5.魔力測定
馬車に揺られて数日…
ようやく学園都市に辿り着いた俺達は学園の警備兵に書簡を見せ、校舎の中にある受付に通された。
「ペントレー伯領から来たケヴィンだ。伯爵様からの書簡もある」
そう言って俺は収納魔法から出した推薦書と入学金の金貨袋を受付嬢に渡し、アリッサも同じく収納から推薦状と入学金を納めた。
書簡と入学金を確認した受付嬢は淡々と処理し、俺達の方を見てから書類と魔法カードを渡してきた。
「こちらが入学用の測定試験用紙と学生証になります。本日、測定試験が後ほど開始されますので、時間は厳守してください」
「分かった。試験内容はどんなのだ?」
「前半は魔力測定、身体測定の二つです。後半は模擬実戦もありますので体調管理はくれぐれもお気をつけください」
「ありがとう。アリッサ、着替えたら合流しよう」
「畏まりました」
そう言って俺はアリッサと別れた後、更衣室に入ってから学生服に着替えた。
着替え終えてからアリッサと合流後、俺達は試験場についた。
「これより、魔力測定を行う!貴族平民問わずに魔力の多い者は優遇される!測定内容は水晶にかざし…」
試験官である教師が大きい声で説明し続けていたが、要は魔力の大きい者は貴族平民問わずに組分けするから水晶で計るという内容を大げさに説明してる様子に俺は飽きてきたので、ちら見程度で辺りを見回していた。
…流石は、貴族出身の連中はエリートっぽい顔をしてる割にはスキル頼りで生きてそうなボンボンだと分かるぐらいに緊張感がなかった。
前世の記憶が朧気ながらもあるとはいえ、どの世界にも似たような奴は居るもんだなぁと既視感を感じていた。
一方の平民出身の方を見てみた…
…こちらは逆にピリピリとした空気が張りつめており、中には青ざめた顔で祈りながら試験の順番を待っている人間もチラホラと見えた。
平民の中には貴族からの推薦状を貰って入学させて貰える奴もいるが、大半は多額の入学金を払って入学する平民が多く、その場合測定結果が低いと最悪途中退学を免れないこともある。
そうならないように必死になって勉強をして知識を得るが…
生来のスキルと魔力量が人生を決定するこの国では、知識と実技だけでは生きてはいけない。
こんな国だからこそ、天賦の才能で人生が決まるのは嘆かわしいと毎回思う…
と、そんな風に考えていたらアリッサが咳払いしてきたので前に戻すことにした。
「というわけで、早速試験を開始する!まずは入学生の主席である『大賢者』のスキルを持つエリザベート・ブリンケン公爵令嬢!盛大に見せよ!!」
二人の教師と共に台上に上がってきた令嬢…
銀眼の白髪の少女、エリザベート・ブリンケン公爵令嬢は人形のように歩き、無表情で置かれていた水晶に手をかざし、会場内に眩い光を広げていった。
(確か、前世の記憶だと…彼女は物語のメインヒロインの一人だったな。最初は魔族に誘拐されて捕らわれた後は魔族に洗脳され、後に勇者に助け出されて感情が戻ってからは仲間になるはずだったな)
そんな風にあやふやに思い出す俺にアリッサは首を傾げながら見つめていた。
「何かありましたか?ケヴィン様」
「いや、彼女の魔力量は凄いな。俺達よりも段違いだ」
「ええ、それは私も思いました。流石、大賢者のスキルを持つ才女です…」
アリッサの言うとおりに彼女は才女と呼ぶに相応しい人物だろう。
問題は周りが甘やかしたり、理解したりする人物が居ないことのせいで魔力制御に力入れるあまりに他が疎かになっているのがまぁ…
現に、彼女の後ろに従者が二人もいる時点で歩くのも介護が必要なのが目に見えてる。
(まぁ、それも洗脳されてからは魔族式の魔力コントロールを扱って動く移動要塞化したからなぁ…さて、どう出てくるか)
と、俺はそう思いながら探していたもう一人見つけて、そっちに視線を向けた…
平民アルス。
先ほどから場違いな場所に来てしまったとオドオドと辺りを見渡して落ち着かない平民の少年…
スキル鑑定:不明という、この世界では「スキル無し」扱いされる無能の少年であるが何を隠そう、この少年こそが俺が覚えてる物語の主人公。
つまりは未来の勇者である…
大ざっぱな鑑定や魔力測定程度なら、今のこいつはただの平民雑魚と認識していると思われるが…本質はそこじゃない。
こいつの本当の怖さは魂の奥底にある魔力が詰まっており、それが肉体に流れてこないだけだ。
水道で言うなら、水道溝に泥が詰まって水が流れずに逆流している状態だ。
無論、何もしなければただの雑魚で無名の平民として終わるだけだろう。
そう、物語の原作では”俺”ことケヴィン・ペントレーが無能な吸収だけのブタ貴族男として登場して、この後の模擬実戦にて最初のボスバトルを行って、最初は一方的に吸収した魔力でボコボコにする予定だ。
そして、あまりにもボコボコにされてアルスの幼馴染である女を奪うと言われたことに覚醒して魔力増大させ、吸収しきれないほどの魔力をまとった拳で何度も殴ったことでケヴィンの体を爆発四散させて終わらせたはずだ。
とまぁ、本来ならばそんな悲惨な最期を迎えるはずの俺であるが…
「…ケヴィン様。先ほどからあの少年から視線を感じるのですが」
「気にするな。たぶん、俺達ではなく貴族の連中を見ているに違いない」
「左様でございますか…」
そんな風にぼかしながら話していたが、明らかにアルスの視線は俺達の方を見てビクビクしてるのを気づかない振りをして、エリザベート嬢の退場後に続いていた教師の説明が一段落したので、貴族達から始まる魔力測定の試験が始まった…
魔力測定が始まって約一時間後…
貴族側の入学生全員の測定が終わったので、平民側の入学生の魔力測定が始まった。
「次!平民ケヴィン!元ペントレー家の長男らしいが、容赦はしないぞ」
「お気遣いお構いなく」
「ふん…」
初老の男性教師に鼻であしらわれたが、気にせず魔力測定用の水晶に手をかざしていった。
(まぁ、少し輝く程度で終わるだろうな)
と思って、少し力んで魔力を流し込んでみた。
すると…
「お、おい!」
「はっ?」
水晶から火花が上がりはじめ、まばゆい光と共にバチバチと音を立てた後に水晶から煙が上がってしまった。
…念のため、もう一度手をかざしてみたが、同じ様にまばゆい光を上げながらバチバチと火花が上がったので翳すのを止めた。
「…どういう結果なんですか?これ」
「私が聞きたいところだ…不正はないのは分かるが、こんな症状は初めてじゃぞ」
とりあえず、魔力測定は問題なしみたいなので合格にするつもりだ。
しかし、何で火花が上がったのか分からん…
イレギュラーじゃなければいいが…
一方のアリッサの方も同じく、水晶の輝きは普通であったが…
途中から水晶から炎が上がったらしく、他の教師達が火消しにあったらしいので一緒になって頭を下げることになった。
「な、何なんだよあいつら…物語の悪役だろ…」
次の身体測定の会場に向かう際、どこからか小さな声で言われた気はするが…気にしないで置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます