第六話 光る棒、そして招かれざる客
前世で使い続けたその文字──日本語がその石碑に刻まれている光景を前に、俺は一瞬だけ至高が停止する。
「読める?」
リルに聞かれ、我に返る。
しかし、異世界人であるとリルには未だ伝えていない。どう言えば良いものか。
「……なんて言えば良いのかな……これは、俺の国で使ってる文字だ」
よもや、この世界に『日本語』なるものが存在するはずがない。
──となると、考えられる可能性は一つ。
「他の転生者が居た……か……」
俺はもう一度その石碑に向き直り、文字の配列を見る。
そこには、こう書かれてあった。
── 我、此処に眠る。……いや、死にたくねぇ!なんで異世界で、ここまで登り詰めたのに死ななきゃ行けねぇんだよ!?マジで最悪だよ。あーあ、剣の道とか極めるより正直に嫁さん貰っときゃ良かった……。でも、良い人生だったとは思う。自分には取り柄も無かったし、前世ではチー牛で陰キャだったから、この世界ではそこそこ活躍出来たと思う。魔王も倒したしな。だけど、自分はどうやら強すぎる能力のせいで国から消されることになってるらしい。所属していたギルドからも追われる身だ。多分返り討ち──には出来ないだろうな。だから、次この世界に召喚される者達に自分の魂を託したいと思う。自分の、せめてもの生きた証として。今、これを読んでいる場所から右に5歩、後ろに7歩行った所の床に切れ目がある。そこに魔力を流し込め。自分の生涯の形を具現化したものが眠っている。それを手に出来るのは自分の魂が認め、呼応し合える奴だけだ。向こうで待ってるぜ、兄弟。 ──
その文面を見て、俺は無意識に涙を流していた。この世界にもいたのだ、俺と同じ『ヲタク』が。
「どうして、泣いてるの……?」
「ごめん……ちょっと、感動で……」
でも、もう彼はこの世界にはいない。どうやらめちゃくちゃ強かったらしいけど、国としては強すぎる人間がいつ自分たちに牙を剥くか分からぬ、恐怖の対象でもあったのだろう。
一通り読み終えたが、リルにはどう話せば良いだろうか。未だに彼女には俺が異世界人だということを明かしていないが、仮に「異世界人だ」と言ってしまうと、俺はどうなってしまうのだろうか。
彼女を疑うわけではないが、状況的には慎重に行きたいところだ。
とりあえず、彼女には「強い人が、強い武器をここに残していった」と、どうにか誤魔化すことにした。
「凄いね……やっぱりただの遺跡じゃなかった……魔物も強かったし」
そんなやばそうな魔物を全滅させられる貴方も十分凄いと思いますがね。リルさん。
俺は石碑の指示通りに右に5歩、後ろに7歩進んだ。
足元を覗くと、確かに不自然な切れ目があった。
「リル、ここに魔力を流し込むことって出来る?」
「ん、出来る」
彼女が俺の指差した場所に手を当て、力を込める。
バチッ
電撃が空間を走り、切れ目から幾つもの光線が放射される。
切れ目が大きくなり、地面に亀裂となって刻み込まれてゆく。
地面が裂け、埋め込まれていた「それ」が姿を現し始める。
そこに眠っていたものは───
「え……?ペン、ライト……?」
ちょっと待て、ちょっと待て。
強い人が残す武器って常識的に考えて、伝説の職人が鍛えた剣だとか、物凄いレア素材で作られた杖だとか、そういうのを想像するのが普通では……?
一応、触り心地としては鋼か鉄で作られていそうだし、プラスチックでは無さそうだが……。
しかも、ちゃんと二本で一対だ。やけにヲタク魂を燃えさせるな、これ。
「これ、なんだろう……」
ペンライトの存在など知る
「シュウマ、下がって……危ない物かも……」
彼女の気遣いに乗じて、後ろに下がる。
リルがそれにゆっくりと手を伸ばした途端───
バチッ
またも電撃が走り、まるで拒絶するかのように彼女の手を弾き飛ばした。
「おい!大丈夫か!?」
彼女の元に駆け寄り、声を掛ける。
リルはびっくりして一瞬遠くを見ていた。いや、電撃が走って、びっくりで済む方が凄いと思うが。
「これ、危険……」
警戒するようにペンライトを睨み、俺に忠告してくれる。警戒している姿も可愛い……。
彼女の警告はありがたいが、ここまで来て何も無しは流石に忍びない。
「あんまり触らない方が……あっ、シュウマ……だめっ──」
彼女の警告を無視して俺はそれに手を伸ばす。
電撃は怖いが、これを作った人がもし本当に「ヲタク」であるならば、その魂と呼応し合えるはず…。
…………………
「電撃が……来ない……?」
うおおおお!!掴めた!握れる!
先人の残した武器を手に取れることに、少しの達成感と気の高ぶりを抑えられずに、新しいおもちゃを買ってもらった子供の思わずガッツポーズを取ってしまう。
「シュウマ……凄い……」
「だろ?俺にかかればこんなもんよ」
見たか、全ヲタクよ、我が同志たちよ。
俺は異世界でペンライトを手に入れたぞ。
しかし、ここで一つの疑問を抱く。
「……これ、どうやって使うんだ……?」
────────────
ダンジョンの帰り道、俺はどうやってもこの武器の使い方が分からなかった。
振っても叩いても何も起こらない。
「これじゃ、ただの棒じゃねぇか……」
「え……?それってただの棒じゃないの?」
違う、違うんだよ、リル。
ペンライトってのはな、光ってこそなんぼなのだよ。
光らぬペンライトはただの棒なのだよ。
とにかく、持ってさえいれば、そのうち使い方が分かるかもしれない。
「家宝は寝て待て」だ。
ダンジョンの出口が見えてきた。元来た場所に戻るのだが、太陽の光には謎の実家のような安心感がある。
だが、外で待ち受けていたのは────
「は………?」
人だ。人がいる。
だが、一人や二人では無い。というよりも、複数人……いや、大勢と言うべきか。
少なくとも50人は超える。
しかも、どの顔にも有効的な色は見えない。誰もが人殺しの目をしている。
嘘だろぉ……、絶対俺らのこと殺す気マンマンじゃん。俺、戦え無いんだけど……。
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