第6話『お風呂とあんパンとロックンガール』



「あれ……なんか寒い……です?」



 なんとなく肌寒さを感じて目を開けると、私は下着姿でソファーの上に寝かされていた。


「な、何で下着姿なんですか!?」

「あ! モモカ、目が覚めた?」


「か、カオルくん!? もしかして、私の服を脱がしたのって……」

「うん、ボクだよ」

「はわわ~っ!」



 どどど、どうしましょう!? いくらカオルくんがイケメンだからって、そ、それはまだまだ早すぎるのでは!?


 で、でも……これから一緒に住むのならいつかはとは思っていましたが……



「ゴメンね。いつまでも汚れたままなのはよくないかと思って、服だけ脱がして勝手に洗濯しちゃった」

「……あ!」



 そこで、私が自分がカオルくんの料理を吐き出して気絶してしまったことを思い出しました。


 どうやら、カオルくんは善意で私の衣服を洗うために脱がしてくれただけのようです。



「そ、その……すみません。せっかく作って頂いたお料理なのに……」

「いや、いいんだよ。ボクの方こそ、ちゃんと食べられるとは言え、ドブの魚と雑草のスープは流石にビックリしちゃうよね」


「あは、あはは……」



 吐いてしまったとはいえ、あれは本当に食べられるものなのでしょうか……? 確かに、味は美味しかったですが……



「それより、いつまでもその恰好は寒くない?」

「は、はうっ!」



 そう言われて、私が未だに下着姿なのを思い出し、とっさに自分の身体を抱きかかえました。



「ちょっと、お……お風呂に入ってきましゅ!」

「う、うん……行ってらっしゃい」



 うぅ……カオルくんにだらしない体を見せてしまいました。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「モモカには悪いことをしちゃったな……」



 あの後、お風呂に入った彼女を見送り、ボクはさっきのことを一人で反省していた。



 昔から、ボクはお金が無くて野宿すことがよくあったから、ああいう料理は食べ慣れていたんだけど……どうやら、彼女にとっては吐くほど不味かったらしい。



 うーん、吐くということは味だけでなく匂いも酷かったのだろうか?


 だとしたら……その匂いに気付かないボクも臭いのでは?





 そう言えば、ボクも今日はまだお風呂に入ってないし……そうだ!








「――ということで、モモカ。ボクも一緒にお風呂に入っていいかな!」

「入っていいわけないじゃないですか!?」



 そんなわけで、お風呂にタオル一枚で突入してきたボクを見て。彼女は両手で身体を隠しながら真っ赤な顔で大反対した。



 えぇ……女の子同士だから、裸の付き合いで仲良くなれたらいいかと思ったけど……。



「と、とにかく体を……かかか隠してくだしゃいっ!」

「え、あ……ゴメン」



 そう言われて、ボクはハンドタオルで自分の下半身だけを隠した。


 まぁ、彼女の身体と見比べたらボクなんか……ね?



「な、何でこっちを見るんですか!?」

「いや、良い体だなぁと思って……」


「け、ケダモノですぅ!?」



 それに比べて、ボクの胸は見事な真っ平らだ。


 うん、悲しくなるからこれ以上は彼女の身体を凝視するのは止めておこう。



「ゴメンね」

「そ、そうです! こ、こういうのはまだはや――」


「じゃあ、ボクは体だけ洗うからモモカはゆっくり湯船に入ってて」

「どういうことですか!?」



 彼女は一体何をそんなに驚いているんだろう?



 もしかしたら、お互い裸ということで少し緊張しているのかもしれない。


 だとしたら、ここはお互いの身体を洗いながら、女子トークでモモカの緊張をほぐしてあげるべきだろう!



「モモカ、よかったらボクの身体を洗ってくれないかい?」

「ダメに決まっているじゃないですか!?」


「ボクのも洗っていいからさ?」

「か、カオルくんのを――っ!? そ、それでもダメですぅ!」


「えぇ~、何で?」

「理由を言わないと分からないんですか!?」



 うん、全く分からない……何故だろう?



「ぎゃ、逆に何でカオルくんはそんなに……せ、積極的なんですか!?」


 何でって、それは――


「できれば仲良くなれたらと思って……」

「そ、それは、仲良くなりすぎではないでしょうか!?」

「……でも、ボクはモモカともっと仲良くなりたいと思っているよ?」

「そ、そうなんですか……?」

「うん、モモカは……嫌?」

「し、しょれは……」



 すると、モモカは顔を茹でダコのように真っ赤に染めながらお風呂場で叫んだ。




「ま、また今度よろしくお願いひますぅ~っ!」





 どうやら、一緒のお風呂に入るのはまだ早いようだった。






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