第2話 祝福されなかった子(中編)
外の状況は悲惨だった。
壊れた校舎に、ひび割れた校庭。
逃げる生徒に、奮闘する生徒。
それを襲う数々のモンスター群。
まさに混沌としていた。
「なにこれ…。なんで学園の中で魔物が発生するの?
意味わかんない…」
非日常的な光景に、ゆいは戸惑っていた。
しかし、ヴィンは適切に対処しようとしていた。
「俺もよく分からない…だが目の前のことを収束させるだけだ」
ポケットからADAMSのバッチとイヤホンマイクを取り出し、装着した。
「こちらニューマリア特殊機動警察隊SS108、狩野ヴィンディ。
現在ニューマリア学園にて、モンスターの異常事態発生。至急応援を要請します。」
すぐさまADAMSのヴィンに変身すると、イヤホンマイクから声が返ってきた。
「了解しました。引き続き事態の収束に尽力してください」
「イエス、マイマジェスティ」
「その呼び方はやめてください」
通信が終わると、ヴィンは走り出した。
「逃げ遅れた先生、生徒は早く学園の外に避難してください。
モンスターは、俺が仕留める!」
そう言い放った彼は、魔物の群れに飛び込んだ。
高度魔力怪奇生命物体。通称 魔物。
太古の昔から存在する魔力生命体で、高密度魔力生成基盤「コア」を体に入れている。
発生、生息理由も人を襲う理由も不明だが、数々の種類が確認されている。
謎多き生命体で、今も多くの研究が進められている。
そんな魔物の大群の中、ヴィンはポケットから小さなストラップを取り出し、叫んだ。
「こい。
あたり一面に風が吹き、ストラップが瞬く間に大きな槍へと変貌。
「ADAMSの名に懸けて、一掃する。風魔法「ウィンド」」
短い詠唱で風を操り、靴と槍に纏わせた。
その直後、魔物の軍勢を次々と切り裂く。
目にも止まらぬ速さで倒す様に、魔物たちもたじろいだ。
動揺は悪手。
すかさず天高く飛び、槍を構え、大群の中央に放り投げた。
風圧で魔物は四散。残ったのは戦いの跡と沈黙のみ。
「すっ…すげえ…」
「流石、最年少でのADAMS入りは伊達じゃないわ!」
逃げ遅れた生徒、先生たちからの拍手喝采。
しかし、ヴィンは顔色一つ変えなかった。
「こちら狩野ヴィンディ。校庭の魔物はあらかた片付きました。
別動隊と合流し、避難の手配を…」
イヤホンマイクに指を当て、連絡をした…そのときだった。
ドッカーーーン!
爆発とともに、壊れた校舎の中から大量の骸骨の魔物、スケルトンが出現した。
その最後尾には、校舎と同じくらい巨大な影。
骸骨の顔に、骨の百足の体躯、両手には命を刈り取る巨大な鎌。
あばら骨には赤い魔物のコア。
まさに、この有象無象の頭目の風格だった。
頭目らしき魔物が吠えると、ヴィンのほうへ一斉に前進。
ヴィンも一呼吸入れ、すぐに応戦する。
激しく散る骸骨の四肢。骨が砕かれる音。霧散する魔物たち。
一体一体は弱く、脆い。
しかしながら、物量の暴力が彼を襲い、たちまち押される構図となった。
劣勢の中、必死に対抗していたが、
彼の息が白くなり、周りに冷気が漂っていることに気が付く。
魔物も彼も背後を見るなり、その冷気の発生源を見た。
魔法陣を構えた、ゆいだった。
「一気に片づけるよ。氷創成魔法「青薔薇の花園」!」
詠唱すると、魔物の大群の下に魔法陣が形成。
氷でできた、無数の薔薇の棘がスケルトンたちに絡みついた。
その瞬間、美しい氷の薔薇が棘に咲き、対象を一瞬で氷漬けにした。
周囲の人々は、一瞬の出来事で理解が遅れ、沈黙が続いたが、
「一度で全滅しちゃったわ…」
「これがユニーク魔法か…初めて見たかも…」
「すげえぞ氷姫様!」
みんなが喝采する中、当人は自慢げ、ヴィンは不服そうながらもホッとした様子。
それを遠くから見る一人の生徒は、嬉しさと切なさの入り混じった表情をしていた。
自分には真似できない、届かない理想そのものだったから。
その喜びも束の間のことだった。
大きな影が一人の女の子を襲う。
「危ない!ゆい!」
「あれ?」
ドゴオオオーーン
舞う校庭の砂煙。
晴れて見た光景は、大鎌を振り下ろした魔物と、
何が起きたのかと呆然として立っているゆい。
ゆいを庇って校舎まで飛ばされたヴィンだった。
「「ヴィン!!」」
俺とゆいはすぐに駆け付けた。
槍と風で防御していた分、大事には至らないが、ボロボロだった。
「大丈夫か!ヴィン!」
「すまない。油断し…た…」
そのまま気絶してしまった。
再度、二人が視線を向けた先には、
どこか愉悦の表情を浮かべる骨百足の魔物がいた。
「あの中二病拗らせ百足!よくもヴィンを!食らいなさい!」
怒りのままに、魔法を唱えた。
骨百足の足元に大きな魔法陣を形成し、巨大な体躯を氷の薔薇の棘で
捕縛した。
身動きが取れなく、じたばたしているが、時間の問題。
棘に氷の薔薇が無数に咲き、一瞬にして氷像になった。
「どんなもんだい!」
完全に氷の像に変身したのを見て、安心を感じたのも一瞬のこと。
氷像が揺れ、ひびが入り、鎌の先から徐々に割れていった。
氷もきれいに落ちた、次の瞬間、
耳に響く雄たけびと、骸骨の瞳の奥を赤く光らせた。
刹那。
その体躯から想像できない跳躍力で間合いを詰め、着地と同時に二人の少年少女目掛けて大鎌を横へ振り下ろす。
間一髪で重心を下げ避けるも、校舎の木々はきれいに切断。
風を切る風圧と切断痕、愉悦の顔からの殺意に圧倒された。
これはいくつあっても足りない。命も、髪も。
「一旦引こうゆい。今髪に擦れた気がする。今後の人生に関わる可能性ありだ」
「この状況でよく冷静な顔して言えるね!でもその作戦は同意!」
最速でヴィンを担ぎ、崩れた校舎の裏へ二人して一時撤退する。
しかし…
「ねえ。ずっと追いかけてくるんだけど。私のせい?」
「誰かーーー!助けて下さーーーい!!」
逃走劇の始まりだ。
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