10.作戦準備

模擬実戦の開戦前に、最初にやることを説明していった。


「まず手始めに、俺が中央のタンク役を買う」

「はぁ?貴方、元貴族でしょ?」


ポニーテールをした平民女子からいきなり疑問をぶつけられたが、俺はそのまま続けることにした。


「確かに俺は元貴族でもあるが冒険者もやっていた。こう見えても数年の経験を積んでいる」

「そういうなら、あたしも数年の冒険者キャリアをもっているわ」

「だが、鮮血鹿の魔獣を素手でしとめた事はないだろ?」


それを聞いた女子は一気に青ざめたどころか、周りの生徒達も青ざめ始めた。


「お前…いや、貴方こそがペントレー領でいたと言われる『吸収の悪魔』…」

「悪魔とは失礼な…今度、ペントレーに戻ったら協会に抗議しておこう。して、話を戻しても良いかね?」

「あっ…どうぞどうぞ」


別の平民男子から返してきたので、話を戻すことにした。


「再び作戦内容を伝えると、中央のタンクは俺が敵対心付与の魔法を拡散させて奴らの攻撃目標を集める。そして、攻撃してきた魔法とかを吸収のスキルを使って回収し、回収出来なかった余波を右を従者のアリッサ、左をガイストに任せることにする。その間、向こう側の攻撃中は後方に待機している魔法系の生徒が放物線で攻撃を行ってほしい」


簡易的に説明した内容であるが、タンク役3人が攻撃集中を貰う合間に後衛の魔術師系の生徒が魔法で攻撃しろという作戦であった。

剣士系の生徒にとっては若干屈辱であるが、相手側の奴らは火力こそが正義と言わんばかりな奴らが多そうで、ほぼ確実に先手をとって強力な魔法や武技を使ってくるはず。

ならば、魔法系の魔力は俺の”吸収”で全部無効化させて、吸収出来なかった魔力の余波と打撃とかの物理は防御力の高いアリッサやガイストの”大防御”のスキルを使ったファランクス陣形を取って消耗させ、後衛からの地味な攻撃で牽制していくのだ。

そして、消耗して息を切らしたところに温存した剣士系の生徒を挟み撃ちで進撃させてから、後衛の魔法と連携してトドメを刺す。

シンプルながらの作戦ではあるが、要となるタンク役を買う以上、俺たちの役割は非常に責任を負うことになる。


「でもさぁ…いくら吸収や大防御でダメージ貰わなくてもジリ貧になる可能性はあるんじゃない?あっ、紹介遅れたけど、あたしはヘレナ。こっちのヘタレはアルス」

「ど、どうも…アルスです…」


ご丁寧に主人公組の二人が俺達に近づいてきたので、アリッサと共に軽く握手しておいた。


「どうも、俺はケヴィンでこっちはアリッサ」

「知ってる。それにしても、良いガタイだね…今度、こいつと一緒に冒険者協会で依頼受けない?報酬はそっち多めに貰って良いからさ」

「…前向きに検討しておこう」


原作通り、守銭奴な性格をしている彼女であるので何処かいろいろと絞られそうなので、軽く流すときの言葉で返しておいた。


「して、俺達3人のタンク役のヒーラー役だが、想定のダメージ量を受けるの見越してネリスのヒールスライムを援護に回して貰う」

「あっ、はい…分かりました…」


そう言いながら、ネリスは”スライム召還”のスキルを発動させて、白いスライムことヒールスライムを数体出現させた。

それと同時に俺はネリスに耳打ちして続けた。


(あと、爆発性のスライムがいたら召還してくれ。それは俺が使うから)

(あっ…はい。分かりました…)


ネリスに伝えた後、俺は中央に立っていた教師に向かっていった。


「作戦会議は終わったか?」

「はい、あちら側はよろしいのですか?」

「問題はない。とっくの昔に終わってる」

「では、お願いします」


そう告げた後、俺は作戦通りのポジションに着いた。


「では!これより実戦を開始する!!始め!!」


教師の号令と共に、開始の合図が鳴らされた。




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