[総ルビ]異世界転生して貴族だったけど孤児院に捨てられた私は這い上がる ～女の子だって薬草、キノコ、苺とか採取してスローライフしよう～(web版)

10 トウガラシとサクラ草

■10　トウガラシとサクラ草（そう）

　さてトウガラシの種（たね）は午後（ごご）の農作業（のうさぎょう）で畑（はたけ）の一部（いちぶ）を割（わ）り当（あ）ててもらって、育（そだ）て始（はじ）めたところだった。

　芽（め）がつい昨日（きのう）、出（で）てきてほっと胸（むね）をなでおろした。

　問題（もんだい）は実（み）のほうのトウガラシだった。

　そのまま小（ちい）さい輪切（わぎ）りにして入（い）れることもあるけれど、それだと噛（か）んだときに結構（けっこう）辛（から）い。

　厨房（ちゅうぼう）では使（つか）い方（かた）が分（わ）からず、放置（ほうち）されていたのだ。

「それでトウガラシがメニューに載（の）らないので、見（み）にきてみました」

「おやおや、そうだったのかい」

「はい。それで乾燥（かんそう）トウガラシなので、すり鉢（ばち）で粉（こな）にして少量（しょうりょう）入（い）れるといいと思（おも）います」

「少量（しょうりょう）ってどのくらいかね」

「塩（しお）と同（おな）じくらい、かな」

「塩（しお）ね、じゃあ実（み）でいうと10個（こ）くらいかな」

「うーん、たぶんそれぐらいです。様子（ようす）を見（み）て増（ふ）やしたり減（へ）らしたりしてください。最初（さいしょ）は少（すく）なめから試（ため）して、それくらいでいいと思（おも）います」

「はいはい。分（わ）かったわ」

　ということで、いよいよ今日（きょう）の夕（ゆう）ご飯（はん）にトウガラシのスープが出（で）ることになった。

「神（かみ）スエルメティス様（さま）のご加護（かご）により、本日（ほんじつ）も食事（しょくじ）をいただけることに感謝（かんしゃ）して」

「「――セドーレ」」

　いつもの挨拶（あいさつ）を済（す）ませると、食事（しょくじ）を始（はじ）める。

　しかし今日（きょう）はみんな、様子（ようす）を見（み）ている。

　スープがほんの少（すこ）し赤（あか）いのだ。

「院長（いんちょう）先生（せんせい）、スープがなんか赤（あか）い」

「はい。聞（き）いてちょうだい。トウガラシの入（はい）ったスープよ。少（すこ）し辛（から）いらしいの。でもそれが美味（おい）しいんですって」

「「へぇ」」

　みんな感心（かんしん）しきりだ。

　そしていつまでも見（み）ているわけにはいかない。

　そっと木（き）のスプーンで掬（すく）って飲（の）んでみる。

「なにこれ！　辛（から）い！　んでも、美味（おい）しい！」

「おお、うまうま」

「美味（おい）しいね、これ」

「辛（から）い！　うぎゃぁ」

　賛否（さんぴ）あるようだけど、まぁまぁ評判（ひょうばん）は良（よ）かった。

　完全（かんぜん）にダメという子（こ）はいないようで、安心（あんしん）だ。

　確（たし）かに辛（から）いのはとにかくダメという子（こ）も世（よ）の中（なか）にはいる。

　辛（から）いけど、しかし、美味（おい）しいのだ。

　そのうち病（や）みつきになること請（う）け合（あ）いである。

　人間（にんげん）の食（しょく）に対（たい）する欲求（よっきゅう）は際限（さいげん）を知（し）らないのだ。あばばば。

　私（わたし）にも辛（から）いスープはなかなか美味（おい）しい。

　いつもは元々（もともと）塩（しお）とほぼ野菜（やさい）の出汁（だし）だけのスープだったのだから、違（ちが）いがあるというのは刺激（しげき）になる。

　肉（にく）やキノコの出汁（だし）、旨味（うまみ）もいいけれど、刺激（しげき）という意味（いみ）では弱（よわ）い。

　人間（にんげん）は慣（な）れてしまうと、飽（あ）きてきてしまう。

　という感（かん）じでトウガラシのスープは孤児院（こじいん）の子（こ）たちに受（う）け入（い）れられたのだった。

　そうそう、草原（そうげん）でのホワイト草（そう）の採取（さいしゅ）は2日（にち）に1回（かい）くらいの頻度（ひんど）で続（つづ）けている。

　雨（あめ）の日（ひ）はさすがにやらない。

　あと1週間（しゅうかん）は7日（にち）なので、週（しゅう）に3回（かい）だ。

　日曜日（にちようび）はちょっと特殊（とくしゅ）で、朝（あさ）ご飯（はん）の後（あと）に礼拝堂（れいはいどう）に集（あつ）まってミサが行（おこな）われる。

　もちろん町（まち）の教会（きょうかい）ではないので、外部（がいぶ）の人（ひと）はこないのだけど、孤児院（こじいん）と修道院（しゅうどういん）の人（ひと）が全員（ぜんいん）集（あつ）まって、お祈（いの）りをするのだ。

　そしてマザー・サファエの説法（せっぽう）を聞（き）かされる。

　このときの説法（せっぽう）は、夕（ゆう）食前（しょくぜん）の説法（せっぽう）と違（ちが）って、聖典（せいてん）の一節（いっせつ）についての話（はなし）になることが多（おお）い。

