9.模擬実戦
学園に戻って、戦闘用の服に着替え終えてから会場で軽く食事を取っていた。
「今日は一角兎の薫製肉と黒麦パンか…」
「申し訳ありません。都市のパン屋は高額なのが多くて平民向けのパンしか買えませんでした」
「いや、良い。節約と考えれば当然の事だ」
ペントレーみたいな地方領主の町ならば、品質検査から跳ねられた小麦を使った格安のパンは手に入ることが多いが…
流石に人の往来が多い王都や学園都市ではそういった小麦の検査漏れの規格外が来ることはまず無いだろうし、必然として堅くて味が劣る黒麦のパンが平民の主食になるのは間違いないだろう。
…学園の休日は稼ぎに出ないとな。
とまぁ、そんな風に考えながらアリッサと食事取っていたら、貴族組の連中がクスクスと笑ってる声が聞こえてきた。
「見ろよ…平民落ちが平民らしく卑しい食べ方してるぞ」
「あーやだやだ…いくら結果があれでもあんな育ち方してるなんて、山猿みたいだわ」
そんな声も聞こえてきたのか、アリッサが平静を装いながらも青筋立てながら立ち上がろうとしたのを俺が手で遮って止めた。
「いくら血筋が貴族でも、相手貴族に手を挙げたら無礼である。今は堪え忍べ」
「…仰せのままに」
とはいえ、流石に見せ物扱いされるのも癪に障る物なので食べ残った分は収納魔法の中に格納してから、実戦が始まる前にアリッサと共に体を慣らしておいた。
模擬実戦は通常の模擬戦とは違い、文字通り模擬の実戦を行う。
平たく言えば、死にはしないが痛みなどのダイレクトな情報が体に刻み込まれるほどの実戦を味わうことになる。
但し、例外として魔力などの内なる力の圧力には対応しておらず、”自爆とかのダメージで死傷することはある”…
そう、俺の前世の情報だと、物語原作でのケヴィン・ペントレーは模擬実戦中に平民アルスに喧嘩を売り、アルスをボコボコにした後に隣にいた平民ヘレナをペントレー領に連れ去った後に、追いかけてきたアルスが覚醒をして原作ケヴィンに大量の魔力を送り込んで大爆発させた…
ただ、これのもう一つの裏設定として、「強くてニューゲーム」を選んでいた場合は模擬実戦中に覚醒した魔力を送り続けた場合、流れが変わってここの闘技場の方が爆発を起こして周りに被害を与えるという結末に切り替わった…
(まぁ、そのどっちの場合もモブキャラであるアリッサは泣き出して何処かに旅立ってしまったが…原作だとちゃんと生きていたのだろうか?)
とそんな風に考えながら、アリッサの方を見つめていた。
最初はキョトンとした顔で見ていたアリッサであったが、俺が黙ってみていた事に気づいて徐々に顔を赤らめて俯いてしまった。
「あの…ケヴィン様?何か不手際を…?」
「あ、あぁ…すまん。つい見とれていたので…」
「まぁ…お世辞にも程があります…」
「お世辞ではないんだがな…すまぬ。さて、そろそろ始まるぞ」
そんな風に良いながら、俺は平民側の生徒達を見渡しながら、アルスとヘレナの姿を確認した。
無論、あちらの方も気づいたのかアルスはビクビクしながらヘレナの後ろに隠れ、そんなヘタレなアルスの姿にヘレナが拳骨をかましていたのは言うまでもなかった…
そんな様子を過ごしていたら、午前の部とは別の教師達がやってきて、生徒を平民側と貴族側に分けていった。
「えー…これより、平民側と貴族側の双方で模擬の実戦を行って貰う。ここでは攻撃手段は制限はかけておらんし、死にそうになっても治癒結界が貼っていて気絶程度に済むようになっておる。”遠慮はせずにやってもよい”」
最後の”遠慮はせずにやってもよい”という言葉と共に、貴族側の連中と発言した教師の顔が若干歪んだこと気づいた。
