7.閑話:勇者(予定)アルス

やぁ、俺はアルス。

だがそれは、この買い切り式の有償スマホRPGゲーム「勇者と剣と学園に祝福を」…略して「ゆうけん」の主人公だ。

前世がしがないブラック企業10年勤務の派遣社員、山田太郎は俺のことだ。


年収300万以下の生活を10年も生活して、毎日カップめんとスーパーの半額総菜で食って深夜まで残業していたら心臓発作であの世逝きの人生であったが、死ぬまでにスマホで遊んでいた「ゆうけん」には嵌まって、ソシャゲのガチャに疲弊していた心を癒してくれてたぜ。


なんせ、定番のレベルを上げて物理で殴れと言わんばかりのレベルアップ補正が半端ないし、何よりも運営の気まぐれでキャラのナーフがないから安心して遊べられるし、何よりも強くてニューゲームもあるから今時のRPGにしてはストレスフリーで遊べられたぜ。

おかげで、500時間も遊んで100週も見たから、この世界に転生出来たことには感謝するしかねぇ。


とまぁ、そんな前世の前置きなど殴り捨てて…

平民アルスに転生したての頃はいきなりハードモードすぎて涙が出てくるぜ…

生まれて直ぐに孤児院に捨てられて、孤児向けに教会が無償で行ってるスキル鑑定の儀式に強制参加されてからは「スキルなし」の無能の烙印を押されては同年代のガキ達にイジメの対象にされて辛すぎるんだわ…


だが、それも孤児院の院長が持っている未来予知のスキルによって俺が大物になると予言され、学園生活を迎えるために読み書きを教えて貰って入学手続きの推薦書も書いてくださると言ったから、予定通りの人生が待ってるぜ。


その間に、同じ孤児のヘレナと共に魔法の訓練を受けたりしたが、やっぱり覚醒するまではヘッポコ魔力であるため上達する気配がなかった。

しかも、その間にヘレナから「あんたって、いつまでたってもダメねぇ。あたしが一生面倒見てやろうか?」とバカにされる始末だが、目指すハーレムエンドのためにここは堪え忍ぼう…



と、5歳の洗礼から10年経過した今日…

ついにヘレナと共に学園都市までやってきて入学手続きも終え、晴れて学園の生徒になったぞ!

これからか俺の人生バラ色の人生が始まるんだぁ!!



と、思っていた時期が、俺にもありました…



俺達よりも後からやってきた二人の姿を見て、俺は一気に夢から覚めそうになった…


「元ペントレー家の平民ケヴィンと元メラノス家の平民アリッサですね」


受付嬢からその名前を言った瞬間、俺は何かの予感で振り向いたら…




そこには15歳にしては何処かのグラップラー並に筋肉付いた男女二人が立っていたことに…




紳士の服装とメイドの服装をしている二人だが、あからさまに素手で魔獣をひねり殺すようなゴツゴツとした手付きを見て、俺はビビるしかなかった…


「うわぁ…あの人達、元貴族らしいけど…完全にベテラン冒険者だわ」


ヘレナのその言葉に、俺はあれが序盤の中ボスであるケヴィン・ペントレーじゃないことに祈るしかなかった…


あからさまにあの二人を見た後、俺はピリピリしながら辺りをキョロキョロしていることに気が付きながらも、学園の制服に着替え終えた二人に視線を逸らすことが出来なかった…


「もぅ…何ビビってんのよ」

「す、すまねぇ…」

「はぁ…なんか偉い爺さんの教師がお話始まったからそっちに視線向けましょ」


ヘレナにケツ叩かれてからは「そうだな…」と返して、爺さん教師が熱く語っている余所にメイドの二人に支えられながら歩く人形みたいな女の子がいた…


エリザベート・ブリンケン。

「ゆうけん」だとハーレムエンドを迎えるために必要なキャラで、俺の最大の押し。

小柄ながらも育っているところは育っていて、洗脳されてる頃は操り人形みたいに不気味な存在だが、洗脳が解けて感情が戻った後は甘えん坊のロリ巨乳っ子になるから、彼女目当てに何度もハーレムエンドを選んでいたな…