　夕（ゆう）食前（しょくぜん）の説法（せっぽう）は聖典（せいてん）のこともあるし、もっと漠然（ばくぜん）とした昔話（むかしばなし）とかのこともある。いわゆる勇者（ゆうしゃ）伝説（でんせつ）とかの類（るい）も含（ふく）む。

　聖典（せいてん）というのは、スエルメティス様（さま）が世界（せかい）を作（つく）り、人間（にんげん）に知恵（ちえ）を与（あた）え、社会（しゃかい）を形成（けいせい）して、王国（おうこく）などに分（わ）かれた有史（ゆうし）以前（いぜん）の物語（ものがたり）だ。

　さて話（はなし）を戻（もど）して、草原（そうげん）のことだった。

　今（いま）はホワイト草（そう）しか採（と）っていないのだけど、他（ほか）にも見分（みわ）けがつく薬草（やくそう）は何種類（なんしゅるい）か生（は）えているのを確認（かくにん）している。

　ただし採（と）る日（ひ）が問題（もんだい）で、鮮度（せんど）が優先（ゆうせん）されるものは、ライエル商会（しょうかい）の当日（とうじつ）がよい。

　ということで、今日（きょう）はそのライエル商会（しょうかい）が来（く）る日（ひ）だった。

　ホワイト草（そう）を採（と）りつつ、他（ほか）の薬草（やくそう）も探（さが）していく。

「今日（きょう）もホワイト草（そう）を採（と）るけど、私（わたし）はちょっと他（ほか）の薬草（やくそう）も探（さが）すね」

「へぇ、すごいね。そういうのも分（わ）かるんだ」

「うん、数（すう）種類（しゅるい）だけだけど、知（し）ってる草（くさ）があるんだ」

「ほほーん」

　ということで、魔法（まほう）「リソース・サーチ」。

　探索（たんさく）魔法（まほう）サーチの中（なか）でも、植物（しょくぶつ）や鉱物（こうぶつ）の探索（たんさく）を優先（ゆうせん）するものがこのリソース・サーチだ。

　魔物（まもの）を広範囲（こうはんい）で探知（たんち）するいわゆる普通（ふつう）の探知（たんち）魔法（まほう）は「エリア・サーチ」と呼（よ）ばれている。

　魔物（まもの）のほうが植物（しょくぶつ）や鉱物（こうぶつ）よりも強（つよ）い反応（はんのう）を示（しめ）すので、広（ひろ）い範囲（はんい）から強（つよ）い魔力（まりょく）を探（さが）すのがエリア・サーチとなる。

　リソース・サーチはそれより範囲（はんい）が大分（だいぶん）狭（せま）い代（か）わりに、もっと微弱（びじゃく）な魔力（まりょく）を探知（たんち）して仕分（しわ）ける魔法（まほう）なのだ。

　この仕分（しわ）けが難問（なんもん）で、慣（な）れるまで探知（たんち）結果（けっか）のノイズに埋（うず）もれやすくて難（むずか）しい。

　とにかく、ちょっと反応（はんのう）がある。

　この草（くさ）だ。春（はる）の陽気（ようき）薄（うす）ピンクの花（はな）を咲（さ）かせている。

【サクラ草（そう）】

　名前（なまえ）も花（はな）の色（いろ）から取（と）られたのだろう。

　異世界（いせかい）にもサクラに相当（そうとう）する木（き）があるので、その木（き）からの命名（めいめい）だ。

「ほら、サエナちゃん、これがサクラ草（そう）。これも薬草（やくそう）だよ」

「サクラの花（はな）みたいだもんね」

「うん。これなら見（み）つけられるよね」

「そうだね」

　ちなみにピンクといえばナデシコだけど、そちらはもっと濃（こ）い色（いろ）を指（さ）す。

　このサクラ草（そう）、中級（ちゅうきゅう）ポーションの添加（てんか）剤（ざい）として使用（しよう）されるので、かなりの需要（じゅよう）がある。

　値段（ねだん）もそこそこすると思（おも）う。

　細長（ほそなが）いシュッっとした葉（は）っぱと中央（ちゅうおう）から茎（くき）が何本（なんぼん）か伸（の）びてその先端（せんたん）薄（うす）ピンクの花（はな）を咲（さ）かせる。

　今（いま）の時期（じき）は花（はな）を咲（さ）かせているので判別（はんべつ）がたやすいんだけど、もう少（すこ）しすると花（はな）もなくなって、普通（ふつう）の草（くさ）に埋没（まいぼつ）して探（さが）すのが難（むずか）しくなる。

　もちろんベテランの採取（さいしゅ）者（しゃ）には見分（みわ）けがつくので、一年（いちねん）中（じゅう）なんとか供給（きょうきゅう）されているらしいのだけど、そんなこんなで値段（ねだん）が高（たか）い。

　もっとも、この時期（じき）は見（み）つけやすい分（ぶん）は若干（じゃっかん）値段（ねだん）が落（お）ちるようだ。

　サクラ草（そう）も、この平原（へいげん）にはぽつぽつという感（かん）じで、総数（そうすう）からするとかなり生（は）えている。

　採（と）りつくさないようには細心（さいしん）の注意（ちゅうい）をして、そこそこの数（かず）を採取（さいしゅ）した。

　いっぱい採（と）れた。ぐへへ。

　これで今日（きょう）の売却（ばいきゃく）はちょっと楽（たの）しみだったりする。