秋の葬列

楠 菜央

第1話 プロローグ

 雪がとけてあらわになった横断歩道の白線は、あちこちひび割れてアスファルトがむき出しになっていた。


 毎年春になると道路の整備が行われる。白線もそのうち塗り直されるだろうと、誰もが見栄みばえの悪い歩道を踏みつけて歩いた。だが、T駅周辺の横断歩道は予算の都合か、夏になってもなおまだら模様を描いていた。


 七月某日。夜遅くまで遊び歩いていた女子高生が自宅に戻る途中、横断歩道の白線が黒く塗りつぶされていることに気づいた。


 彼女は面白いものを見つけたとばかりにスマホでそれを撮影すると、すぐさまSNSに投稿した。だが、なぜか投稿者以外にはただの白線にしか見えず。それどころかアスファルト部分が真っ黒に映し出され、誰かが「鯨幕くじらまくのようだ」とコメントを入れたのだ。


 鯨幕とは白と黒の幔幕まんまくで、一般に弔事ちょうじで用いられるもの。写真を投稿した彼女はその単語になじみがなかったようで、「くじらまく?」と返した。


 これが彼女の最後の言葉となった――。

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秋の葬列 楠 菜央 @kusunokinao

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