[総ルビ]異世界転生して貴族だったけど孤児院に捨てられた私は這い上がる ～女の子だって薬草、キノコ、苺とか採取してスローライフしよう～(web版)

9 小さな森とカニ

■9　小（ちい）さな森（もり）とカニ

　小（ちい）さな森（もり）には途中（とちゅう）に湧（わ）き水（みず）が出（で）ていて、そこから沢（さわ）が流（なが）れて市街地（しがいち）のほうへ流（なが）れていっている。

　今日（きょう）もまた森（もり）探検（たんけん）にきているのだ。

　城壁（じょうへき）内（ない）の北西（ほくせい）側（がわ）の丘（おか）が領主（りょうしゅ）館（かん）、北東（ほくとう）側（がわ）の丘（おか）が女子（じょし）修道院（しゅうどういん）だ。

　丘（おか）の北側（きたがわ）半分（はんぶん）が未開拓（みかいたく）の草原（そうげん）で、その北（きた）のさらに半分（はんぶん）の城壁（じょうへき）までが森（もり）になっている。

　森（もり）の中（なか）でも東側（ひがしがわ）のほうから沢（さわ）が流（なが）れて城壁（じょうへき）脇（わき）を通（とお）って市街地（しがいち）のほうへ、という感（かん）じだろうか。

　今日（きょう）はいつもの私（わたし）トエ、サエナちゃん、シリスちゃん、そして勉強会（べんきょうかい）以来（いらい）仲良（なかよ）くなったミリアちゃんがいる。

「さて、ミリアちゃん、はい、これ」

「木刀（ぼくとう）にゃ？」

「そうだよ、どちらかというと木剣（ぼっけん）だね」

　木刀（ぼくとう）は片刃（かたは）で斜（なな）めに反（そ）ってるが、木剣（ぼっけん）はまっすぐなだけの棒（ぼう）だ。

　竹刀（しない）とは違（ちが）って断面（だんめん）が丸（まる）ではなく、ちゃんと諸刃（もろは）のように尖（とが）らせてあるので、平（ひら）べったい。

　まあとにかく、森（もり）だ。

「ここが、湧（わ）き水（みず）だね」

「そうだよ」

　過去（かこ）にも森（もり）で遊（あそ）んだことがあるのか、サエナちゃんはちょっとだけ詳（くわ）しい。

　同（おな）じ歳（とし）だろうけど、孤児院（こじいん）に来（き）たのはさらに小（ちい）さいころからで、私（わたし）よりは大分（だいぶ）古株（ふるかぶ）だった。

　湧（わ）き水（みず）の出（で）る場所（ばしょ）は、ちょっとした数（すう）メートルサイズのいわゆる「妖精（ようせい）の泉（いずみ）」とも言（い）えそうな雰囲気（ふんいき）だった。

