第2話 発作
彼女の告白は続く。
「私は家族から虐待を受けています。」
「それで、私の心は壊れてしまっています。
人と接することが、上手くできないんです。
それで、これまで出会った人、みんなを傷つけてきてしまった。」
「こんな私と関わる覚悟がありますか?」
俺は、彼女と目を合わせた後、
ゆっくりとウナズイた。
なぜ、そんな返答ができたのか、自分でもよくわからなかった。
それぐらい、混乱していたと思う。
無責任にも。
「物心ついた時からなので、それが当たり前の家族の姿だと、
最近まで思っていたんです。」
「テレビのドラマやクラスメイトの話などから、違和感が明らかになって、
ようやく世間の当たり前がわかって来たんです。」
「心理学の本とか、私なりに勉強して、
冷静に状況を理解できるようになってきたけど、
気付いていないだけで、今でも間違った認識があるかもしれない。」
俺は、時々ウナズキながら、話を聞くことしかできなかった。
「母は、私に対して、強い嫌悪感があって、
ライバルに対して、いなくなればいい、みたいな思いがあるようです。
父が私に関わると、さらに母の怒りが沸騰するんです。
汚い言葉を永遠に浴びせられて、私は頭がおかしくなるんです。」
「父は、そんな母から私を守ってくれる優しい父、の時もあれば、
私の尊厳を無視して、嫌がることを強要するところもあるんです。
ただ、肉体的な、怪我をするような暴力を受けたことはありません。
男女の営みを強制されたこともありません。」
「本当は、優しい父なんです。
天然、というか、配慮がない、というか、バカなんです。」
「弟は、一つ違いの弟がいるのですが、
小さい頃は仲良しで、可愛い弟が大好きだったのに。
母が溺愛して、洗脳して、弟は変わってしまった。
私をバイキンのように扱って、母と結託しているんです。」
「もう、私は家にはいたくなくて、
今は、ここのアトリエで寝泊まりすることがあります。
父がいない時は、本当に穏やかな気持ちで休めるのだけれど、
父がいる時は、地獄の思いになることもあります。」
回想:
父親「美鳥(みどり)、またママとケンカしたのか?
泊まっていっていいぞ、ママには連絡しとく。」
父親「じゃあ、今夜はまたモデルをお願いするよ。
高1の美鳥がもう直ぐ完成するよ。
エアコンの温度上げるから、さあ脱いで。
あれぇ、前にも言ったよね、Tバックにしてよ。
脱いでも下着の跡が付いていたら、台無しだよ。
それか、ここに来る時はノーパンにするか。」
父親「もう少しお尻が大きいといいね。
ヒップアップの体操とか、ユーチューブで調べてね。
あと、ほら、またちょっとはみ出ている。
ちゃんとこまめに処理してよ。」
父親「なぁ、美鳥が彼氏を連れてくるの、
楽しみにしているんだけど、まだかなぁ。
美鳥も男を知れば、もっと綺麗になれるんだよ。
でも、ちゃんと体の周期は把握してよ。
間違いがないようにね。
お腹が大きな美鳥を描くのは、
もう少し先のお楽しみにしておくからね。」
父親は美鳥の胸にタッチする。
手のひらで、下からスクイ上げるように。
きっと、幼い子供の頭を撫でる感覚と同じなんだ。
うちの父親は、と彼女は言う。
俺は固まっていた。
「ちょっと、聞いてるの!!」
強い口調の彼女の声で、俺は我に返った。
そして、彼女は、昭和のちゃぶ台返しのように、
テーブルをひっくり返した。
飲みかけのお茶を頭から被った俺。
「き、聞いていますぅ。」
「じゃあ、言ってみて!!何言ったか言ってみて!!」
これまでの彼女からは想像できない強い口調。
「あぁ。えーっと、えーっと、、、、。」
「聞いてなかったんでしょう!!!!!」
最大ボリュームで金切り声の彼女。
彼女は空になった湯呑みを壁に投げつけた。
その場足踏みで、激しい地団駄を踏む。
「待って、ちょっと待って、ちゃんと聞いていたよ。
でもあまりにも辛い話で、ちょっと言葉が出ない。」
腕を振り回し、逆さのテーブルを蹴飛ばし、走り始めた彼女を、
夢中で背中から抱きしめて、
「ダメだよ、落ち着いて、怪我するよ!」
「離せ!ばかやろー!お前は敵だ!」
「違うよ!落ち着いて、俺は味方だよ!」
暴れる彼女を抑えるしかできない俺。
「気持ち悪い!離せ!お前が大嫌いだ!」
「大丈夫、俺は大好きだよ。」
勢いで言葉が出た。ほんと、勢いだけだが。
だが、効果があった。
彼女の動きが止まって、床に座り込み、
俺は彼女の背中を抱きしめたまま、
彼女は声をあげて泣き出した。
「わぁーーーーん!!!わぁーーん!!!」
昔のマンガの主人公のように泣く彼女。
彼女を抱いたまま、彼女の心が穏やかになるのを祈った。
つづく。
この作品には、関連した作品があります。
●「アルバイト先で運命の人と出会う」(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第7作)
●「晴子は遠距離恋愛の覚悟を決めたのに」(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第2作)
合わせてご覧いただけると幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます