[総ルビ]異世界転生して貴族だったけど孤児院に捨てられた私は這い上がる ～女の子だって薬草、キノコ、苺とか採取してスローライフしよう～(web版)

19 夏ミカンの買取

■19　夏（なつ）ミカンの買取（かいとり）

　カランカラン。冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドの入（い）り口（ぐち）のカウベルが鳴（な）る。

「こんにちは」

「「こんにちは」」

　みんなで挨拶（あいさつ）して中（なか）に入（はい）る。

　お昼過（ひるす）ぎの現時点（げんじてん）では、あまり人（ひと）はいないようだ。

「すみません。買取（かいとり）を」

「はいはい、隣（となり）の買取（かいとり）カウンターでいいかしら？」

「あ、はい」

　クエスト用（よう）のカウンターとは一応（いちおう）別（べつ）らしい。

　確（たし）かに横（よこ）の買取（かいとり）カウンターは台（だい）が低（ひく）くて幅（はば）も広（ひろ）い。

「あのえっと……」

「夏（なつ）ミカンを採（と）ってきたので買取（かいとり）を」

「了解（りょうかい）よ」

「ウサギとキノコは持（も）って帰（かえさ）ろっか」

「う、うん」

　サエナちゃんが何（なに）を売（う）るのか戸惑（とまど）っていたので、声（こえ）を掛（か）けた。

　冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドで夏（なつ）ミカンを買（か）い取（と）ってもらう。

　受付嬢（うけつけじょう）はお姉（ねえ）さんだ。

「そうね。全部（ぜんぶ）で234個（こ）で、しめて金貨（きんか）2枚（まい）でどうかしら」

「はい、たぶん大丈夫（だいじょうぶ）です」

「よかったわ。今年（ことし）も夏（なつ）ミカンの季節（きせつ）になったのね、春（はる）もたけなわだね」

「あ、はい」

　そうか。けっこう採（と）ってきたけど金貨（きんか）2枚（まい）だったか。

　1人（にん）分（ぶん）の主食（しゅしょく）の丸（まる）パンが大（だい）銅貨（どうか）1枚（まい）、100円（えん）くらい。

　この夏（なつ）ミカンは2つで大（だい）銅貨（どうか）1枚（まい）ということだ。1つ50円（えん）。

　まあ普通（ふつう）ではないだろうか。

「ちなみにギルドでの買取（かいとり）では1割（わり）手数料（てすうりょう）を差（さ）し引（ひ）くことになってるの。1割（わり）って分（わ）かるかな？」

「あ、はい、分（わ）かります」

「そう。理解（りかい）してくれて、ありがとうございます。またご利用（りよう）ください」

　貴族（きぞく）の家（いえ）の庭（にわ）とか、市民（しみん）街（がい）でも裏庭（うらにわ）に夏（なつ）ミカンの木（き）は植（う）えてあることがあるので、そういうところからも出荷（しゅっか）があるのだろう。

　珍（めずら）しくはないので、値段（ねだん）も手（て）ごろということだ。

　もちろん周辺（しゅうへん）の農村（のうそん）から入（はい）ってくる分（ぶん）もあるかもしれない。

　そういえば農村（のうそん）って不思議（ふしぎ）なんだよね。

　城壁（じょうへき）とかもなく晒（さら）されているけれど、人（ひと）が住（す）んで暮（く）らしていけるのだろうか。

　モンスターに襲（おそ）われたらひとたまりもないのでは。

　ファンタジーの謎（なぞ）のひとつだ。

　実際（じっさい）には土壁（つちかべ）と木（き）の柵（さく）みたいので囲（かこ）ってはあるとは思（おも）うんだけど。

　さてギルドから出（で）ようとして、忘（わす）れていた。

「ごめん、忘（わす）れてた、スライムの魔（ま）核（かく）を」

「あ、ああ」

　また買取（かいとり）カウンターに向（む）かう。

　私（わたし）はワンピースの大（おお）きいポケットをごそごそして、アイテムボックスから魔（ま）核（かく）を取（と）り出（だ）す。

　この孤児院（こじいん）標準（ひょうじゅん）の茶色（ちゃいろ）いワンピースは左右（さゆう）の小型（こがた）ポケット以外（いがい）に、お腹（なか）の中央（ちゅうおう）に大（おお）きなポケットがついている。

　エプロンみたいだけど、これはこれで少（すこ）しかわいくて好（す）きだ。

「すみません。スライムの魔（ま）核（かく）、えっと全部（ぜんぶ）で」

「あ、こちらで数（かぞ）えるわ。うんと、12個（こ）だから1割（わり）の手数料（てすうりょう）で銀貨（ぎんか）11枚（まい）でどうかな」

「はい、いいです」

「分（わ）かったわ。では銀貨（ぎんか）11枚（まい）とします」

　ギルドカードを出（だ）してギルド側（がわ）の帳簿（ちょうぼ）に購入（こうにゅう）履歴（りれき）の記録（きろく）を付（つ）けてもらう。

　カードはただの板（いた）で名前（なまえ）とランクとギルド番（ばん）号（ごう）が書（か）いてあるだけだ。

　この世界（せかい）では別（べつ）に魔法（まほう）的（てき）な超（ちょう）技術（ぎじゅつ）の魔道（まどう）具（ぐ）のギルドカードではないのだ。ちょっと残念（ざんねん）。

　超（ちょう）技術（ぎじゅつ）とか魔道（まどう）具（ぐ）とかドキドキするよね。

　もっと見（み）てみたい。

「えっと孤児院（こじいん）よね。私（わたし）もついて行（い）っていい？」

「いいですよ、たぶん」

「ありがとう」

　エミリーさんも連（つ）れて貴族（きぞく）街（がい）を通（とお）り丘（おか）を登（のぼ）って孤児院（こじいん）に戻（もど）ってくる。

「「ただいまぁ」」

「おかえりなさい」

「お、おじゃまします」

　ブラウンシメジタケとウサギを厨房（ちゅうぼう）に行（い）って出（だ）してしまう。

　ここからウサギの解体（かいたい）が始（はじ）まった。

　厨房（ちゅうぼう）のこの時間（じかん）はお昼（ひる）が終（お）わって夕（ゆう）ご飯（はん）の支度（したく）までは空（あ）き時間（じかん）がある。

　日（ひ）によってはよく毎食（まいしょく）のパンを作（つく）っていたりするけれど、今日（きょう）は大丈夫（だいじょうぶ）みたいだった。

　取（と）ってきたウサギは3匹（びき）。今（いま）までも狩（か）ってくることはあったけど、複数（ふくすう）匹（ひき）は初（はじ）めてだ。

　ちょっとお肉（にく）が多（おお）めに入（い）れられると思（おも）うと、わくわくしてくる。

　今日（きょう）の夕（ゆう）ご飯（はん）はキノコもあるから、ちょっと贅沢（ぜいたく）仕様（しよう）だろう。

　楽（たの）しみだ。

　先（さき）に魔（ま）核（かく）と角（つの）を取（と）ってもらって、返却（へんきゃく）してもらう。

　これは今（いま）から売（う）ってくる。うちの孤児院（こじいん）では用途（ようと）がないのでお金（かね）にしよう。

　あとはお任（まか）せしてしまおう。

　外（そと）で解体（かいたい）してくることもできるけれど、ウルフは怖（こわ）い。

　ということでなるべく血（ち）抜（ぬ）きだけにしている。

　もっと沢山（たくさん）取（と）れるなら現場（げんば）で解体（かいたい）して内臓（ないぞう）とかも捨（す）ててくる方法（ほうほう）を取（と）る人（ひと）もいる。

　できれば解体（かいたい）はやりたくない。

　はやくマジックバッグを買（か）わねば。

　そのためには金貨（きんか）が欲（ほ）しい。

「よし、いいね。じゃあもう一度（いちど）町（まち）にいこう」

「はーい」

「それでちょっと教会（きょうかい）へ行（い）こうか？」

「「うんっ」」

　なんでとか聞（き）かないのだろうか。

「それでね、ちょっと魔法（まほう）適性（てきせい）を調（しら）べてもらおうね」

「あーなにそれ！　すごい！」

「そうそう。魔法（まほう）適性（てきせい）ね。冒険者（ぼうけんしゃ）になったら知（し）ってると魔法（まほう）が使（つか）えて便利（べんり）なんだ」

「そうね。それはいいわね。私（わたし）は火（ひ）属性（ぞくせい）だけだったけど煮炊（にた）きとか便利（べんり）よ」

「お姉（ねえ）さん、すごい」

　こうしてエミリーが少（すこ）し人気者（にんきもの）になっている間（あいだ）に、準備（じゅんび）を整（ととの）える。

「それでは出発（しゅっぱつ）します」

「「はーい」」

　この4人（にん）ではなく、孤児院（こじいん）の15人（にん）全員（ぜんいん）をチェックすれば、もっと魔法（まほう）が使（つか）える子（こ）がいるかもしれない。

　でもこの魔法（まほう）適性（てきせい）の確認（かくにん）、実（じつ）はちょっとお高（たか）いのだ。

　今日（きょう）の朝（あさ）から先（さき）に教会（きょうかい）に行（い）って調（しら）べなかったのにはお金（かね）がないという意味（いみ）もある。

　再（ふたた）び孤児院（こじいん）の丘（おか）を降（お）りていく。

　畑（はたけ）では女（おんな）の子（こ）たちが作業（さぎょう）していた。

　昨日（きのう）までは、私（わたし）たちも一緒（いっしょ）に作業（さぎょう）していたので、感慨深（かんがいぶか）い。

　農作業（のうさぎょう）を免除（めんじょ）された分（ぶん）、冒険者（ぼうけんしゃ）として働（はたら）かないとね。

「よし、冒険者（ぼうけんしゃ）、頑張（がんば）っていきまっしょい！」

「「おおぉお」」

　みんなで拳（こぶし）を振（ふ）り上（あ）げて、進（すす）んでいく。