1章学園編 第1話 人間の国ニューマリア

桜が連なる河川敷を歩き、回りにビルが見え始めると目の前にはおおきな学園がある。


都立ニューマリア学園。あらゆる魔法の学問に精通した、国で一番規模が大きい学園で、俺たちが今年の春から通い始めた学校だ。


そしてこの都市があり、俺たちが住んでいる国の名は、


ニューマリア。


人間と亜人が共存する魔法先進国。

人口割合は俺たちヒューマンが多いが、多様な文化があるため、ほかの種族も住んでいる。

生活水準は高く、その大部分は魔法によって成り立っている。

ガスは赤魔法、電気は蓄電施設での黄魔法、緑魔法の風で空飛ぶ郵便飛行機なんて代物もある。

そんなの都会の少し離れた住宅街「マリア町」で俺たちは生活をしている。


学園の門を通り、昇降口に入る寸前、3人の男がそれぞれゆいの前に並んだ。

「好きです。付き合ってください!」

「僕が一番、愛しているよ。」

「私と永遠の架け橋を築こう!」


毎朝恒例の告白タイム。


ゆいは容姿端麗で才色兼備。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花のモテる要素ごり盛りの彼女だが…


「ごめんなさい。無理です。誰ですか?話しかけないでください」


この一言で数多の男をワンパンしてきた。

入学早々から始まり、あまりの男嫌いに「氷姫」と呼ばれる始末。


これには私も、同情の念を抱くことしかできません。おそろしや。

でも....最後のは正直無理じゃない?はっきり言ってキモイわ!


そんなアリス乙女バージョンを心で演じると、呆れた様子の彼女が帰ってきた。


「お疲れ様です。軍曹。この度も氷姫らしい良い働きぶりを感じた所存です」

「そうかアリス二等兵。二階級特進を所望か?」

「滅相もございません」


かなり命の危機を感じた。


そんなアリス殉職計画が実行される前にクラスに入り、ホームルームを始まろうとした矢先


「すみません。遅れました。」

「「おはようヴィン!」」

「おはよう。アリス、ゆい」


茶色のマッシュの髪に淡い緑の瞳。妖精の羽のピアスが特徴的な、同じ孤児院育ちの男の子。

狩野ヴィンディが息を切らしながら入ってきた。


「あれが噂の....」

「今日登校するって聞いてたけど....」

「すごいイケメン....テレビとは違うわ」


あちらこちらで声が聞こえた。

内容の通り、今日初登校の彼はすでに噂になっていた。


なぜなら、巷で噂の最年少でニューマリア特殊機動警察隊「ADAMS」に入隊した若きヒーローだからだ。ドドン!


そのため、入隊の手続きや訓練で一ケ月遅れて入学したのだ。

初めて話を聞いたときは、家族ともいえるヴィンがとても誇らしい気分だった。


そんな中ホームルームも終わり、ドワーフの先生による一限目の歴史についての講談が始まった。


「このオリンピアは太古の昔、種族間で争いの絶えない世界だったことはみんな知ってるね。しかし、なぜ終戦し、今の世になったか分かるかね」

「それでは氷崎くん。答えれるかね」


指名されたゆいは迷いなく立ち、答えた。


「はい。主に種族ごとのリーダー、十聖に起因します。彼らは当時、魔術と呼ばれていたものを魔法という、より繊細でより強力なものに変え、終戦させました。そして魔法の力で生活を豊かにし、種族の繁栄に努めました」

「その通り。正解です。よく勉強しているね」


周りからは拍手が湧き上がる。


「では次に、その魔法について、狩野くん。詳しく言えるかね」

「はい。魔法とは複雑な術式と自身の魔素量、そしてすべてを統括する脳から成り立つもので、主に色に分けられています。赤、青、緑、黄、白、黒、そして例外のオリジナルです。色ごとに得意の系統があり、赤なら火、青なら水と様々です。中でもオリジナルは特殊で、本人でしか扱えない極めて珍しい魔法で、どの系統にも属さない魔法です」

「素晴らしい。満点の解答ですね」


再度、周りからは拍手が湧き上がる。


ドワーフの先生は引き続き透明の水晶玉を取り出し、講談を続けた。


「付け加えるなら、本人の脳が魔法の元、つまりそれぞれ得意な魔法が違うことになる。それを今回、改めて知ってもらうためにこの水晶玉ラクリマを持ってきた。これは手をかざすことで本人の得意魔法の色と派生、光の輝きによる魔力量の大きさを確認できる代物だ。それでは最初に氷崎くん。やってみてくれたまえ。」

「はい。先生」


ゆいはラクリマの前に立ち、手をかざした。


すると、青く光り、回りは霜ができるほど急に寒くなった。

鼻水出ちゃうくらいには寒い!


「ほう。素晴らしい。彼女は青魔法の氷系統だね。とても珍しく、強力な魔法を持っているね。」

「ありがとうございます」


周りから歓声が湧き上がる。


「次に狩野くん。やってみてくれるかね」

「はい」


続いてヴィンが手をかざす。

すると今度は、先よりも強い緑の光を放ち、突風が巻き起こるほどの風が起こった。

失明するぞ。


「これは見事。緑魔法で風系統。そして魔力量がずば抜けて高い。ADAMSに選ばれる理由が分かるよ」

「光栄です」


再度、周りからは歓声が湧き上がる。


「手本として二人を見てもらったが、皆にもそれぞれの個性。つまり、魔法がある。それをぜひ、この学園で伸ばしてほしい。では前の席から順番に手をかざしてみてくれ」


先の先生の話で高揚とした生徒たちは次々と手をかざしていった。


魔法


一種の才能とも言えるこの能力は現代ではとても重要視されている。

扱いの有無、力量で進路に大きく関わるからだ。

至って普通、当然の理

では


その理から外れているものはどうだろう。


ついに俺の番が来た。憂鬱な気分に苛まれながら、手をかざす。


シーーーーーーーン


しばらく続いた沈黙の中、先生が言葉を発する。


「ふっ触れてみくれんかね?」

「現在進行形で触れてます」

「そうなのね....。激やばっ」


おい、さっきまでの先生らしい口調どこいった。


あまりにも気まずい雰囲気に耐えられなくなった手は、いつの間にかラクリマから落ちていた。

すると、


キーーンコーーンカーーンコーーン


「鐘が鳴りましたので、ここで授業は終了です。お疲れ様」


そういって先生は教室を出ていき、クラスの生徒は次の授業の準備を始めた。


分かっていた状況だ。しかし、避けようがなかった。

醜態を晒したことに現実逃避し、教室の窓から空を見上げる。

ハムスケも気持ちを分かってくれているのか、体を頬に摺り寄せてくる。

さすが相棒。傷だらけの心に沁みる。


雲の形何に似てるゲームでもしようとしたとき、

遠くから二つ、足音がした。


ヴィンとゆいだった。


「あーちゃん....」

「やめろゆい。持てる語彙の中でアリスにかける言葉があるのか」

「そう…だよね…。ごめんね」

「なぜゆいが謝るんだよ。誰かに迷惑かけたのか?」


冗談を言いたくて、でも上手く言えなくて。

苦笑いをした。

分かっているだろ。迷惑をかけたのは俺のほうだ。

幼馴染を前に、不甲斐無さだけが残った。


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