29撃目.ダイイング・メッセージ②

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』

『――――――――――――犯人は、ぼく。』


「「ひぃっ!?」」


 可南子の悲鳴である。俺の悲鳴は小さくて済んだ。


 この世にお化けなんて存在しない。

 しかし。その文章は、正しくお化けの怨念のようだった。


 全ての文字が均一だ……当然だ。全てロボットが書いたのだから。

 文字が恐ろしい数だ……それも当然だ。ロボットは、疲れることなく文字を書ける。


 だから、恐ろしいのは文字自体ではない。

 その遺言自体を遺そうとした、可南子の父……景平北斗の、心情が恐ろしかった。

 俺には、その状況も心も、まるで理解できそうにない。

 怨念だと思った。


「おおおお怨念ですかね!?」


 可南子も同じことを思ったらしい。

 理性的な来島が、納得できそうなことを言った。


「小説の一文……かもしれません。北斗さんの遺稿を探せば、合致する部分が……」

「それはないです」


 しかし、可南子がその意見を即座に否定した。

 来島が呆気にとられるほどの即答である。その理由は、強い口調で断言された。


「作風が違うよ。あたしの父ちゃんはこんなミステリーみたいな文章、絶対に使わないし、使えない」


 可南子の証言は、俺のような文字を読まない人間には理解しがたい内容だった。

 しかし、来島もまた景平北斗の担当編集だった男である。

 少しの逡巡ののち、来島は納得したように頷いた。

 見当違いでもないのだろう。


「……探偵さん。本当に、誤作動じゃないんですか?」

「うん。フォントも歪んでいないし、なにより意味の通る文章だ。良い子だね、この子」


 探偵はちゃんちゃんこを脱いだ。

 そして、テーブルから立ちあがる。


「とにかくお化けの正体は突き止めた……帰るよ、辰弥くん。驚かせてごめんね?」


 依頼達成を理由に、帰るつもりらしい。

 俺は心底喜んだ。こんな不気味な原稿がある家には長居したくない。

 だが、その背を呼び止める声があった。


「しゃしゃ、しゃ、シャーロットさん!」


 可南子である。



「つつ、追加の依頼って……できます、か!?」



 探偵は振り返った。

 近年稀に見る、とても、とても良い笑顔をしていた。

 彼女は頼られるのが大好きである。俺は頭痛を抑えた。


「可南子、どうしたんだい、そんなに慌てて……」


 来島が可南子の肩を抑えた。可南子はそれを振り払って、探偵に告げた。


「父ちゃ……父の、ダイイング・メッセージの意味を……教えてください!」

「いいよ。調査続行だ」


 探偵はさらりと答え、口だけで俺に告げた。

『小遣い増額』



「俺も協力しましょう。こんな謎が残ってるんじゃあ、寝覚めが悪くて仕方ない」



 俺は今世紀で一番探偵助手っぽい台詞を吐いた。

 探偵は可南子に背を向け、とてもすがすがしそうに微笑んでいる。


 可南子はほっと胸をなでおろし、来島は、可南子に振り払われた手を見つめていた。

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