お風呂に入ろう

 部屋に戻った僕たちはまた本を読み始めた。

ふと気づいたのだが、勉強机の上に並べられている参考書の中に背表紙に何も書かれていないものがある。


僕はなんとなくそれが日記だと思った。

何故かはわからないが、そう確信した。


だからといって、別に手に取って内容を確認したりしない。


もし本当に日記なら、どんな内容であれ人に見られたくはないだろう。

僕はそういうとこ結構しっかりしているのだ。


ということで、彼女から勧められた恋愛小説を黙々と読んだ。


大人しい男子生徒と元気いっぱいの女子生徒が主人公の話だった。


それぞれの視点で物語が進み、幼馴染の二人はお互いのことを想い合っているのだが、勘違いや誤解があって二人とも互いの気持ちを知らずにモヤモヤした気持ちで過ごしている、という様を見せつけられる。


それがもどかしくてなんだかムズムズする話だった。

まぁベタな話だが、あんまり嫌いじゃなかった。


結局二人が結ばれたのかどうかについては読者の想像に委ねられるような形だったが、僕は多分結ばれたんじゃないかなと思う。

そうであってほしいと思った。


僕は本を閉じて鷹祭さんに言った。

「読み終わったよ。普通に面白かった」


「おぉ。そりゃ良かった。ボロクソに言われるかと身構えてたよ」

彼女は安心したように微笑んだ。


「最後、二人くっついたと思う? 僕は成立したと思うけど」


僕が訊くと、彼女はやけに真面目な顔をして頷いた。

「私もそうであってほしいと思う。君がそう言ってくれるのはなんだか嬉しいな。自信が湧いてきたよ」

「うん? どういうこと?」


鷹祭さんは気恥ずかしいそうに、頬を指でかきながら答えた。

「主人公の女の子にちょっと自分を重ねててさ。私も小さい頃から好きな男の子がいるから」


「へぇー。そうなんだ」

自分でも驚くほど抑揚のない返事をした。


「ヘェー。ソウナンダ」

という感じだったかもしれない。


別に鷹祭さんから好意を寄せられているなどと思っていたわけではないが、なんかちょっとショックだった。


鷹祭さんとは高校で初めて出会った。

どう考えても僕のことじゃない。


……。

今日は長めにお風呂に入ろう。

こんな時は物理的に心と体を温めるに限る。

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