甘いもの食べた後は

 僕は勉強机に向き合う形で椅子に座り、彼女はベッドに寝転びながら本を読み始めた。


それからは会話も無く、昨日と違って音楽を流してもいないため、静かにページをめくる音だけが聞こえていた。


時々思い出したように彼女の焼いたクッキーを食べた。

紅茶も飲んだ。

いつもよりも優雅な読書タイムだった。


クッキーが無くなると、

「なんか甘いもの持ってくるよ」

と言って彼女はいちごの乗ったショートケーキを二切れ持ってきた。


にこにこしながら机にそれを置く彼女を僕は唖然として見つめた。


「はいどうぞ~。ん? どうしたのそんな顔して」

「いや……ショートケーキってそんなポンって出せるもんなの? 僕はなんか特別なことがあった時とかにしか食べないからさ。鷹祭さんは普段から食べてるの? 太らない?」


「べ、別に私だって毎日食べてるわけじゃないし。たまにしか食べないし」


「じゃあなんで今日は二切れもあったの? 今買いに行ったってわけじゃないでしょ?」

「うるさいなぁ! 今朝買ってきたんだよ!」


「僕と二人で食べようと思ってわざわざ買ってきておいてくれたの? なにそれ可愛い」


「は? 何言ってんの? 自惚れないでよ。別に君と一緒に食べたくて買ってきたわけじゃないし。勘違いしないでよね!」


「取ってつけたようなツンデレを披露されても……。まぁいいや。おいしそうだね。遠慮なくいただきます」

「召し上がれ。私もいただきます」


久しぶりに食べたショートケーキは記憶よりも甘く感じた。


なんとなく上品な味がした気がする。

もしかしたら結構お高いやつだったのかもしれない。


僕よりも先に食べ終わった彼女が神妙な顔をして言った。


「なんか甘いもの食べた後ってさ、辛いものかしょっぱいもの食べたくならない?」

「分かる。今無性に味噌汁が飲みたい」


「踊橋君がケーキ食べ終わったら一緒に作ろっか」

「いいよ」



 そんなわけで味噌汁を作ることになった。

キッチンに移動してから鷹祭さんは訊いてきた。


「具は何を入れる?」

「あるものでいいよ」

「今あるのはねぇ……えーっと」

彼女は冷蔵庫を開けて確認した。


「ねぎと豆腐と油揚げとかかな」

「じゃあその3つにしよう」


ということで、作った。

特に書くこともない。

豆腐とねぎを切ったり味噌を溶いたりしただけだ。


リビングのテーブルに運んで二人で食べた。

鷹祭さんはひと口食べると満足そうに頷いた。


「ん~。おいしい〜」

「ほんと。美味いね」


「二人でお店とか出しちゃう?」

「味噌汁専門店?」

「うん」


「面白そう。ってか鷹祭さんって普通に料理できる感じの人なんだね。お菓子も作れるし。すごい。素直に感心した」


「ふふん。日頃から花嫁修業してるのさ」

「気が早いなー」


彼女は首を振ってからドヤ顔で答えた。

「そんなことないよ。いつ運命の相手と出会うか分からないじゃん。もう出会ってるかもしれないし」

「ふーん。確かにねぇ。じゃあ得意料理は?」


「なんであってほしい? 結婚するまでに得意になっておいてあげるよ」

「無難にカレーとか肉じゃがとかでよろしく」

「おっけー。練習しとく」


「……なに今の会話。いつの間にか僕たちが結婚することになってたけど」


「え、冗談に決まってるじゃ~ん。本気にしちゃった?」

彼女はニヤニヤしながら頬杖をついて小首を傾げた。


「危ないところだった」

「へぇー。私ってば罪な女~」

「クソが」

「想像以上にキレてる!?」


「……ちょっとドキッとしちゃったのがムカつく」

「そっか~。ドキッとしちゃったかぁ~。にへへへ。ほんとに結婚しちゃう?」

「ハッ。もう騙されないぞ」


「まぁいざという時のためにカレーと肉じゃがの練習はしとくよ」


「いざという時ってなんだよ」

「もしもってことがあるじゃん?」

「ない」

「まあまあそんなこと言わずにさ〜。うへへ」


彼女はその後、食器を洗ったり片付けたりする時もずっとニヤニヤしながら僕を見ていた。

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