　水（みず）は底（そこ）まで見（み）えており、相当（そうとう）綺麗（きれい）だ。

　水草（みずくさ）がゆらゆらしている。

　そして小魚（こざかな）が泳（およ）いでいる。

　ヤマメのような魚（さかな）と、それからメダカのような魚（さかな）がいる。

　さらによく見（み）るとカニと、半透明（はんとうめい）のエビが見（み）える。

「この魚（さかな）とかカニとか取（と）れないかな」

「うーん、どうだろう」

　湧（わ）き水（みず）の水深（すいしん）はよく分（わ）からないのだけど、1メートル半（はん）ぐらいはありそうだ。

　私（わたし）たちは小（ちい）さいので、万（まん）が一（いち）の場合（ばあい）、溺（おぼ）れてしまう。

「ちょっと深（ふか）いから難（むずか）しそうだね」

「そうだね」

　サエナちゃんとの議論（ぎろん）の結果（けっか）、魚（さかな）やカニ取（ど）りは無理（むり）そうだ。

　しかし私（わたし）は諦（あきら）めの悪（わる）い女（おんな）。

　湧（わ）き水（みず）には水（みず）が溜（た）まっているけれど、当然（とうぜん）湧（わ）いているので、溢（あふ）れた水（みず）は沢（さわ）となって出（で）ていく。

　沢（さわ）は水深（すいしん）が浅（あさ）い。そしてそこにもよくよく見（み）れば、カニとかがいるじゃないですか。

「よし、沢（さわ）でカニ取（ど）りをしよう」

「わ、分（わ）かったわ」

「……カニ、カニ」

「カニ取（ど）りにゃ！」

　さて全員（ぜんいん）の了解（りょうかい）が取（と）れたようなので、沢（さわ）の横（よこ）を歩（ある）きながら、カニを探（さが）す。

　そっと近（ちか）づいて、両手（りょうて）でえいやあぁ。

　カニが取（と）れた。

　モクズガニみたいなカニで、10センチくらいある。

　魔法（まほう）「鑑定（かんてい）」。

【カワイワガニ】

　色（いろ）は茶色（ちゃいろ）だ。ハサミが凶悪（きょうあく）そうなので、挟（はさ）まれないように注意（ちゅうい）しないと。

　名前（なまえ）の通（とお）り、甲羅（こうら）がちょっと岩（いわ）のような質感（しつかん）をしている。

　領主（りょうしゅ）館（かん）ではそうだなぁ、5回（かい）くらい食（た）べたことがあると思（おも）う。

「わわ、すごいすごい！」

　サエナちゃんがよろこんでくれる。

　なんだかやる気（き）が出（で）てきたぞ。

　さすがにカニ1匹（ひき）では、少（すこ）しの出汁（だし）しか出（で）ない。

　みんなで沢（さわ）に散（ち）らばって、カニを探（さが）す。

「えいにゃぁ」

　今度（こんど）はミリアちゃんだ。

　獣人（じゅうじん）はだいたい俊敏（しゅんびん）で嗅覚（きゅうかく）や視覚（しかく）、聴覚（ちょうかく）などが鋭（するど）い。

　こういう狩（か）りは大（だい）得意（とくい）なのだろう。

「やったにゃぁ、やったにゃ！」

　ほら、さすが。無事（ぶじ）捕（つか）まえたようだ。

　私（わたし）たちはその後（あと）もしばらくカニを探（さが）し、全部（ぜんぶ）で7匹（ひき）のカニを捕獲（ほかく）した。

　さてカニだけでは、ちょっと寂（さび）しい気（き）もする。

　そこでキノコだ。

　さて今日（きょう）は違（ちが）うキノコを探（さが）す。

　サルノコシカケもなかなか良（よ）かったけど、倒木（とうぼく）に生（は）えるので、倒木（とうぼく）がないといけない。

　それにサルノコシカケは食用（しょくよう）ではないので。

　魔法（まほう）「リソース・サーチ」。

　うーん。スライムは何匹（なんびき）かその辺（へん）にいるけれど、この前（まえ）食（た）べたブラウンシメジタケは生（は）えていないようだ。

　キノコはいきなり生（は）えて一週間（しゅうかん）しないで枯（か）れてしまったりするので、タイミングを逃（のが）すと生（は）えていないことも多（おお）い。

　サルノコシカケは小（ちい）さいのが3か所（しょ）くらい魔法（まほう）に引（ひ）っ掛（か）かって反応（はんのう）がある。

