3.5年後

あれから5年…


共に10歳を通り越した”俺”とアリッサはペントレー家に冷遇されながらも順当に育っていった。

互いに栄養失調のない健康的な肉体で、年頃にしては脂肪分の少な目の筋肉質の体で育っていた。


「ケヴィン様、本日の行事でございますが…」

「いつものように午前は教会での授業を受けて、午後は依頼を受けよう」

「畏まりました」


5年も従者業を勤めてるおかげで、執事以上の仕事をしてくれるアリッサには感謝しかなかった。

そんな彼女は今日も付き添いでペントレー家の近くの町にある教会まで徒歩で歩いていった。

本来なら貴族ならば誘拐とかありそうだけど、互いに貴族らしからぬ平民の服を着て、お忍びとして教会の青空教室で授業を受けることにした。


…本来なら教師の一人を付けて欲しかったが、あの洗礼から2年後にて次男のアレックス・ペントレーが『剣聖』、その翌年には妹で長女のルシア・ペントレーが『賢者』のスキルを授かったことであの両親はそっちのけで二人を可愛がることにし、訳の分からんスキルを持つ俺達への放逐が悪化したのは言うまでもなかった。


最近では、跡継ぎをアレックスに家督を継がせるとまで言ってきたから本気で成人を待たずにアリッサと共に旅を出ようか考えてるところだ…


まぁ、そんな家族であるが執事やメイドの従者達には流石に俺たちで分からせてはやったが…


アリッサに嫌がらせで泥水を飲ませようとしたメイド達には”吸収”で溜め込んだ水たまりの水を顔面に放水で返した。


俺とアリッサの食事にわざと腐った肉を入れたコック達には”吸収”で溜め込んだ毒素を使用人達の食事に放出させて中毒させた。


俺達の反撃に対して、しつけと称して俺達を痛めつけようとした執事長には痛みを”吸収”した分を全部”反動”として返してやった。


同じ嫌がらせを何度も返すうちに、ついに根を上げた従者達が主である父上に談判を行い、俺の”吸収”は家名を傷つけるかもしれないと進言までされた。


流石に従者達に抗議されては溜まったものじゃないと理解した父上から「流石にこれ以上面倒は見きれん、離れの屋敷をやるからメラノスの女と共にそこで暮らせ」と言われて、本館の裏山にある離れの別館で暮らすことになった。


管理者である偏屈のベック爺以外誰も住まわない屋敷であったため、かなり老朽化はしていたが…俺とアリッサにとってはありがたいことだった。


「今思い出したが、ベック爺には感謝だな…」

「そうですね…口は悪いですが、一通りいろいろと教えてくれましたし」


最初は俺達を根性なしどもが直ぐ逃げるだろと思っていたらしく、悪態付けていたベック爺であったが、根を上げずに生活する俺達に見かねた爺は口悪く言いながらも色々と教えてくれた。


”坊主!そんな薪割りでは日が暮れるぞ!!教えてやる!”

”嬢!そんな飯の作り方ではいつまで立っても出来上がらんぞ!儂の手本を見てろ!!”


子どもながらも不器用に作ろうとしていた俺達を作業の最後まで教えてくれたおかげで、今では10歳にしては料理などの基礎生活能力は身についた。


相変わらず細かい作業は苦手であるが、簡単な料理は出来るようになった事にはベック爺には俺達は感謝するしかなかった。

最近は咳込む事が多くなったが、今でも俺達と共に別館を維持してくれてるおかげで、外出することも出来た。


と、そんな経緯を思い出しながら町までの森の道をアリッサと共に歩いていた時…


「…アリッサ」

「お任せを、ケヴィン様」


道の外れの草むらに向けて、俺が”太陽”から吸収した光を指先に溜めて放ち、短い悲鳴と共に草むらから出てきた一角兎の魔獣が飛び出してきたのをアリッサが一撃でしとめた。


「お見事」

「いえ、まだまだ未熟です。今日の晩ご飯は兎料理にしますね」


アリッサはそういった後に一角兎の首を切って血抜きし始め、木の棒に括り付けて運べるようにした。

…本館から食料が来ない分、自給自足で生活するのも慣れたものだ。



町の教会に辿り着いて、一通りの授業も終えた俺達は冒険者協会の方に立ち寄っていった。

俺とアリッサは一応”平民”の見習いとして登録しているため、薬草採取などの簡素な素材集めの依頼しか受けることが出来るし、熟練者ベテラン達が不要とした魔獣の素材も拾って売買出来ていた。


「御願いします」

「確認します。少々お待ちくださいませ」


カウンターに置いた素材の査定が終わるまでの間、依頼書がないか調べていたが…


「魔獣の依頼ばかりだなぁ…」

「この時期は農作物が荒らされているケースが多いですからね」


朝方の一角兎を筆頭に草食の魔獣が収穫前の作物を食いに農村へ進入する事が多く、農家から格安で討伐依頼を出して来ることが多い。

多いが…大半の草食魔獣は生存競争に弱くて直ぐ逃げるので、熟練者の冒険者は受けることすら嫌がり、大抵は俺達みたいな見習いが討伐することが多かった。


むしろ、本来ならば貴族が定期的に駆除するのが勤めであるはずなんだが…


「すみません、受付さん。”ベントレー家”は魔獣討伐の仕事はしておられるのですか?」

「…申し訳ありません。ここだけの話…」


受付嬢の歯切れのない言葉で濁していたことで大体察した。

あまり大事にならない限り、重い腰を上げたがらないのはどの貴族も一緒だと。


(まぁ、いつもながら税収の数字と利権しか考えない父上のことだな…)


そんな風に考えながら、アリッサと相談しながら帰り道の農村に立ち寄る形で鹿の魔獣3頭討伐の依頼書を取って受付を済ませ、自宅である別館への帰路に進んだ。



途中、鹿の魔獣以外にも獰猛な犬の魔獣にも絡まれたが、俺が手を出す前にアリッサが全部拳で片づけてしまい、毛皮を頂戴して帰宅したらベック爺に無茶したことに怒られたのは言うまでもなかった…





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