4.学園へ

あれから更に5年後…


俺とアリッサは15歳になったことで、ベントレー家から完全に縁を切られる形になったはずなのだが…

何故か父上もとい”ベントレー伯爵”に呼ばれて本館の執務室に呼び出されていた。


「本日、平民のお前達を呼んだのは大したことじゃない。最低限の貴族の血を引いてるお前達も学園に入学させろと上から通達が来たからだ」

「左様でございますか」

「ふん。まぁ、どうせお前のそのスキルのせいで婿養子にはなれんだろうけど、せいぜい学園生活中に良い家に拾われて養われることだな。用件は以上だ、失せろ」

「仰せのままに…”伯爵様”」


冷たくあしらう”元父親”に何の感情も湧かない俺はアリッサと共に一礼した後、足早と執務室を後にした。



そして、本館から出ようとした時…


「兄上…!!もう行かれるのですか…!!」


俺の2歳下の弟であり、ペントレー家の次男であるアレックス・ペントレーが走って来て、俺の手を掴んで悔しそうな顔をしていた。

洗礼の時に”剣聖”のスキルを得てから、ペントレー家の後継者に相応しいと言われており、家族の中で一番優遇されてはいるが…

五年前の別館暮らし以前から俺に懐いており、度々本館を抜け出しては俺の別館に来ては稽古を付けたり一緒に飯を取ったりしていたため、本館の連中よりかはずっと優しくして貰っていた。


「すまんな、アレックス。今日はアレに呼び出されただけだ」

「くっ…!僕にもっと力があれば…」

「そこは気にするな。それよりも、俺とアリッサは今年から学園に行くことになる。平民としてだが、お前も入学した時はよろしく頼む」

「はい…それと、他の弟や妹にも…」


「あらぁ?コレはコレは馬鹿なケヴィンお兄様ではないですか?メラノスの筋肉豚を引き連れて屋敷に入ってくるとはどういうことですかぁ?」



予想はしていた。

俺の愚妹の一人で三つ下の年であるルシア・ペントレーが贅肉を詰まらせた体を振るわせながら俺とアリッサを馬鹿にしながら歩いてくるのを。

…完全なデブではないとはいえ、12歳にしては無駄に肉を付けて女らしさを見せてくるその様に苛立ちしか覚えなかった。


「…ルシア。いくら兄上が勘当されてる身だとはいえ、それ以上の暴言は許さんぞ。あと、アリッサ嬢に謝れ」

「あーら、アレックスお兄様。これは高貴な貴族からのお言葉ですわよ。訳の分からないスキルを持った貴族ではない”平民”には本来なら話しかけることすらかなわなくてよ」


そう言いながらホホホッと笑うルシアに、アレックスが拳を作って腕を振るわせていた。

流石に見てられないので、俺はすかさずアレックスの肩に手を置いて顔を横に振った。


「もういい。お前が怒ってくれるだけで満足だ」

「兄上…」

「じゃあな。いつか外であったらよろしく頼むぞ。行くぞ、アリッサ」

「はい、ケヴィン様」


そう言って、俺とアリッサは共に屋敷を後にした。

途中、名前の分からん小さい弟や妹にも出くわしたが、どれもすれ違う度にメイドや執事と共にクスクス笑って蔑んで見てきてるのが分かった…


(すまんな、アリッサ。あとで慰めてやる)

(いえ、勿体なきお言葉です。ケヴィン様)


そう言いながら俺に寄り添ってくるアリッサに、暫くは黙って別館へと帰路に向かった。



「そういうわけだ、ベック爺。暫くは学園生活になる」

「まぁ、最低でも貴族の血を引いていればそうなるじゃろうな」


以前よりも年老いたベック爺はベッドから半身起こして喋っているが、時より咳込んでいた。

もう先は長くないと世話になっている町の医者から言われた分、俺達としては別館を離れることに少し戸惑いもあった。


「坊主と嬢には心配かけまいと思っていたが、やはり年には勝てんな」

「爺…」

「じゃが、それはお前達の人生だ。儂如きに振り回されてはならん。好きに生きろ」

「…分かった」

「心残りは、お前達が出た後に儂が死んだら…この屋敷は解体されるんじゃろうな。本家の奴らはここを更地にして野ざらしにするつもりじゃ。管理者のいない山に誰が支配できるのか」


本当に、あの愚父の頭の悪さには反吐が出るものだ。

管理を失った山がどうなるか、分かっていないから平気で潰そうとする。

ベック爺が亡くなって別館も無くなれば、麓の村や町にも魔獣が溢れるだろう。

そうなれば相対的に税収が減って没落するだろうに…


あの贅沢をして体を肥やしてる愚妹達も含めたら支出も半端ないんだろうな…


そんなことを考えていたら、アリッサから咳払いをされてしまった。


「すまない、先の事を考えてしまった」

「爺やの話の途中です。申し訳ございません、爺や」

「いや、良い。坊主の良いところでもある。そう咎めるでない…ウッ!?ゴッホ!ゴッホ!!」


咳込み始めたベック爺をアリッサが背中をさすった後、ゆっくりとベッドに寝かせていった。


「…もう一度言うが、儂の事は気にするな。お前達の人生はお前達で決めろ」

「…本当に、ありがとうございました」


そう言って俺とアリッサは頭を下げた後、部屋を後にした…



翌日…


俺とアリッサは荷物をまとめ終え、屋敷を後にした。

念のため、町の冒険者協会にベック爺の事を頼むという手紙を魔法便で送った後、乗り合い用の馬車停留所で待っていた。


「さて、学園都市に着いたら下宿先を探すか」

「そうですね。…ケヴィン様」

「なんだ?」

「いつまでも、お仕えいたしますね」

「…お前が居て頼もしいよ」


そう言いながら、俺達は到着した馬車に乗って学園都市へと向かった。


新しい生活に期待して…






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