[総ルビ]異世界転生して貴族だったけど孤児院に捨てられた私は這い上がる ～女の子だって薬草、キノコ、苺とか採取してスローライフしよう～(web版)

3 ホワイト草の売却

■3　ホワイト草（そう）の売却（ばいきゃく）

　私（わたし）が孤児院（こじいん）にきてから1週間（しゅうかん）。

　毎日（まいにち）、ちょっとずつ採（と）って集（あつ）めているホワイト草（そう）がいい感（かん）じに乾燥（かんそう）してきた。

　そして今日（きょう）は話（はなし）に聞（き）いていた、出入（でい）りの業者（ぎょうしゃ）さんがくる日（ひ）なのだ。

　お昼（ひる）ご飯（はん）が終（お）わったころ、そわそわして待（ま）つことしばし。

　私（わたし）は二階（にかい）の窓（まど）から道（みち）を見（み）ていた。

　丘（おか）を登（のぼ）ってくる一台（いちだい）の幌馬車（ほろばしゃ）が見（み）えた。あれだ。

「きたきた～」

「お、トエちゃん、なになに」

「馬車（ばしゃ）きたよ、業者（ぎょうしゃ）さん」

「おお、私（わたし）も見（み）に行（い）く」

　私（わたし）とサエナちゃんは玄関（げんかん）に向（む）かう。

　他（ほか）にもたまたま近（ちか）くにいた子（こ）達（たち）が集（あつ）まって孤児院（こじいん）の入口（いりぐち）でお出迎（でむか）えをした。

　修道院（しゅうどういん）は建前（たてまえ）上（じょう）、男子（だんし）禁制（きんせい）なので、こういう外部（がいぶ）とのやり取（と）りは孤児院（こじいん）で行（おこな）うことになっているのだそうだ。

「「こんにちは～」」

「はい、こんにちは。ライエル商会（しょうかい）のジョン・ライエルです」

「「わああああ」」

　ライエルさんは大人気（だいにんき）だ。

　ここでは珍（めずら）しい男（おとこ）の人（ひと）というのもあるかもしれない。

　中年（ちゅうねん）で太（ふと）り気味（ぎみ）でハゲかかっているけれど目（め）とか優（やさ）しそうなのだ。

　私（わたし）はそれをそっと眺（なが）める。

　タイミングを計（はか）らないと。

　乾燥（かんそう）させたホワイト草（そう）の第（だい）一弾（いちだん）をこのおじさんに販売（はんばい）してみようと思（おも）ったのだ。

　一番（いちばん）最初（さいしょ）に話（はな）しかけたら、がっついていると思（おも）われてしまう。

　かといって最後（さいご）というのも何（なん）となく、おまけみたいな感（かん）じになってしまう、うーむ。

　ライエルさんはハムなどを納品（のうひん）してくれる。

　孤児院（こじいん）からは畑（はたけ）の野菜（やさい）などを渡（わた）していく。

　それからヤギのチーズも少（すこ）しあった。

　あとはワイン。このワインは少量（しょうりょう）しか生産（せいさん）していないそうだけど、領主（りょうしゅ）様（さま）への献上（けんじょう）用（よう）なんだそうで、領主（りょうしゅ）館（かん）以外（いがい）ではほとんど流通（りゅうつう）していないという。

　ここの修道院（しゅうどういん）はほとんど自給自足（じきゅうじそく）もしくはこういう風（ふう）に多少（たしょう）の商売（しょうばい）をしているけれど、独立（どくりつ）採算（さいさん）制（せい）になっている。

