第二話 異世界の始まりは豚さんから
木々を掻き分けて必死に逃げ惑う醜い豚と、木々を粉砕し、
勿論、前者が俺だ。
クソデカい豚さんだとは知らずに、不思議な物体をツンツンしてみて、今まさに食われようとしているのも、勿論俺のことだ。
後者の豚さんは怒り心頭、とにかく俺を踏み潰したいらしい。
完全に周りが見えずに、こちらのみに集中なさっているご様子。
てか、なんだか豚さんの数が増えてるように思えるのですが……。
森林がみるみる内に伐採されていく。環境破壊だよ、これ。
豚さんと鬼ごっこする前にも大蛇やら、大グモやら、大トカゲやらと遭遇しては、鬼ごっこを繰り広げたが……
「この世界の魔物……デカ過ぎんだろぉぉぉぉぉ!!!」
=====
と叫ぶ数時間前────
俺は木漏れ日の降り注ぐ森の中で目を覚ました。
木々の間をざわざわという音が反響している。きっと風で葉が揺れているためだろう。
遠のいていた意識が戻って来る。
……?どうして、俺は泣いているのだろうか。頬に熱いものを感じる。そんなに自由落下が怖かったのか?
何も心当たりは無い。
一瞬、光球のようなものが周りを浮遊しているように見えたが……多分気のせいだ。
一緒に転移したはずの、雪人や昌佳の姿はない。どうやら他の場所に転移したらしい。
ん?──なんだ?あいつらの安否を考えると、やけに体が強張るな。
何故か、体があいつらの事を拒絶するような……?
まあ……良いか。
とにかく、今の現状を知るほかあるまい。
そう思って、まずは自分の体を確認する。
制服。
なんだか嫌な予感がしてきたな。俺、転生が良いって言ったんだけどなー。
予感的中── やっぱりな!!
近くを流れていた小さな川に自分の姿を映してみるとあら不思議、
うん、知ってた。
結局、異世界行っても自分は自分のままだ、ってことか……。
希望は砕けたが、まあ良い。体型は変えようと思えばいつでも変えられるんだから。
などと言っている内は絶対に変わらないのが人間である。心理だなぁ。
形はどうであれ、身体に異常が無いことは確認した。
さて、これが転生ではなく転移だとしても、ここが異世界なのは間違いないだろう。なんせ日本にはこんな馬鹿デカい木は存在しない。
俺は周りにそびえ立つ、高さ30mは越すであろう巨木の群を見上げる。
「ヲタク、転移する──か……」
転移する直前に見たあの石、あの光。
どういう原理で世界を繋いでいるのか、などといかにもヲタクが考えそうな事を考えてしまうのは俺が紛れもないヲタクだからなのだろう。
少し、やってみたい事があるのを思い出した。
「ステータス──オープン!」
まるでセガ◯ターンの起動音のような独特な音と共に、自身の左手から光る文字盤が浮き出た。
【個体名】:花宮柊馬
【種族】:人間
【レベル】:1
【スキル】:翻訳
【固有スキル】:なし
【職業】:なし
あー、初期ステだ。
でも、『翻訳』があるのは安心する。この世界の言語なんて分からないし、一番手に入れておきたいスキルだ。
諸々の確認を済ませた後、俺はとりあえずの目標を「街を探すこと」に決めた。
流石に、森の中で過ごすというのはあまりにも危険すぎる。今は身の安全を最優先に行動しよう。
そんな目標を掲げた矢先──
俺は豚に追いかけられているというわけだ。
本当に、この世界の魔物は気性が荒すぎる!
毎夜毎晩、遅くまでPCに
目を光らせて突進する大きな豚さんには、獲物しか見えていないようだ。
俺はそんな豚さんから必死こいて逃げる豚さんなのだが、まあ人間の脚なんてたかがしれてる。太いし。
遂には息が切れて、脚が
あ、これ地面だわ。
そう認識した途端、また視界が変わる。
今度は青。…………青??
それが、まだ陽の高い青空であると認識するには時間が掛かった。時にしては一瞬だったが。
どうやら、大きな豚さんに制服の
体重80kgを誇るデブを軽々と投げるとは、流石の体躯といったところか。
なんて思う暇も無く、俺は盛大に地面と激突する。
顔面からいったせいか、痛みで叫びたいのに声が出ない。
俺は今きっと酷い顔になっていることだろう。元から酷い顔が、更に酷くなるとかなんの罰ゲームだよ。
リア充になりたいとかはこれっぽっちも思わなかったけど、せめてイケメンぐらいには成っときたかったな……。
ズシンズシンと地響きが近くなる。
異世界ライフはまさかの豚さんによって終わらされるのか。
「まだ……死にたくねぇぇぇぇ!!」
喉を震わせられるだけの最大音量で、みっともない事を言う。
それでも、地面に這いつくばって無言で死ぬよりは良い。せめての足掻きを見せつけてやろうじゃないか。
───────────
「 あなたは、まだ─── 死なないよ 」
どこからともなく聞こえた少女の声──それは俺の頭上から発せられたものだった。
音速で走り抜ける黒い影が、突進してくる豚に向かって行く。
目で追えぬほど速いその風は、一瞬何かを取り出したかに見えた。
光に反射した銀色の「それ」が、蒼い閃光を放った瞬間───
豚は氷漬けになっていた。巨体が丸々氷漬けに。
頭の先から尻尾まで、綺麗に。
しばらくの
白銀の鎧を身に纏い、大量の返り血を浴びるその少女は、俺の朧気な視界の中でどこか…遠くを見つめているようだった。
そして、俺は完全に気を失って……
気絶してしまったのだった。
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