…元から貴族側には優秀なスキルを持った奴らが多く、実家から資金も頂いてる学園からすればコレは憂さ晴らし。
対して、平民側は元からスキルのない奴もいれば屑スキルとして縁を切られた平民落ちの貴族もおり、憂さ晴らしのサンドバックとして扱われる。
金持っている豪商の子どもなら、賄賂で買収して攻撃しないようにして貰っているだろう。
現に、一部の平民生徒がわざと隔離された場所にいる時点で察した。
対する、俺とかの平民落ちの貴族や素質のある平民達は前に出るようにし向けられた。
特に、俺とアリッサが最前線に立たされる形で…
「やられたな」
「えぇ、全く」
そう言いながら、俺達は拳の間接をゴキゴキと音を鳴らしながら前に出て、境界線ギリギリまで立った。
便乗してなのか命知らずなのか分からんが、俺達の後に続いて数人の生徒も前に出てきたのは内緒である…
ちなみに、アルスはヘレナに耳を引っ張られて前に出てきたご様子…
対する貴族側の生徒は…先ほど喧嘩を売ってきた不良生徒達を含めた柄の悪い奴らが前に出て、主側の連中は前衛系スキルを固めた奴らで守って安全な位置で観戦する構えであった。
そして、両方の陣営中心に…平民側には白旗、貴族側には赤旗が立てられ、それぞれ結界が張られていった。
「ルールはもう一つ。それぞれの旗には結界が張っており、その結界が破壊されて旗が倒れたり壊れたりしたら敗北とする。無論、生徒全滅しても負けと見なす。心してかかるように!!」
教師の説明を聞いたと同時に俺は後ろを振り向くと…
旗の周りには豪商の奴らが守ってるふりをしてるのを見て、思わずため息が出そうになった。
「分かっちゃいるが…少し不快だな」
そう言いながら、俺は辺りを見渡して鑑定魔法を使い、アルス達の二人以外にも使えそうな奴がいないかチェックした。
…すると二人ほど使えそうなのがいた。
「丁度良い。そこのが体の良い君、名は?」
俺よりも二回りほどの大きい男がオドオドしながら前に出て、頭を下げてきた。
「ど、どうも…平民のガイストといいやす…」
「そうか。では、ガイスト。君のスキルは何かあるか?」
「そ、それが…『大防御』という盾にしかならないスキルしか持ってなくて…いつもお貴族様の殴られ役しかなれなかったげす…」
彼のスキルを聞いた俺は思わず肩を叩いて、握手した。
「上出来だ。俺はケヴィンで、隣は連れのアリッサだ。丁度俺が考えていた作戦に、君みたいなスキルの者がいて助かったよ」
「そ、そうでげすか…お役に立てて幸いでげす…」
ヘコっと頭を下げてくるガイストに、アリッサも静かに頭を下げていた。
そして、俺はもう一人目つきの悪い少女に顔を向けた。
「そこの女子、君の名は?」
「こ、こんにちは…ネリスと言います…スキルは『スライム召還』という役立たずです…」
彼女…ネリスの周りには多種のスライムが召還されていて、常に粘液の粘り気とスライム特有の臭いが辺りに包まれているため、他の平民女子からは気味悪がられていた。
だが、俺としては彼女のスキルに役立てられると直ぐに察した。
「そこのガイストと同じく上出来だ。そのスライムの中には第一位階魔法ぐらいの回復から属性の攻撃が出来るのだろう?」
「あっ、はい…ヒールスライムぐらいなら召還できます…」
「よし、では今から…貴族達に泡を吹かせてやろうか」
そう言いながら、俺は他のやる気のない平民生徒達と、さっきから後ろに下がろうとしてるアルスと引っ張って足止めしてるヘレナの二人を呼び寄せた。
高みの見物してる豪商生徒の連中はそのまま放置する形で。
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