失踪したYouTuberの撮影動画

 二人の若い男女がカメラ目線で手を振っている。男は金髪、女はピンクに髪を染め、ビビッドカラーでまとめた派手な格好をしている。

 背景はゲームセンターで、背後からは耳をつんざく騒がしい電子音が響いている。 


「――はい、あきゆえカップルチャンネルのぉ〜! アキトです!」

「ゆえでーす」

「今日は、こちらの、某ショッピングセンターのゲーセンにお邪魔しています。生配信です!」

「なまでーす」

「今日のチャレンジは……じゃん!クレーンゲーム初心者のゆえちゃんが、五千円で、『ちょいかわ』のぬいぐるみ、ゲットできるか〜!」

「ほんとに初心者でーす」

「ゆえちゃんは普段絶対やらんよね。クレーンゲーム系のやつ」

「だって、絶対普通に買ったほうがいいじゃん」

「おま、視聴者を敵に回すな(笑)」


 (中略)


「…………っあ〜! 惜しい、あとちょっとだったのに」

「………………」

「これで次がラストチャンスですね。がんばりや〜」

「…………にえ」

「え?」

「にえを、ささげ」

「にえ?何?」

「これがにえだから、代わりになるから、取らなきゃ、取らなきゃいけないのに、取らなきゃ、取らなきゃ、取らなきゃわたしが、にえになっちゃう」

「……何言って」 

「なんで、なんで私なにも悪いことしてないのに」

「ゆえちゃん? ちょっと、え、どうしたの? 大丈夫?」

「それはちがう、ちがう、ちがうもん……。あれは、ゆえのせいじゃない。なかったもん。……違う、違う、違うのお!」


 突然叫びだした女がフレームアウトして、クレーンゲームの筐体がカメラに映る。ぐらつくクレーンの脚からぬいぐるみが滑り落ちると、女は絶叫して両手をガラスに叩きつけた。

 

「あああああああああ! もおおおおおおおお!!話しかけるから!!! 落ちちゃったじゃん!!!」

「……ご、ごめん」

「おまえのせいだ! わたしじゃない! おまえの!!! おまえの!!!」

 

 ここで女は突如ぴたりと動きを止め、無言でカメラを見る。見開かれた目からは滂沱の涙が落ち、流れた化粧がその頬を汚している。彼女は数十秒、そのままカメラを見続けた後、口を開く。

 

「私は神になります。みなさんどうもありがとうございました」

「まじで、どうし」

「――いどが、水が、黒い、まっくら……」

「なあ、おい! ゆえ! しっかりしろって!」

「井戸が、井戸に落ちるの。落ちる、落ちていく……っく、ぇッ……ヒッ……ク……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……こわい、怖いよぉ……」


 カメラがぶれて、周りのクレーンゲームのが映り込む。ここで画面を一時停止すると、クレーンゲームの筐体の中で、多種多様なぬいぐるみがまるで上から吊り下げられているように宙に浮いているのが見て取れる。

 ――まるで、首を吊っているかのように、俯いている。


 暗転。真っ黒な画面に女がすすり泣く声と、ごぼごぼという水音が録音されている。


「ゆえはわるいこ」


 ――と、男女のものではない嗄れた音声が入り、ここで動画は終了している。

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