子供向けイベントの録画データ

 ……よいこのみなさーん! こーんにーちはー!ゆえおねえさんだよ!

 今日はぁ、みんなと一緒に、たのしくあそびたいと思います。よろしくね!


 ――沈黙。ステージ上には白いワンピースを身にまとった若い女性が立って、カメラに向かって大きく手を振っている。顔を左右に向けるたび、ピンクに染めたポニーテールがゆらゆらと揺れる。

  

 さあ、いまから、ここに、みんなのおともだちが来てくれます。だれが来るのかな? わかる?


 ――沈黙。女性は耳に手を当て大きく頷くポーズをとっる。


 はい! みーんな、元気に答えてくれましたっ!

 そう――いぬおごぼさまです!

 

 おごぼっていうのはね、赤ちゃんっていう意味なんだよ。だからね、いぬおぼごさまはわんちゃんで、赤ちゃんだって言う意味になるんだって! かわいいねっ!

 

 そして、なんと、いぬおぼごさまは、神さまでもあるのです! わー! すごーい! 

 

 今日は――そんないぬおごぼさまが、みんなに会いに来てくれます!


 ――拍手。女性は歯を剥き出した大袈裟な笑顔で手を叩いている。


 それでは! みんなで、元気に、いぬおごぼさまを呼んでみよう! せーの!

 いぬおぼごさまー!


 ――沈黙。わずかの間の後、右手から何か引きずるような音。画面は不自然に左に振れ、何が現れたのかは映っていない。


 はい! 来てくれました。いぬおぼごさまです!

 とっても――(音声不明瞭)ですね! 


 ……じゃあ。いぬおごぼさまに質問あるおともだちはいるかなー?


 ――沈黙。

 

 はい! 元気に手をあげてくれました! かわいいおともだちからの質問です。えっと、いぬおごぼさまの好きなものはなん、ですか? ですって。

 どうですか? いぬおぼごさま。


 ――…………に゛…………え……に…………


 はい! 贄、だそうです! やっぱり、いぬおぼごさまといえば、贄ですよねっ。

 

 …………贄というのは、お前たちに与えられた償いの機会なのです。

 そして贄となり、苦しみの試練を経た先には、神との一体化があります。

 贄となり、神となるのは、それは、それはとても尊いことなのです。

 捧げるのです。償うために。生まれてしまったことの罪を、つみを、おまえのつみをあがな――――――――


 ……はい、わかったかな?


 ――沈黙。


 さぁて。贄についてわかったところで……今日、贄になりたいおともだちはいるかなー?


 ――沈黙。


 あれれー? みんな、照れてるのかな?


 ――沈黙。


 仕方ないなぁ。それじゃあ今日は、お姉さんが贄になりたいとー思います!


 ――沈黙。

  

 ……まず、目を捧げます。

 ほんとは歯が最初なんだけど、今歯が無くなると喋れなくなっちゃうから、最後にするねっ!


 ――カメラは女性の顔にズームする。彼女の笑顔が顔面に大写しになり、大きく見開かれた目が映った瞬間、その目が


 ――ぼろりと落ちた。


 ……あ゙、うぁ、いた、見え……みえない……。

 ……皆は、見えてますか? 私、わたしの目、どうなってる? ちゃんと、ささげられている?


 ――女性はがらんどうの双眸から血を流しながら、なおも話し続ける。


 ……つぎ、つぎは、髪? です。髪……は、別に、そんなに、痛くない、かな…………あ゙!!


 ――束ねられた女性の髪が上方に引っ張られる。ものすごい力が加わっているのか、頭皮がべりべりと剥がれていく。


 痛い、いたいいたいぃ! あ゙あああああああ!


 ……はぁ、あ゙……だりないでずよぇ、だっで、ぜんぶわだじのせいだから、わだじがわるいんだから、わだじ、わだじが


 だから、つぐないますから、痛いのもつらいのもぐるじいのもぜんぶ、ぜんぶがまんしますから

 ごめんなざい、ごめんなざい、ごめんなざ、ごめなあい


 あ゛


 ――暗転。ぶちゅり、と、何かが潰れる音

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