　そしてワインに関（かん）しては相場（そうば）よりも高（たか）く、領主（りょうしゅ）様（さま）が購入（こうにゅう）して支援（しえん）してくれているのだ。

　領主（りょうしゅ）様（さま）が独自（どくじ）のワイナリーを持（も）ちたいという趣味（しゅみ）でやっていることの一環（いっかん）なんだそうだ。

　それでライエル商会（しょうかい）が孤児院（こじいん）から領主（りょうしゅ）館（かん）に運（はこ）んでくれる。

　さて、そろそろ塩梅（あんばい）かな。

「あの、ライエルさん」

「なんだい、お嬢（じょう）さん？　あれ、見（み）ない顔（かお）だね」

「はい。新（あたら）しく入（はい）りました、トエといいます」

「ほほう、よろしく」

「よろしくお願（ねが）いします。それでですね。乾燥（かんそう）ホワイト草（そう）があるのですけど、引（ひ）き取（と）ってはいただけないかと思（おも）いまして」

「あぁホワイト草（そう）ね、いいよ、見（み）せてごらん」

「これです」

　私（わたし）は乾燥（かんそう）が進（すす）んで軽（かる）くなったホワイト草（そう）を後（うし）ろから前（まえ）に出（だ）して見（み）せる。

「ほうう、しっかりと乾燥（かんそう）しているね、うんうん。これならそこそこの値段（ねだん）になりそうだな」

「そうですか」

「いいね。悪（わる）くない。それじゃあ、銀貨（ぎんか）5枚（まい）でどうだろう」

「銀貨（ぎんか）5枚（まい）ですか？」

　そういえば私（わたし）はあまりモノの値段（ねだん）に詳（くわ）しくない。

　しかし銀貨（ぎんか）10枚（まい）で金貨（きんか）になることは知（し）っている。

　大（だい）銅貨（どうか）10枚（まい）で銀貨（ぎんか）、銅貨（どうか）10枚（まい）で大（だい）銅貨（どうか）だ。

　それぞれ銅貨（どうか）から10円（えん）、100円（えん）、1,000円（えん）なら銀貨（ぎんか）5枚（まい）で5,000円（えん）くらいという感（かん）じだろうか。

「よく分（わ）からないのですけど、それでいいです。あなたを信頼（しんらい）して」

「おっ、うれしいこと言（い）ってくれるね。じゃあおまけして銀貨（ぎんか）6枚（まい）にしちゃおう」

「本当（ほんとう）ですか。ありがとうございます」

「あはは、お嬢（じょう）さん商売（しょうばい）上手（じょうず）だね。はい銀貨（ぎんか）6枚（まい）です」

「確（たし）かに。ありがとうございます」

　こうして私（わたし）ははじめての収入（しゅうにゅう）、銀貨（ぎんか）6枚（まい）を手（て）にした。

　それを見（み）ていた他（ほか）の子（こ）たちもどうしようか、という顔（かお）をしている。

「それで銀貨（ぎんか）6枚（まい）で何（なに）か買（か）って行（い）くかい？」

「そうですね。干肉（ほしにく）ありますか？　銀貨（ぎんか）4枚（まい）分（ぶん）ぐらい」

「あいよ。じゃあこれぐらいかな」

　両手（りょうて）でなんとか持（も）てるくらいの量（りょう）の干肉（ほしにく）をいただいた。

「これは何（なに）のお肉（にく）なんですか？」

「これはフォレストウルフだな。森（もり）へ行（い）けば、ちょくちょく遭遇（そうぐう）するんだが、集団（しゅうだん）だとやっかいなんだ。味（あじ）はそれほど悪（わる）くないだろう」

「はい、美味（おい）しいです」

　隅（すみ）を少（すこ）しだけ噛（かじ）ってみたけれど、悪（わる）くはない。旨味（うまみ）もあり、まあまあ美味（おい）しい。

「おお、いい笑顔（えがお）だ。商売（しょうばい）冥利（みょうり）に尽（つ）きるね」

「はいっ」

　まあ、おじさんの好感度（こうかんど）を上（あ）げても、個人的（こじんてき）にはあまりうれしくはないけれど、商売（しょうばい）は必要（ひつよう）だ。

　こういう時（とき）美少女（びしょうじょ）は得（とく）だ。えへへ。

　交渉（こうしょう）と売買（ばいばい）が終（お）わった。

　私（わたし）は干肉（ほしにく）を持（も）って、厨房（ちゅうぼう）へと向（む）かう。

「すみません。干肉（ほしにく）を買（か）ったので、これも料理（りょうり）で使（つか）ってくれませんか」

「おや、なんだい？　新入（しんい）りのえっと？」

「トエです」

「そうそう、トエちゃん。お金（かね）持（も）っていたのかい？」

「いえ、空（あ）き時間（じかん）にホワイト草（そう）を採取（さいしゅ）したので、それを売（う）って」

「まあまあ、なんと。そりゃえらいねえ、わかった。お肉（にく）、料理（りょうり）に使（つか）わせてもらうよ。ありがとねぇ」

「いえいえ」

　そして午後（ごご）の畑（はたけ）作業（さぎょう）をして、夕（ゆう）ご飯（はん）になった。

　お肉（にく）がひとり2切（き）れぐらいだったけど、スープに多（おお）めに入（はい）っていて、肉（にく）の出汁（だし）が出（で）ていて、いつもより美味（おい）しく感（かん）じられた。

「お、なんか、スープ美味（おい）しいね」

「あのね、トエちゃんがお肉（にく）買（か）ってくれて」

「ああ、それで肉（にく）が少（すこ）し多（おお）いのか、えらいねトエちゃん！　ありがとう」

「おお、トエちゃんか。なかなかやるじゃん」

「トエちゃん、ありがとう」

　みんなにヨイショしてもらって、ちょっとくすぐったい。

「ふふふ、トエちゃん、よかったね」

「うん」

　サエナちゃんの笑顔（えがお）も見（み）れたので、うれしかった。

　これで乳搾（ちちしぼ）りの後（あと）は、本来（ほんらい）なら休憩（きゅうけい）と遊（あそ）ぶ時間（じかん）なのだろうけど、有効（ゆうこう）活用（かつよう）できて、悪（わる）い気分（きぶん）はしない。

　スープも美味（おい）しかったので、この日（ひ）はぐっすりベッドで眠（ねむ）ることができた。