第十二話 環境破壊兵器
やばい。
体が、動きません。
「流石に短時間とはいえ、全出力での斬撃と刺突は体が死ぬぅ……」
仰向けの態勢で、視界には真っ赤な空が浮かんでいる。
辺りに舞っている草花をぼんやりと眺めている状況ではないのに、俺はそうすることしか出来ない。
「リル、大丈夫かな……」
あのデカい大口花、美しい見た目の裏に、かなり危険な香りがしていたし、心配過ぎる。
けど、リルならきっと大丈夫だという確信もある。
体を鍛え始めて、それなりに動けるようになってきたと思っていたが、まだまだだった。
そりゃ、リルみたいに剣一本の人生を送ってこなかったから、というのもあるがそれはただの言い訳だ。結局は、俺の力不足が招いた事なのだから。
鉛のような体を無理に起こし、つい先程までヘビの体躯を成していた塵が舞っている様子を眺める。
こんな凶暴な魔物が街や村を襲っていたらと思うと……ゾッとする。
ともかく、ここで無為な時間を過ごしていてもどうにもならない。
しかし──
「毒がかなり効いてる……こいつはまずいな」
ヘビ本体は倒したが、出血毒は残ったままだ。
体中から血が滲み出てるし、眼は充血して世界が
こんな状態で加勢に入っても、足手まといにしかならないのは目に見えている。
「それでも……」
どこかの機動戦士のパイロットのように、俺は言う。
彼女に恩返しがしたい。それだけの動機だけど、それでも……。
力もまともに入らない足を引きずって、俺はもと来た方向へ歩き出す。
実際、ヘビに捕まって移動していた時間はそう長くはなかったから、まだ
ならば……
「アレ、使うか……」
出発前にリルから貰った薬がある。
しかし、それはカプセルや錠剤とは全く違う──というよりも、その姿形はまさに「草」そのもので……。
『これ……苦くて美味しくないんだけど、もし毒を持ってる魔物と遭遇して、毒を受けたら使って……』
その言葉を思い出し、俺は服のポケットから袋を取り出した。
袋の口を緩めると、中から物凄く強烈なニオイが漂い始めた。
「やべぇ……ニオイだけで吐きそう……」
先ほど「草」と形容したが、それはかなりオブラートに砕いた表現だ。
実態はというと、「ジャ◯アンシチューを固形化したような何か」と言った方が適切だと思うぐらいの色合いをした、奇妙過ぎる形の未確認物体である。
なんでこんなもの持ってるんだよ、リル……。
それでも、俺は今の状態を少しでも緩和するために、それを夢中で口の中に放り込んだ。
「うっ……オエッ、、ゴクン」
………………。
まっっっっっっっっっず。
だけど、「良薬口に苦し」の法則のとおりだ。
出血が嘘のように止まって、体の強張りもかなり軽減された気がする。充血していた眼前の世界も元の色合いを取り戻し、俺はもう一度動けるようになっている。
ありがとう、リル。
心の中でそう言い残し、俺は運ぶ足を加速させる。
「 【
色も薄く、光量も少ないが、最低限の身体強化と、耐えられるくらいに留めた筋肉不可。持続性と耐久力に富んだ出力だ。
「今行くでござるよ……!リル殿!」
=====
そして───彼女の美しい白銀の長髪が揺れていることに気づき、深い安心を覚える。
だが、それと同時に俺なんかが加勢しても大丈夫だろうか、という不安も込み上げてくる。
遠目からだが、
そして、長い
リルの技とはまるでリーチに差があり過ぎる。
速く、もっと速く。
無我夢中で駈ける俺は、無意識に
そして────
「申し訳ないでござる!遅れ申した!」
「──!?シュウマ……?」
ようやっと、彼女と合流することが出来た。
彼女は驚きを
「ヘビは成敗してきたでござるよ!」
「凄い……でも、無理……してない?」
「平気でござるよ!さぁ、この大口花も成敗して、村に帰るでござる!」
「………うん」
どこか腑に落ちない様子の彼女の目の前で、俺は一昨日のようにVサインを作ってみせる。
彼女の前で格好つけるためならば、痛みなんて軽いもんだ。
「うん……!」
どこか吹っ切れたようにそう頷く彼女と俺は、もう一度
「シュウマ、あいつの花粉には爆発する性質と、速乾で固まって拘束させる性質がある……」
「本当でござるか!?厄介な花粉でござるね……」
「うん……それに、あまり時間を掛けると、周りの植物や地面から栄養を吸収して成長と回復を繰り返す。だから、短期で終わらせないと」
「作戦は?」
「あいつは魔物だけど、ベースが植物だから本体は" 氷 "に弱いはず……だから、時間を作ってほしい……」
「承知!」
俺たちは、奴を双方から挟むようにして走り出した。
俺が先に加速し、奴の注意を引くように立ち回る。
迫る無数の
「 【閃光剣術:
『妖刀』を模したその技が、名に恥じぬ光の斬撃を生み出し、行く手を阻む障害物を容赦なく叩き切っている。
だが、奴の体は一瞬で再生する構造らしく、次から次へと蔓を伸ばし続けている。
「
その様子を嘲笑うかのように、花弁中央に据えられた大口が粘液を垂らしながら微笑を浮かべている。
「そうやって余裕ぶっていられるのも、今の内でござるよ!」
少しの苛立ちを含んだ言葉を放つ。
実際の所、俺の体力はとうに限界を迎えているのだが、相手に弱さを見せるのは『負け』を認めるようなものだ。それだけは絶対にしたくない。
本体に近づくにつれ、蔓の攻撃が更に密度を増してくる。
しかも、長い蔓の間に短い蔓を用いて、より読みにくい攻撃が繰り出される。
「……ュウマ、上……避けて……!」
「え……?」
後ろから、リルが俺の背中に向かって声を掛けてくるのが聞こえる。
言われたとおり上を見ると、そこには花粉が濃い霧のように舞っており───
空中に漂う花粉が一点に吸い込まれるように集まり始め、極限まで凝縮されて巨大な『塊』となり、一気に粉塵爆発を起こした。
「─────ッ、そんなのアリでござるか!?」
ギリギリのところで
「遠距離、近距離どちらにも対応出来る広い射程距離、それに兵器並の破壊力……確かに『禁足地』のボスとしては上等な敵でござるね……!」
しかも、再生可能な無数の蔓による連撃。
高速かつ広範囲を対象とした技が求められる。
俺の体力はあと僅か。身体強化しているとはいえ、持続力もほとんど残ってはいない。筋肉は破裂し、骨が瓦解するのも時間の問題である。
改めて『短期決戦』を目指さなくてはならなくなった。
───これは、今までの鍛錬で、ベストコンディションでさえ一度も成功したことが無い。謂わば" 奥義 "。
「リル殿!少し離れてほしいでござる!その後は……頼むでござる!」
その言葉を一瞬で理解したかのようにリルが後方で待機し、俺は覚悟を決める。
「 【
その技は、まさしく『神』を体現する技。
世界を照らし、光そのものを生み出す。
その姿を、敢えて一言で言い表すならば──『太陽』。
その『神』の名は───
「 【閃光剣術:
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