第5話 初めてのお客さん
「ごめんなさい。この家の方でしょうか……?」
「えぇ、そうですけど」
目の前には鎧を身に纏ったすごい美人さん。
長いブロンドの髪に青い瞳。顔の一つ一つのパーツが整っている。
対照的に大きな荷物を背負っていて、その恰好がとてもアンバランスのように感じた。
「あの……可能であれば、ここに泊めて頂いてもよろしいでしょうか? 無理にとは言わないので」
「泊まりですか……」
「えぇ、この先はモンスターも多くて、このままだと夕暮れまでに街に着きそうになくてでして……」
鎧を身に纏ったすごい美人さんは困っている様子だった。
女の子が一人で野宿はたしかに危ないよな……。
「それは構わないのですが、お名前をお伺いしても?」
「あぁ!! 失礼しました!!」
鎧を身に纏ったすごい美人さんは勢いよく頭を下げる。
「私は冒険者をしているエリカ・アッカルドと言います。これがギルド発行の身分証でS級の証です」
そう言って、鎧を身に纏ったすごい美人さん……もとい、エリカさんは金色の首飾りを見せてくれた。
ギルドってゲームの世界でしか聞いたことがないけれど、モ〇ハンとかのイメージが近いのだろうか? 想像している通りなら、ちゃんとした身分証なのだろう。
S級の冒険者ってどれくらいすごいのか分からないけれど。
「あぁ、そうなんですね。ご丁寧にありがとうございます。俺は相沢 幸人と言います」
「アイザワ・ユキト? さんですか。この辺りだと聞かない響きですね」
「呼び辛ければ、ユキトでもいいですよ」
「それではユキトさんとお呼びしますね」
正直、この世界について俺はなんにも知らない。
知らない人を家に入れないことは常識なのだろうけど、向こうも困っているし、俺も色々教えてもらえるかもしれない。
ぱっと見だけど、悪い人には思えない。
日本人として助け合いの精神でいこうと思う。
「あぁ、ウチに泊まるのは構わないのですが、今は家を掃除してなくてでして……それでもよければ、あがって下さい」
「とんでもないです。むしろ、無理を言っているのは私の方ですから」
俺は玄関の扉を開けて、エリカさんを家に招く。
今にして思えば、女性を家に招くことはなかったな。
変に下心とか抱いたりして、面倒なことになっても大変だ。引き締めて行こう。
「おじゃまします」
「ぐるるるる!! キャン!! キャン!!」
「こら、吠えちゃダメだろ」
「くぅん……」
俺はシロを叱ると、シロはシュン……と耳を垂らした。
「良い子だ」
俺はシロの頭を撫でる。あぁ……やっぱり帰ってきた時に迎えてくれる存在っていいな。
「あ、あの……この子は?」
「あ、すいません。この子はシロって言って、昨日ケガをしていたところ助けたんです。うずくまって弱っていたので、助けられて安心しました」
「その割には元気そうですが……?」
「そう見えますよね……」
エリカさんが信じられないような目で見てくる。
そんな目で見られても、俺はありのまましか言っていない。
「そんなことよりも、上がって下さい。俺はご飯の用意をするので、適当な部屋でも使って下さい」
「そ、そんなお構いなく」
「いえ、代わりに色々な話を聞きたいので……可能であればですけど」
「答えられることであれば」
「ありがとうございます。そうだ。お待ち頂いている間にお風呂とかどうですか?」
「お風呂ですか!?」
エリカさんは食い気味だった。
「正直、冒険者業は儲かるからやってるんですけど、お風呂とかシャワーとか浴びられない時間の方が多いので、入らせて頂けるならすごく嬉しいです!!」
「ははは……そうですか。そうしたら、先に、シャンプーとボディソープの場所を教えますね」
「シャンプー? ボディソープ?」
俺がそう言うと、エリカさんは単語を理解していない様子だった。
「えっと、髪用の石鹸と髪以外用の石鹸です」
「え? 石鹸も使っていいんですか?」
「ダメだったら、ダメって言いますよ。あぁ、それと着替えとタオルも用意しておきますので、よければ使って下さい」
エリカさんは「あ、ありがとうございます」とお礼を言う。
その間、ご飯の支度をしよう。
俺は会釈をして、お風呂場に案内をする。
エリカさんに一通り案内をした。シャワーで温かいお湯が出たり、シャンプーの泡立ちに色々と驚いていた。
『普通、お風呂といえば水ですよ!! それがこんな温かい水を使えるなんて!!』
そんなことを言っていた。正直、そこまで驚くなんて思っていなかった。
なんか自分の家が褒められたような感覚がして年甲斐もなく嬉しいと感じてしまう。
エリカさんがお風呂に入っている間、ご飯の下ごしらえをしよう。
ここ二日は肉野菜炒めしか作っていなかったから、今日くらいは腕を振わないと罰が当たる気がする。
エリカさんが出たら、俺も風呂に入ろう。
風呂に入るついでに、シロもお風呂に入れないとな。
そう思いながら、俺は台所に向かったのだった。
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