第6話 臨戦
「お邪魔しまーす。」
「どうぞ。」
今日も花木パパのアトリエへ。
美術系大学受験対策でここへ通うようになって数ヶ月。
花木さんは相変わらず不安定ではあるが、
今日は特に落ち着いているようで、少し安心。
いや、急変は何度も経験しているから、油断できない。
パチン、と玄関を施錠する花木さん。
いつもと同じはずが、なぜかその行為が今日は気になった。
施錠前後のタイミングの間が、そう思わせたのか。
「先生は?」
「昨日からニューヨーク。さっき電話もありました。」
「先に始めてください。コーヒーでいいですか。」
「ありがとう。じゃ先に始めるね。」
前回の続きで、静物デッサンだ。
二人、無言で課題を仕上げる。
、、、少し、花木さんの様子がおかしい事に気付いた。
ちょっと前から、彼女の作業の手が止まったままだ。
何か思いを募らせているようで、メッチャ気になるが、
気付かないふりで、作業を続ける。
「私はあなたを利用しているだけなのかもしれません。」
「!!!!?」
唐突な一言に面食らう。意味も理解できない。
「私は【試し行動】がやめられません。
誰かに愛されているか、
誰かに必要とされているか、
この世に私は存在して良いのかどうか、不安なんです。
嫌われないか、見限られないか、
些細なことを、許してもらえないんじゃないか。
本当に愛されているかどうか。怖いんです。
それで、あなたに迷惑をかけてきました。」
俺は神妙に聞いていた。
「でも、もう終わりにしたい。
終わりにするには、これしかないんです。」
彼女は、グーの左手を俺の目の前に差し出し、手を開いた。
中から、【ゴム】が出てきた。
そして、俺の胸に顔を埋め、ぎゅーっと抱きつく花木さん。
俺の覚悟が試されていることは理解した。
俺の覚悟は、本当のところ、どうなんだ!?
彼女を受け入れて、その責任は持てるのか!?
ただの高校生同士の恋愛と同じ、そんなわけにはいかない気がする。
彼女の人生を左右する、それに俺は責任を持てるのか!?
彼女をぎゅっと抱きしめた。
あぁ、嬉しいかな悲しいかな、俺の下半身はもう臨戦体制だ。
あぁ誰か、経験の浅い男子高校生には、酷な状況をわかってほしい。
この先に進むべきか、それとも。
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