第3話 白い子犬

「今日も良い天気だ」


 翌日。俺は今日も異世界肉野菜炒めを食べた後、リュックの中にあった比較的汚れても良い服を着て外に出る。ついでに作業をするのに、下駄箱に置いてあった長靴を拝借した。これで準備万端。


 倉庫からクワを持って、山小屋のすぐ裏に行く。


 山小屋の裏は一人で植物を育てるのには十分な広さがある。


 奥に行く度、若干の勾配になっている。きっとここもどこかの山なのだろう。


 なお、一番奥は森の入り口みたいだった。いつか畑の面積を広げる時に切るとしよう。


 ところであの濃いピンク色の肉の正体ってなんだろう?? めちゃくちゃ美味いんだけど。しかも食べても無くならないのは本当にありがたい。


「まぁ、今は目の前のことをしっかりとこなしていくか」


 俺はクワを振り上げて、腰を入れて振り下ろし、


 ヒュッ!! ガサッ!! ヒュッ!! ガサッ!! 


 とテンポよく土を耕していく。


 今まではブラック企業で働いていた時は、達成感なんて感じる暇なんてなかった。


 深夜まで残業してやっと終わったとしても、次々に湧いてくるタスク。迫る納期。終わらない仕事に虚無感さえ感じていた。


 それが自分のペースで、自分のためだけに開拓していく。楽しくない訳がない。


「よし、今のところはこんなんでいいだろう」


 まず最初は10メートルくらいをクワで耕した。後はスコップで掘り起こして整えるだけ。


 とはいえ、なにも焦って全部耕す必要はない。時間はいっぱいあるのだから。


「くぅん……」


「え?」


 どこからか声がする。辺りを見渡すと白い子犬がいた。


「おいおい……ケガしてんじゃねぇか」


 白い子犬は前足からは血が出ている。

 親とはぐれてしまったのだろうか。


「くぅん……」


 威嚇する余裕もないくらい明らかに弱っている。このまま放置していたら死んでしまうかもしれない。


「可哀想に……ちょっと我慢してくれよ」


 俺はクワを地面に置いて、白い子犬を持ち上げる。抵抗はない。


 だらりと力なく前足がぶら下がっている。


 俺は子犬を抱きかかえたまま急いで山小屋に戻る。


 そのまま台所にいき、蛇口をひねる。


「ちょっと我慢してくれよ」


 俺は水で白い子犬の足を洗う。


 その後、俺はハンカチをに水に濡らす。ハンカチをよく絞った後、子犬の前足に巻く。


「良い子だ」


 本当は痛いだろうに……。我慢して本当に偉いな。


 俺はバスタオルを四つ折りにして、白い子犬を寝かせる。


 ついでに布団とブランケットを持ってくる。


 今日は近くで寝てあげよう。


「まぁ、その前にお腹空いてるよな」


 俺は台所に戻り冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出して、鍋に入れる。


 念のため、匂いを嗅いでみたけれど腐ってはいなさそうだった。


 念の為、自分でも飲んでみる。


「うわっ! すげぇ濃いな!! 牛乳ではなさそうだけど……まぁ、飲めそうだからいっか」


 牛乳ではなさそうだけど美味しかった。


 俺は牛乳(?)を鍋に入れて火をかける。


 沸騰した後、火を止める。


 人肌くらいまで冷ました後、俺はスプーンを持って白い子犬の元に戻る。


「食べれるかな」


 俺はスプーンで牛乳をすくい、息を吹きかけて冷ます。


 その後、白い子犬の口元に運ぶと、


(ペロ……ペロ……ペロ……)


 白い子犬はご飯を舐めるように食べる。


「よかった。食欲はあるみたいだ」


 俺は安堵のため息を吐く。なんとか元気になってほしい。


 こうして白い子犬をみると、かつて飼っていたタロウを思い出す。


 タロウは俺が小学生の頃から飼っていた柴犬だ。大人しい癖に食欲旺盛で、俺が家に帰ると尻尾を振って出迎えてくれる。本当に可愛いやつだった。そんなタロウも俺が大学生の時に亡くなってしまった。


 お別れは本当に悲しかったけれど、俺はタロウと過ごせて幸せだった。


「まぁ、この子がどうするかは元気になってからだな」


 今日は夜通し看病しよう。


 この子が抱える寂しさを少しでも紛らわすために。

 

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