　ただ小（ちい）さいから、値段（ねだん）は期待（きたい）できそうにはない。

　地面（じめん）を慎重（しんちょう）に見（み）て歩（ある）く。

「スライムだあ」

「おう、ていやぁ」

　サーチの通（とお）り、スライムを発見（はっけん）、私（わたし）が木剣（ぼっけん）でシバいて魔（ま）核（かく）を強奪（ごうだつ）する。

「おーおぉ」

「すごいにゃ」

「……スライム一撃（いちげき）」

　みんなも感心（かんしん）してくれるが、まあ慢心（まんしん）しないように気（き）を引（ひ）き締（し）める。

　強（つよ）い魔物（まもの）が出（で）てこないといっても、強盗（ごうとう）や悪（わる）い冒険者（ぼうけんしゃ）がいる可能性（かのうせい）はある。

　まぁサーチで引（ひ）っ掛（か）からないので、可能性（かのうせい）は低（ひく）い。

　もちろん隠密（おんみつ）魔法（まほう）、気配（けはい）消去（しょうきょ）魔法（まほう）などを使（つか）われると、私（わたし）のレベルでは探知（たんち）できない。

　何事（なにごと）にも例外（れいがい）はある。

「お、キノコ発見（はっけん）！」

　新（あたら）しいキノコだ。魔法（まほう）「鑑定（かんてい）」。

【キイロヒラタケ】

　その名（な）の通（とお）り黄色（きいろ）をした、ちょっと毒々（どくどく）しいヒラタケっぽいキノコだ。

　ヒラタケはエリンギとシメジの中間（ちゅうかん）みたいな感（かん）じのキノコ。言葉（ことば）で説明（せつめい）するのは難（むずか）しい。

「ねえ、黄色（きいろ）いけど」

「あ、うん。大丈夫（だいじょうぶ）、これも美味（おい）しいから。食（た）べたことあるよ」

「そうなんだ。トエちゃんって色々（いろいろ）知（し）ってるし、色々（いろいろ）食（た）べたことあるんだね」

「まぁね、たまたまだよ。知（し）らないことだっていっぱいあるよ」

「ふーん」

「……黄色（きいろ）いキノコ。毒（どく）っぽい」

　まあ、そう言（い）わんでくれ。

　このキイロヒラタケは美味（うま）いんだ。本当（ほんとう）。

　私（わたし）も2回（かい）ほどしか食（た）べたことがない。

　流通（りゅうつう）していないというよりも、そこまでして採（と）ってくる人（ひと）があまりいないのだろう。

　あとは売（う）るよりも食（た）べてしまう人（ひと）が多（おお）い。美味（おい）しいから。

　一度（いちど）見（み）つけたら気配（けはい）が分（わ）かる。

　キノコの気配（けはい）とか、微妙（びみょう）過（す）ぎてかなり頑張（がんば）って集中（しゅうちゅう）して、大量（たいりょう）にある反応（はんのう）を選別（せんべつ）する必要（ひつよう）があるが、魔力（まりょく）を放（はな）っているので、探知（たんち）には引（ひ）っ掛（か）かる。

　魔法（まほう）「リソース・サーチ」。

　心（こころ）の中（なか）で唱（とな）えて、魔法（まほう）を発動（はつどう）させる。

　無（む）詠唱（えいしょう）ともいうが、口（くち）に出（だ）していないだけで、発音（はつおん）する分（ぶん）の時間（じかん）は掛（か）かるので、厳密（げんみつ）な意味（いみ）での無（む）詠唱（えいしょう）ではない。

　これは言（い）うならば、黙読（もくどく）詠唱（えいしょう）だ。

　まあとにかく、こうしてまたキノコやスライムを見（み）つけて、この日（ひ）もホクホク顔（かお）で孤児院（こじいん）に戻（もど）りましたとさ。

「カニのスープだって、初（はじ）めて食（た）べた！」

「カニ美味（おい）しい！　出汁（だし）が出（で）てるぅ」

「カニだぜ、カニ、いえぇい」

　その日（ひ）の晩（ばん）ご飯（はん）のカニ入（はい）りスープは、かなりの評判（ひょうばん）となった。

　惜（お）しむべくは、沢（さわ）のカニは取（と）りつくしてしまうと困（こま）るので、何回（なんかい）も食（た）べられるわけではないということだろうか。

　年（ねん）に3回（かい）くらいなら、まあなんとか大丈夫（だいじょうぶ）かな。