第二十二話 もう一人の転移者①

──???視点──



 覆っていた目をゆっくりと開けると、そこは僕の見知った世界とは遠くかけ離れた世界……というより、場所だった。


 理解が追いつかず、辺りを見回すと近くに二人、僕と同じ顔立ちである「日本人」と思われし人達がいることに気付く。


 僕達の周りを囲うようにそびえ立つ黄金の壁面。天井を見上げれば、色とりどりの装飾が施されたシャンデリアのようなオブジェが印象的だ。


 他の二人も自分の身に何が起こったか分かってないような状態で、視線が慌ただしい。


 その二人に声を掛けようとすると、上の方から太い声が聞こえてきた。


「召喚されし勇者達よ。汝等には、これより宿命を背負ってもらう。自らに宿る力を用いて、もうじき再来する『厄災』に備えよ」


 その唐突な物言いに、僕は困惑と動揺を感じながらも、口を開いた。


「お言葉ですが、ここは何処で、貴方は誰なのですか?それに、僕達は今、何一つ分からない状況にあります。『災い』と言われましても、何をどうすれば良いのか理解しかねます」


 失礼の無いように、姿の見えぬ声の主に対して自身の主張を述べる。

 不安こそあれど、それを隠し、はっきりと聞く。


「失礼、私は此の『ヴェールハイト王国』の国王、『カインツ・ギルヴァイン三世』である。汝等を召喚するよう命じたのはこの私だ、まずはその非礼を詫びよう。その上で、誠に勝手ながらも汝等に願いたい。我が国の騎士団に入り、この国を『災い』から救う剣となってほしい」


 いきなり改まった態度に一瞬気が緩むものの、それでも完全に状況を把握した訳ではない。こちらの不安を悟らせずに、必要な情報を聞き出さなければ……。


「えっと……具体的にはどういった方法で、この国を守れと言うのですか?『災い』とは一体何なのですか?それらが分からない以上、僕達も手の打ちようがありません」


 隣の二人がぎょっとしたように僕を見ているが、構わず言葉を続ける。


「それに、僕は元居た世界に帰りたい。召喚されたという事実は認めますが、ちゃんと帰れるという確証が無ければ協力することも出来ない」


 言葉の節々に震えがあるものの、言いたいことは全て言い終えた。あとは答えを待つのみだ。


「汝等にはそれぞれ、『ユニークスキル』と呼ばれる特殊な能力と独自の『剣術』が刻まれているはずだ。その力で『災い』……いや、来たるべき『大戦』に向けて備えてほしい。そして、帰る方法についてだが、全てが終わった時に───ということにしてもらえないだろうか?」


 僕はかなり迷った。

 一番欲しい情報は隠されたまま、声の主の言う事を聞いても良いのだろうか、と。


 沈黙が流れる中、隣にいた二人の内、背の高いスクエア型の眼鏡を掛けた男が初めて口を開いた。


「その、『ユニークスキル』とやらはどう確認すればよいのだ?」


「自身の左手を前にかざし、ステータスオープンと口にするのだ」


 僕は、その言葉に従い、左手を前に出して言った。


「ステータス──オープン!」


 独特な電子音と共に、手のひらからホログラムのようなものが飛び出ていた。

 そこには自身の名前、種族(僕の場合は『人間』)、そして───スキルの欄があった。


 僕の持つ『ユニークスキル』の欄には『統べる者』と書かれてあったが、それが何を意味するかはまだ分からない。

 異様な光景に唖然としつつも、本当に異世界に来てしまったのだという実感が再度現れる。


 他の二人も同じように異様な光景を目にしたようで、お互いに目を見合わせる


「……本当に、帰れるのだな?」

 

 背の高い方の男が、天井に向かって高らかに声を上げる。


「それは約束しよう」


「ふむ………どうする、昌佳?」


 もう一人のひょろっとした丸眼鏡の男に声を掛ける。


「えっと、殿がいないことに関してはかなり疑問ですが、まあ戻れるというのであれば、協力するというのも悪くはないかと……」


「了解した。───おい、そこの者!異論は無いな?」


 突然僕に向かって、言葉を投げられた。


 僕は咄嗟に「う、うん……」と言ったことでその場は一旦お開きとなり、その黄金の部屋から解放されることとなった。


 しかし、あの丸眼鏡の男が口にしたという名前……。どこかで聞き覚えが……。



=====



 彼らは海崎雪人と新藤昌佳と名乗った。どうやら、僕と同じく怪しい石の光によってこの空間に引き込まれたそうだ。


「僕は学校の帰り道にあの石を見つけたんだ。それで、触れてしまった。意識が途切れ途切れになって……気付いたらここにいた」


「小生らもそのような形でここに来ました。しかし、この世界はいわゆる『剣と魔法』のあるファンタジー世界、という認識で間違いないのでしょうか」


「まあ、こんな風景見せられたら信じるしかないよね……」


 そう、僕達の目の前に広がっていたのは、まさしくゲームや小説でよく見るような中世のファンタジー世界そのものだった。

 木造や石造、レンガ造りの建物、道行く人々や馬車、市場や巨大な水門、城壁……それは誰もが一度は夢見る世界であった。


「凄いな……」


 思わず感嘆の声を漏らす。


 ここ、フィルネア大陸の中央部に位置する『ヴェールハイト王国』の王都である『レグニス』は人口、物流、技術、全てにおいて世界でトップクラスの水準を誇るそうだ。


 先ほどまで僕達がいたのは、この王都の中心部にある『グレイリア城』の儀式場だそうだ。そこで異世界から勇者となる者を召喚するそうなのだが、それ以上の事は教えてはくれなかった。


「貴様は、これからどうするのだ?例の騎士団とやらに入るのか?」


 海崎君に言われ、僕は一瞬答えに詰まった。

 本当に王の言葉を信用しても良いのだろうか、そんな気持ちが僕の胸に燻っていた。


「君たちは、どうするんだい……?」


 自分の答えは出ないまま、逆に聞き返す。もし、この人達と騎士団に入るのであれば、同じ世界から来た者として安心できる。


 しかし、僕の求めるような答えは帰ってこなかった。


「吾は元の世界に戻る前に、この世界を知っておきたい。騎士団に入るよりも、ギルドとやらに入ろうと思う」


「小生もです。ギルドなど、ヲタクからすれば興奮せざるを得ませんぞ!折角の異世界……それに小生らには『力』もあるのですから、元の世界に戻るのはそれからでも遅くはないでしょう」


 二人はどうやら、この国にあるギルドに加入することにしたらしい。


 しかし、僕は一刻でも早く元の世界に戻りたいという思いから、一番確実な手段である、王都お抱えの騎士団、『白龍の紋章』に所属することを決めた。



 騎士団に入団するには、幾つか満たすべき条件がある。


①国が直接運営をしている養成所に通い、卒業すること。


②騎士見習いとして、現役の騎士の下で修行を積むこと。


③最終入団試験で合格し、正式な騎士と認められること。



 以上の三つが、騎士になることの条件となる。



「───で、ここがその学校ってわけか……」


 『アルメダ学院』。僕がかつて元の世界で通っていた高校よりも、遥かに大きく、全体的に白で統一された学園である。

 ここが、僕が騎士への第一歩を踏み出す場所。今日からは、この学院の寮で生活することとなる。


 絶対に、元の世界に帰る。絶対に……

 を一人にしてしまうのは、僕にとって許されないことだから……



 元の世界に戻れる方法を王から聞くために、僕はこの学園に入学し、騎士となることを決めたのだった。

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