第4話 名付け

「んっ!! なんだ!!?」


 俺は口元に感じた生温かさで目を覚ます。


 慌てて起き上がると、昨日助けた白い子犬が俺に向かって飛びかかる。

白い子犬は俺の口元をベロベロと舐めてきた。


「すげぇな……もう元気になったのか」


「へっへっ」と言いながら、白い子犬は尻尾を振る。


 やっぱ異世界の動物ってすげぇな。元の世界じゃ考えられない回復力だ。


 正直、しばらくは動けないと思っていたのに、昨日の今日でもう歩きまわるなんて。


「というかいつの間にかに寝てたのか」


 ぐぅ~。とお腹が鳴る。


「お前もお腹空いてるよな。飯にするか」


「キャンっ!!」


 おぉ……返事もできるのか。賢い子だな。


 俺が台所に向かうと、尻尾を振りながら付いてくる。


 いやぁ~、癒されるなぁ。


 俺は昨日同様にめっちゃ濃い牛乳を鍋から移して温める。人肌くらいまで冷ましている間に自分のご飯を作る。生活の基盤が落ち着くまでは肉野菜炒めだ。


 なんだかんだ野菜を取れるって素晴らしい。


 健康面もあるけれど、なんだかんだ野菜って高かったから手は出しずらかった。


 しかも肉も美味い。


 つまり健康と美食を一気に叶える素敵料理なのだ。


 ブラック企業で働いていた当時は料理を作る暇があったら、料理に凝る暇があったら少しでも眠りにつきたかった。


 だから、必然的にカップラーメンとか不摂生な食べ物ばかりを選ぶようになっていた。


 かといって、月に数回あるかないかの休日で料理を作るかと言われれば作らなかったけれど。

 

 今にして考えると、健康になるためにも金がかかるって嫌な世の中だったな。


 ちなみに紙パックのめっちゃ濃い牛乳は満タンに戻っていた。


 さすが神様パワー。


「お待たせ」


 俺が野菜炒めを作り終えた後、冷まし中の濃い牛乳の温度を確かめる。


 うん。ちょうどいい。


 昨日とは違い、自分で動いているからスプーンは必要ないな。


「そういえば、名前を付けてなかったな。よし、今日からお前はシロだ」


 白い子犬だからシロ。我ながら安直だけれど、


「キャン!!」


 お、気に入ってくれたみたいだ。


「じゃあ、シロ。残さず食べろよ」


 俺はシロの前に牛乳の入った皿を置くと「へっへっへっ」と息を漏らしながら濃い牛乳をペロペロとする。


 俺もさっさとご飯を食べるか。この後、昨日の畑の耕してる最中だったから続きをしたい。


 ……そういえば、シロを助けるのに必死で外にクワ放りっぱなしだったな。


 俺は異世界肉野菜炒めを口に放りこむ。


「ごちそうさまでした」


 シロの方を見ると、シロもしっかりとご飯を食べ終わっていた。


「おぉ、シロは全部平らげて偉いな」


「わふっ!」


 やっぱり、ちゃんと俺の言葉を分かって返事してるよな? 実はウチのシロって賢い??


 俺はシロの皿と自分の食器を持って、後片付けをするのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ちゃんと良い子にお留守番するんだぞ」


 水筒に水を入れて、昨日の続きをするための準備を整える。


「くぅん……」


 そ、そんな寂しそうな声を出したってダメなものはダメだ。


 元気になったとはいえ、病み上がりだろうし無理をさせたくなく。


 折角助けた命なんだし、無理させたっていいことなんてない。


 名前を付けたけれど、シロの好きにさせたい。この家で過ごすのか、野生に還るのか。


 出ていったら独りになるから寂しいけれど。まぁ、今は考えなくてもいいか。


「じゃあ行ってくるから」


 玄関の扉を閉めて、外に出る。


 天候は昨日と変わらず、晴れていた。昨日シロを助けた場所あたりに向かう。


「あったあった」


 俺はクワを拾って、昨日の続きの作業を行う。


 ヒョイ。サク。ヒョイ。サク。


 昨日よりもテンポよく耕せている。


 やっぱり慣れって大事だな。


 おかげで思ったよりも速く終わらせることができた。


「よし、その次はシャベルで形を整えるか」


 俺は倉庫に向かう。


 鍵は開けっ放しだった。不用心……とは思いながらもこんなところに人が寄り付くこともないだろう。


 俺はクワを片付けた後、シャベルを手に持つ。


 そしてクワで耕したところを良い感じに土を盛る。


 バサッ! バサッ!


 今更ながら思う。


 肉体作業は久しぶりのはずなのに、思ったよりも筋肉痛はない。


 これもブラック企業で無駄に鍛えられたおかげなのだろう。


「ふぅ! 良い汗かいた!!」


 俺はちゃっかり用意していた白い果物の種子を植える。


 そういえば、まだ水筒の水には手を付けてなかったな。


「ちゃんと育ってくれよ」


 俺は水筒の水をジョウロ代わりにして、先ほど植えた白い果実の種に水をあげる。


 よし。今日はこれくらいでいいだろう。


 キリもいいし、そろそろ陽が傾きつつあった。


 これで風呂に入ったら絶対に気持ちいいだろうな。


 ついでにエアコンの冷房でもかけて、今日はのんびりしよう。


 そう思って玄関に戻ると、


「ごめんください。この家の方でしょうか……?」


 鎧を身に纏ったすごい美人さんが玄関の前にいた。


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