そんな彼女の序盤のイベである魔力測定は綺麗なもので、水晶から放たれた眩い光が会場一帯に広がっていた。


「すっごいわねぇ…あの子、大賢者のスキルを持ってるみたいよ」

「そうだね…」


とまぁ、エリザベートのイベが終わった後は魔力測定が始まるわけだが…

やっぱり、あの二人に視線を向けてしまう俺であった…


その後の査定試験はサクサク進んでいて、あっという間に俺とヘレナの番になった。


「次!平民アルス!!…孤児院の院長の推薦とあったが、大した男ではなさそうだな」

「ど、どうも…」

「ふん、さっさとやれ。時間も惜しい」


爺さん教師から鼻で笑われながらも、俺は水晶に手をかざした。

…覚醒前のアルスは知っての通り、魔力のないカスだから少し輝く程度で終わった。


「魔力量たったの5か。ゴミめ」


あまりの教師の言葉に俺はへこたれそうになった。

転生させてくれた神様よぉ…せめてチートくれ。

さすがの魔力量に隣にいたヘレナが肩を叩いて慰めてくれた…染みるぜ。


と、そんな風に考えていたら、試験用の水晶からバチバチ音が鳴り響いたから振り向くと、あのケヴィンが水晶に煙を噴かしていたのを見てしまった…


「エリザベート嬢用の特別製とは違って魔力量1000までしか計れない水晶なんだが…規定値を越えて火花が上がったのか…分からん」


爺さん教師がなんかぶつくさ言いながら水晶の点検をしていたが、他の生徒が問題なく使えてるのを見て不正じゃないと判断したそうだ…

ということは、魔力量が1000以上あるって事だろ!?

しかも、その隣にいた女も同じように後から水晶が炎を上げたから規定値越えだというのも分かった…


「な、何なんだよあいつら…物語の悪役だろ…」


俺は思わずそう呟いてしまった…



気を取り直して、次の身体測定会場へと向かった。

ここではチュートリアルのゴールデンスライムを殴って、ダメージ数値が出てきたら測定結果になる奴だ。

しかも、ゴールデンスライムは耐魔力特価であるため、スキルなどの魔力強化して殴っても無効化される奴だ。


「いったぁ~!?なんて堅さなの!!」


現にヘレナが杖に強化魔法の魔力を込めて殴ったが、ゴールデンスライムに魔力を吸われて無効化され、堅いスライム体の衝撃が反動で帰ってきて手を痺れさせていた。


貴族出身の連中も同じように魔力をまとわせて武器で攻撃したり、中には武闘家みたいに殴って溜めそうとした奴もいたが…

生半可な攻撃の反動で跳ね返った衝撃で怪我する奴まで出た。


そんな中を俺は木剣を構えてから、懇親の一撃を加えた。


「おおっ!300とは平民にしてはいい数字だ!!」


熱血教師からお褒めの言葉を頂いたが、おめぇの脳筋パンチが1000だから嬉しくねぇんだわ…

と、内心思っていたが…後からの例の二人が塗り替えてしまったのは言うまでもなかった…


あのケヴィンがゴールデンスライムのスライム体を思いっきりぶん殴り、スライム体を貫いてコアに衝撃を与えやがった…


「1500!?どうしたらそんな数値を出せるんだ!!」


しかも、あの熱血教師の数値を越えたから尚更落ち込みたくなるわ…


それだけならまだマシだった…


隣にいたあの女、筋肉女のアリッサはさらに上回る行動に出て、あの堅いゴールデンスライムの体を素手で引きちぎって、スライム体の一部を齧って食べ始めたのだ…


流石の教師も開いた口が塞がらずに唖然としていて、ケヴィンの奴があっさりとゴールデンスライムを修復させてるから余計に混乱するばかりだ…


「おかしいだろ…原作じゃあこんな展開無かったはず…」


ヘレナに聞こえるほどの声で言ってしまったが、そう言わざるを得なかった…



さよなら、俺のチート生活万歳…


願わくば、ケヴィン以外の原作通りの展開になってくれ…




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