side:ベル もう一人の転生者

 転生したら、乙女ゲー世界のメイドだった。



 ____ベルはとある子爵家の長女として生まれた。幼少期から、何かを忘れている気がしてならなかった。貴族として学園にも通い、そこそこの成績で卒業し、その後は婚約者と結婚するはずだった。


 だが、見事にテンプレ悪女に婚約者を奪われた。大広間やらパーティー会場やらで婚約破棄されたわけではないし、相手側から謝罪もあった。こんなこと本当にあるんだなぁなんて、自分のことなのに何も思えなかった。


 それから人形のように感情が無くなった娘を見かねて、両親が公爵家への仕事の道をつけてくれた。幸い針仕事も得意だったし、婚約破棄された傷物の令嬢にしては幸せな道だった。


 公爵家の門をくぐっても、何も思わなかった。世界はモノクロで平面的で、何の感動もない。でも、そこに居たある少年を見て、世界が色づいた。



 "セオドール・アダムス"

 優しいピンク色の垂れ目と、金色の肩まである髪。一際目を引く顔立ちの端正さ。その少年の容貌は、ベルに前世を思い出させた。


 ここは乙女ゲーム、「白薔薇姫」の世界。現実世界から召喚されたヒロインが、攻略対象達と絆を深め、魔王を倒す。三十代OLだった私が前世で一番ハマっていたゲームだった。


 でも私が転生したのは、主人公じゃない。ただのモブだ。思い出したはいいが、モブの私に出来ることなんて何も無かった。


 ただ、変わったのは。


 「セオドール様、今日もお顔が麗しい…でゅふふ」

 「フォーー!!!ノア様の憂いを帯びた顔美しー!!!!」

 「ミカエルさんは推すしかねぇだろ。」


 イケメン好きなのも思い出したので、人生が楽しくなった。幸い公爵家には種類の違うイケメンがぞろぞろいらっしゃった。


 中でも"推し"になったのは、ミカエルという人形の上司だった。こんなキャラ、原作に居なかった気がするけど、まぁ顔が良いからいいか。


 原作でならヤンデレ筆頭だったノア様の執着は、そのミカエルさんに向かっているようだった。だから私は、全力で二人を応援することに決めた。ベルは様々な属性を持つオタクだったのだ。


 「ベル」

 「セオドール様!いかがされましたか?」

 「あのさ、庭見に行かない?」

 「へっ?あ、え喜んで!!!!」


 ベルは今日とて、イケメンに興奮して鼻血を出し、仕事をして、たまに恋をした。そしてようやく思えた。


 「転生して、よかった」

 

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