12.違和感の正体、反撃
十位階の内、中級以上である第五位階魔法のフレアストライクの威力は予想以上だった。
辛うじて吸収と大防御のスキルとアリッサの防御によって余波はある程度に押さえられたが、序盤では受けては良いダメージではないフレアストライクに耐えきれず退場する者が多数いた。
「ごめん…油断した…」
序盤では魔力量が多いヘレナもまた余波の熱を諸に浴びて所々に火傷のダメージを負っており、アルスにいたっては全身に火傷ダメージを受けて動けずにいた。
(切り札は早々に使うのもアレだが、非常時だ。やむ終えない)
そう判断した俺は蓄積した魔力を治癒魔法に全振りして、後方に拡散させた。
広範囲に指定したため回復力は落ちるが、うずくまっている生徒全員を回復はさせられる。
立て直すには十二分だ。
おかげで、ヘレナとアルスを筆頭に何人かは立ち上がったが…
それでも気絶して倒れてるのが半数以上であった。
「第五位階を一撃食らってこれか…本実戦だったら半数は死んでたな」
「そうですね、それにしてもケヴィン様…」
「分かってる。何故エリザベート嬢がこんな所に…」
そう、俺の中にある違和感はそれだった。
本来ならば、エリザベート嬢はこんな実戦紛いの試験には参加できるほどの体力はない。
歩くのさえ従者の補助がなければ困難である彼女が、こんな会場にいる時点でおかしいはずだが…
と、フッと漂う魔力にも違和感を覚えた俺は、魔力の流れを探っていった。
(吸収のスキルを扱うようになってからは、自然と分かるようになったが…)
我ながらに、何やってるんだと思うんだが…
同じ魔力を吸収するにしても、魔力によっては異質な物が混じってると吸収の効率がおちたりするのもある。
例えば…「魔族」が扱う魔力だったりとか…
(魔族…あっ、そう言うことか)
魔族の単語を過った俺は異質な魔力の大元を辿っていったら、見事に的中した。
控えていたメイドらしき人物達から黒い魔力が漏れていることに気づいた。
エリザベート・ブリンケンを魔王軍に誘拐するのは事前済みだということに今一度思い知らされた。
(既に洗脳済みだったということか…ならば、これはエリザベート嬢の試運転ということか…)
その事に気づいた俺は静かに「ククク…」と笑い始めてしまった。
「ケ、ケヴィン様…?」
「舐められたものだな…ふざけるのも大概にしろよ」
どっちにしてもやってくれたことには代わりはない。
ならば、そこの変装している魔族のスパイどもに見せつけてやるか。
”吸収”の本当の怖さを…!!
「…アリッサ。お前はガイストと共に下がっていろ」
「な、何をなさるのですか?」
「”アレ”を使う。以上」
その言葉を聞いたアリッサはすぐさま行動に移り、ガイストに向かって早口で伝えた後に後ろに下がっていった。
ついでに、腰を抜かして動けずにいたネリスをヘレナとアルスの二人が抱えて下がっていくのも確認できた。
あとは、普段から填めている金属製のリストバンドを外し、”吸収”の力を更に増幅させた。
「お、おい…ケヴィンの野郎。何するつもりだ?」
「さ、さっきから空気が重苦しくなったんだが…?」
空気の流れが変わるほど、今の俺の”吸収”は何でも吸い込む状態になった。
それが相手の”生命力”だろうと…
「…?」
魔族の魔力で目を赤くさせたエリザベート嬢からすれば、膨大な魔力による膜によって何が起きてるのか分かってはいないだろう。
だが、あんたのその無知な傲慢な態度には、いらつくものしかない。
「何より、その態度で相手を怪我させるどころか、大量殺戮もするのだからな…これはそのあんたへの報復の一つだ」
そういって、俺はエリザベート嬢に向けて手を翳したあと、”吸収”のスキルをフル出力で発動させた。
「”吸収”から編み出した必殺の一つ…『ライフスティール』!!」
ライフスティール。
その技の能力は相手の生命力の一部を魔力ごと削って吸い取る荒技で、吸い取られた相手は削られた生命力の反動で気絶させる必殺である。
生命力が強い人間の場合、少し削られた程度では死ぬことはないが…
生命力の代わりに魔力と体力に全振りしている魔獣や魔物は一度吸い取られれば絶命する。
「その中間の位置にいるあんたは何処まで耐えきれるか…」
ライフスティールを発動させた手から大気中の魔力が吸引されていくと同時に、エリザベート嬢の魔力の膜も剥がれていく様子が確認出来た。
「あ…ああああああああああああ!?」
魔力と共に自身の生命力も削られていくエリザベート嬢の悲鳴が会場に木霊し、貴族側の連中も俺が何をしているのか分からずに固まっていた。
そして、エリザベート嬢から赤い玉状の物が引き剥がされたと同時に魔力切れを起こして結界が割れ、宙に浮いていた体を地面に落下していった…
…念のため、エリザベート嬢の状態を鑑定しておいたが、生命力が1削られただけで気絶だけで済んだ。
(まだ魔族化してなくて良かったな…ただ、予想以上に生命力がないからこれ以上のライフスティールは危険だな)
地面に横たわるエリザベート嬢を見ながら、救護に駆けつけた教師達や平民組の連中を余所に俺がアリッサ達の方へと向かって歩いていった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます