第5話

型通りの挨拶のあとで


「真嶋に受け入れていただいて感謝してます。」


組長に礼を述べれば、

真嶋の組長はにこやかに俺に対峙した。偉ぶらずに若頭である秀一郎さんが拐うみたく亜依ちゃんを嫁にしたことを詫びて、

湯島のお袋の気持ちを思いやりつつ亜依ちゃんを頼むと若輩の俺に頭を下げた。


「組長たるもの斯くありたい。」


湯島のチャラい親父には逆立ちしても出来ない対応だ。


「どうしたんです?気になることがあるんですか。」


何でも指示しろと俺に言う林に笑って答えた。


「いや。真嶋で学ぶことは多いと感じたんだよ。」


先ずは若頭の秀一郎さんが来るまで亜依ちゃんを守らなきゃな。

ふと亜依ちゃんに視線を向けると王子さまキャラの金城さんと視線が絡んでふわりと笑われた。人当たりは柔らかいが見かけに依らず腹黒だと俺は見ている。

あの秀一郎さんに陶酔してるみたいだし敵に回らない限りは無害だろうけど。

俺が亜依ちゃんの傍に移動すると彼女は組長と会話中。

組長はお披露目式の行われる広間と着替えの間の案内を船橋さんに指示したらしい。


「よろしくお願いしますね。」


にこりと笑う亜依ちゃんに、


「はい。若姐さん、どうぞこちらへ。」


船橋さんは言いかけて立ち止まる。


「船橋さん?」


「申し訳ありません。つい新婚の頃の優理花様を思い出して…」


あの美人と亜依ちゃんを重ねて「若姐」と呼んだのか。なるほどな。新婚オーラを纏う亜依ちゃんもいつもより何倍も美しいし。無理もない。

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