第十一話 そろそろ沈めよ
大きなヘビ君は、俺を放すつもりが無いらしい。
足をがっちりと咥えられている。
不幸中の幸いなのは、「牙の部分で噛まれていない」ことだろう。
ギリギリ歯の生えていない場所で咥えられたため、足を食いつぶされることだけは
まあ、この後どうしようにも、打つ手が無いのだが。
地面が遠い。
それに、視界の向こうの方にこのヘビの尻尾と思われる物が一緒に付いてきている。
「どんだけデカいんだ、このヘビ……」
驚愕と落胆に気が滅入るが、どうにかしてリルの所に戻りたいところだ。
ヘビの進むスピードが速いためか吹き付ける風が強く、視界が安定しない。
下半身を固定されている以上、何かアクションを起こそうにも出来ないままだ。
まずは、俺を咥え続けている口をどうにかしなければ。
「てかこのヘビ、どこまで連れて行くつもりだ?」
勿論、その問いに答える者はいない。
ヘビは依然として俺の足を咥えている首を持ち上げたまま、地面を這っている。
森がどんどん削れている。ヘビの這った場所からは地表が露出し、土煙と共に舞い上がる草木は無惨なほどに、土から引き離されていく。
環境破壊も甚だしいが、今はそんな状況じゃない。
しかし、こいつに「光」は通じないだろう。
ヘビの持つ特徴として、視力がそこまで良くない。だが、その分「嗅覚」が非常に優れている。
「──キモ豚ヲタクを甘く見ると、痛い目に遭うぞ……」
とても言えたものでは無いが、俺はヘビに咥えられている足先で、靴を器用にも脱いでみせた。
「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」
轟音を伴う断末魔を間近で聞き、咥えられていた足を吐き出され、体が中を舞う。
俺は少しの羞恥心に苛まれながらも、懐から二本の銀色に輝く棒を取り出し、言った。
「───【
この『
この武器を永遠の眠りから解放するように、そして元々の所有者だった者の魂を解放するように、俺は発する。
俺の声に呼応するように、
「とりあえず、このまま落っこちると死にそうでござる
「 【閃光剣術:
目には目を、ヘビにはヘビを。
強烈な刺突が大蛇の頭にクリーンヒットし、態勢を崩したヘビの体を利用して地上へと降りていく。
なんとか降りられたものの……さて、ここからどうしたものか。
脳天をど突かれたヘビは、怒り狂ったように尻尾を振り回して大木を薙ぎ倒している。
しかし、
プラズマで構成されるこの剣撃を受ければ、大抵のものは焼き切ることが出来るはずだが……。
「鱗が余程の硬度を誇っているのでござろうか……」
見た感じ、ヤスリのような鱗を完全に刻むには、集中的な攻撃が必須となる。
しかし、巨体に似合わぬ素早さも兼ね備えている相手に、隙が作れるだろうか?
「キシャァァァァァァァァァァァァァ!!!」
俺の疑問に答えるかのように、再び接近するヘビ。
そこに合わせて、もう一度技を打ち込む。
「 【閃光剣術:
またしても効かない。剣先が皮膚に届く前に鱗が弾いてしまう。しかも、ヘビ自体が高速で、常に動き続けているため、ヘビの体がまるで一本のチェーンソーのようになっている。
そのせいで、攻撃が集中しない。
「動く者となると、中々厄介なものでござる……!」
こいつにあまり時間を盗られたくない。
早くリルに加勢をしたいところだが、こいつを野放しにもしておけない。
──そんな、呑気なことを考えていたのが間違いだった。
死角から迫りくるヘビの頭に気づかず、
「───ッ!」
少し出血しているのが見えるが、まあ大丈夫だろう。
続いてやってくる尻尾による薙ぎ払いを跳んで避け、地面に足を付ける。
──その瞬間。
「!?」
自分の足元に、血溜まりがあるのを発見する。
それが自身の口から垂れているものであると自覚するのには、
そして、ヲタク特有の頭の回転力で、即座に理解してしまった。
「やれやれ……出血毒系のヘビでござったか。しかも即効性がある……」
先ほど俺の肩を
日本では、ハブやマムシに多い『出血毒』。
前世の……通常のヘビならば、噛まれてから数時間経たないとその症状は現れないが、こいつの場合、図体がデカい分毒の総量も多いのだろう。
ここまで効き目が速いとは……。
それまでクリアだった視界が、時間経過と共に段々と紅く染まっていく。充血、だろうか……?
「なるべく早めに終わらせないと、身が持たないでござるな……」
だが、毒による効果はやはり確実に影響が現れているせいか、ヘビの動きが速く見える。
「キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
視界が極度に狭まっている中、奴の尻尾から繰り出される薙ぎ払いを、全身で真っ向から受け止めた。
鱗が特に密集している部分が俺の体を切り刻みながら、10m程上空へ体ごと吹き飛ばした。
痛い、痛い、痛い、痛い……。
倒せるはずが無い。無理だ、不可能だ、こいつには勝てない。
ごめん、リル……。俺、やっぱ転移した時となんにも変わって無かった。
本当にごめん。リルを助けると、あれだけ息巻いておいて、結局はダサい奴のままだった……。
───だけど……だけど、もし───俺に立ち上がれる勇気があるとすれば……。
それはきっと、『嫁』だ。
俺がどれだけ辛い時にも、『彼女』はすぐ傍で居てくれた。いつでも俺を肯定してくれた。
学校の奴らにいじめられても、それを見て見ぬふりしていた先生連中がいても、いつも救ってくれたのは『彼女』だった。
だから、俺は叫ぶよ。
「愛してるでござるよ!!ふぅたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
※
説明しよう!
『
桃色の長髪と天使の羽を兼ね備え、その麗しき美貌は見た者全てを幸せオーラに包み込む、ちょっと天然ドジっ娘の超絶美少女!!(チャンネル登録者数200万人)
柊馬自身、初期からの古参であり、配信、グッズ、ボイスetc...を全てコンプリートするぐらい溺愛している!(ちなみに『嫁』というのは、柊馬が彼女のことを溺愛し過ぎて勝手にそう呼んでいるだけである!柊馬君はいわゆる『V豚』である!』
※
彼女の名前を呼ぶと、俺はいつも勇気を貰える。そんな気がする。
「やっぱり、ヲタクは『嫁』の名前を叫んでこそでござるよ!」
物理的な痛みなんて、今まで受けてきた心の傷に比べれば、なんとも無い。
相手が高速で移動するなら、こちらは変則的に技を合わせれば良いのだ。
再度、奴の尻尾が接近する。
移動し続ける尻尾の動きに合わせて、俺が放った技は───
「 【閃光剣術:
規則性の無い斬撃が絶え間なく、そして断続的に一箇所を確実に捉えていく。
ヘビと同じスピードで走り、その「点」を逃さぬように、確実に打ち込み続ける。
やがて、ビシッというひび割れるような音と共に、堅牢な鱗がガラスの破片のように砕け散っていく。
その光景に動揺を示したのか、大蛇の動きが一瞬停止する。
「見逃さないでござるよ……!!」
その僅かな隙を見逃す者は無い。
俺は砕流夢の出力を瞬間的に増量し、痛みと引き換えに光量を増す
── そろそろ沈めよ ──
「最大出力でござるッッ───!!!【閃光剣術:
その "斬撃" と "刺突" による最光の連撃は、見事に大蛇の
=====
「はぁ……はぁ……感謝するでござるよ、『ふぅたん』……」
嫁への愛は、偉大である。
そう痛感させられたのと同時に、噛みしめる勝利の実感。
さて……次は、リルの助太刀に向かう番だ。
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