30撃目.マジメな推理①
ロボット万年筆確保より、二日。
俺と探偵は、可南子をいつものファミレスに呼び出した。
喫煙席側、窓際のボックス席である。
夜のファミレスは混んでいた。
いつもは疲れた社会人と学生が死んだ表情で安い料理を食べている時間だ。
だが、今日は違う。
笑顔の子供に笑顔の家族連れ、そして緊張した表情のカップル客が多い。爆ぜろ。
ふと配膳ロボットを見ると、猫耳の間に小さなサンタ帽が乗っていた。
クリスマスである。
幸せな人類から目を逸らすため点かないライターをカチカチしていると、声がかかる。
「おおお、お、お待たせしました……!」
依頼人だ。
遅れて来た可南子は、まともな服を着ていた。
ちゃんちゃんこを脱いでいる。
野暮ったい眼鏡は野暮ったいままだが、グラスがよく拭かれていた。ぼさぼさの茶髪は櫛を通され、ゆるふわロングヘアに仕上がっている。
服装は……今すぐ高級レストランにでも入れそうな、ちゃんとした服だった。
一瞬、誰か分からないほどのオシャレ具合である。
「ずいぶんオシャレしたんだね、可南子ちゃん。かわいいよ」
いつもと変わらないトレンチコート姿の探偵がさらりとほめた。
可南子は気恥ずかしそうに頭を掻く。セットした髪が少し乱れた。しまらない。
「く、来島さんが取材に連れて行ってくれるって……ドレスコードある場所なので……」
俺は納得した。可南子が自発的にオシャレをした訳ではないらしい。
探偵に促され、俺は窓の外、駐車場を見た。
来島が心配そうに、車の窓からこちらを伺っている。
世の中不平等だ。来島はプロポーズの準備を、可南子の衣装ごと整えたらしい。
「デートの日に呼び出しちゃってすまなかったね」
「でえと?」
可南子は首を傾げた。
俺は心の中で来島を応援した。
「……まぁいいや。手早く済ませよう」
探偵はため息とともに、俺を肘で突いた。
俺は頼まれていた資料を取り出す。
茶封筒。中身は死亡診断書と、景平北斗の交友関係。あと、警察の捜査資料各種である。
さすがに警察の資料保管庫に忍び込むのは、一晩では無理だった。
そのため、報告が二日遅れることになったのだ。
変形パトカーと殴り合ったくだりは割愛する。
「封筒ぶあつい……」
「終わったら辰弥くんがこっそり返す手筈になってる。メモは自分のものにとってくれ」
「あ、は、はい!」
可南子はちゃんとした上着から、昨日と同じボールペンとメモ帳を取り出した。
可南子は、ボールペンの先をぺろりと舐めた。
長い舌だな、と思った。
探偵は資料をめくりながら、話はじめた。
「まず、死亡時の状況から当たることにした――――」
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