第3話

「亜依さま、お風邪ですか。」


掠れた亜依ちゃんの声に長身細身の男が心配そうに亜依ちゃんに問いかける。

真嶋組本家を預かる船橋ふなはしリョウ。今、若頭邸はインフルエンザ蔓延中。どうやら亜依ちゃんの体調を心配してるらしい。赤くなって口ごもる亜依ちゃんは目茶苦茶可愛いよな。


「風邪とかインフルエンザじゃなく、ただの声がれです。新婚さんなので。」


「…は?」


「…っ、エイッ!」


朝まで秀一郎さんに鳴かされてたんだもんな。俺のからかい半分の説明に亜依ちゃんが俺を睨んだ。赤い顔で怒ってもかわいいだけだっつーの!俺を睨む亜依ちゃんをスルーして船橋さんにきっちり挨拶をした。


「湯島英斗です。はじめまして。今日は真嶋の組長さんに挨拶に上がりました。」


「お噂は色々うかがってます。真嶋組へようこそ。歓迎いたします。」


返された挨拶は意味深だが聞き流した。髪は金髪で見た目はチャラいけどこう見えて湯島の跡取り。決めるときは決めるし細かいことは気にしない。

数日前から亜依ちゃんのいる若頭邸で世話になってはいたが本家の組長さんへの挨拶はまだ。

今日は近々ここである亜依ちゃんの結婚披露の宴席、つまりお披露目のために本家の間取りを確認しに来た亜依ちゃんについて組長さんに挨拶する段取りだ。…なんてな。それは表向き。


ホントは亜依ちゃんの護衛についてる金城鳴海かねしろなるみさんに頼まれて陰ながら亜依ちゃんの護衛についてる。

何しろ亜依ちゃんは秀一郎さんの一番の弱点だから。厄介なのは亜依ちゃんのストーカー。真嶋の若頭邸はインフルエンザで人手不足中。でなきゃいくら湯島の跡取り息子でも高校生に護衛を頼むなんてあり得ない。


「舎弟の林ですッ。」


俺の挨拶に被せてちゃっかり林まで頭を下げてやがる。警戒は厳しいし、うかうかしてると外に放り出されちまいそうだしな。


「さすがは湯島の跡取り。既に舎弟をお持ちとは。」


年取った組員に驚かれちまったが


「いや。勝手に懐かれただけですから。」


「ご謙遜を。」


俺の説明は一笑に伏された。

って。ヤバい!亜依ちゃんが船橋さんと奥の部屋に入っちまう。


「失礼しますっ!」


俺はあわてて亜依ちゃんを追った。

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