第5話 覚悟
「できないことをできるっていうのは、
大嘘つきなんだよ!!!」
「違うよ、嘘じゃないよ。
俺は花木さんを助けたいんだ。」
「できないのに言うな!
この裏切り者!お前なんか消えろ!大っ嫌いだ!!!」
壁を蹴る。
カーテンを引きちぎる。
椅子を投げる。
花木パパのアトリエで、二人きり。
受験対策で、静物デッサンをしていた。
花木さんと俺との何気ない会話、のはずが、
どこかでスイッチが入ってしまった。
俺の言葉、何がいけなかったのだろう。
「お前が悪いんだぁ!!」
プェ!!!!
彼女は俺の顔に唾を吐いた。
怒りよりも悔しい。
自分が情けない。
俺は彼女の支えにはなれないのか。
彼女の心を穏やかにするにはどうしたらいいのか。
暴れ回る彼女を見守ることしかできなかった。
少しおとなしくなったと思ったら、
彼女は、四つん這いで、
油絵のペインティングナイフを床に突き立て、
カリカリと削っていた。
ナイフはまずい。
誰が傷ついてもまずい。
静かに、そーっと、彼女の前方から近づいて、
腕を伸ばし両手を広げて彼女に見せる。
敵意がないことが伝わっただろうか。
彼女は、俺の接近に気がつくと、
ナイフを両手で持ち替えて、俺に向かって構える。
俺は手を広げたまま、慎重に近づく。
ナイフを持つ彼女の両手を、
俺は左腕でゆっくりと側方に除けて、彼女の懐に入る。
そしてハグ。
「俺は花木さんの味方だよ。
決して裏切らない。
俺は美鳥を助けたいんだ。」
「うるさい!大嘘つき!!!」
花木さんは泣き叫びながら、腕を振り上げ、振り下ろす。
ナイフが俺の左頬をかすめた。
切れ味を伴うナイフではないはずなのだが。
痛みは感じなかったが、
暖かい液体が頬を伝うのがわかった。
花木さんの顔色が変わって、ナイフはカラァンと落とされた。
そして、本人も床に崩れ落ちる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、、、、、、。」
今週で、何度目なのか。
花木さんの念仏はしばらく続く。
俺も床に座り、彼女を抱きしめる。
「もう大丈夫だよ。
俺は、何もできない、情けない俺だけど、
ずーっとそばにいるからね。」
どうやら俺の覚悟は、固まってきたようだ。
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