですし。忙しいといっても」
「本当ですか……?」
冒険者のランクが一番高いなら、仕事なんていくらでも湧いてくるだろうに。
「実は……本当に居心地が良くて動きたくないんです」
「えぇ……」
「たしかに仕事量は調整できますよ? それは嘘じゃないです。でも……! でも……!! ギルドから戻っても次はこの仕事なって、ギルド長が次の仕事を回してくるんです!! 私だって人間なんですよ……!! もう疲れちゃいますって」
エリカさんは涙声で言う。きっと本当に大変だったのだろう。
なんかブラック企業を辞める前の俺みたいだ。
俺とエリカさんでは待遇は違うかもしれないけれど、気持ちは凄くわかる。
「幸い、貯金はあるのでしばらく住まわせて頂けないでしょうか……!? もちろんお金は払いますので……!」
「住むって言ってもここに大したものはないですよ?」
俺がそう言うと、
「そこをなんとか!!」
「ちょっ、ちょっと……!」
エリカさんは俺の腰に泣きついてくる。
「命を助けると思って!!」
そんなスケールの大きい話じゃないでしょうに。
というか、色々当たっているし、お風呂からあがったからシャンプーの甘い匂いもする。ついでに酒の匂いもするけれど。
仮に今後一緒に住むとなったとして、欲情したって後々面倒だから。
幸いなことに女姉弟だったから、多少の耐性はあるけれど。
「わ、分かりました。分かったので少し離れて下さい」
「本当ですか!! ありがとうございます!!」
「なんで更に力を込めるんだ!!」
俺はエリカさんの腕を振り解こうとするが……ダメだ。振り解ける気がしない。
「でも、エリカさんって依頼が終わって帰る最中なのでは?」
「あ」
「忘れてたのか……」
「すいません。ここを死に場所にしたかったので……」
なんかRPG終盤の戦士みたいなことを言っている。
でも大丈夫だろうか? 死に場所を快適さで選んでいるような気がするけれど……いや、よく考えたら、俺でも温泉のあるホテルとかで一生暮らしたいって思う時があるから、変わらないのか。
「でも、すぐに戻ってきますから」
「戻るって言ったって場所分かるんですか?」
「そこは魔法の力でどうにかなるので……正しくは魔道具ですけど」
魔法ってすげぇな。
「分かりました。待ってます」
「本当ですか!!」
「あ、できたら何か麦とか植えられそうなものがあれば、持ってきてもらえると嬉しいです」
いつかは自分でも取りに行くつもりだけど、折角なら育てられるものが多いほうがいい。
「わかりました!! 色々と集めておきますね!! あ、荷物は置いて言ってもいいですか?」
「まぁ……構いませんよ」
生憎、部屋は余っているし今のところ使う予定もない。
「じゃあ、私は明日に備えて早く寝ますね!」
エリカさんはそう言うと、ビールを一気に飲み干したのだった。
「ぷはっ……!! おやすみなさい!!」
そう言って、エリカさんはソファで横になるのだった。
「あの部屋……って、もう寝付いてるし」
エリカさんは『くかっ〜!』と軽く寝息を立てていた。
俺はソファで寝るエリカさんに布団をかけて電気を消す。
「朝ごはんでも作っておこうか」
俺は1人呟いて台所に向かうのであった。
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