[総ルビ]異世界転生して貴族だったけど孤児院に捨てられた私は這い上がる ～女の子だって薬草、キノコ、苺とか採取してスローライフしよう～(web版)

2 ヤギと薬草

■2　ヤギと薬草（やくそう）

　午前中（ごぜんちゅう）、朝食（ちょうしょく）後（ご）の仕事（しごと）はヤギの乳搾（ちちしぼ）りだった。

「こうやって、ぎゅってやって」

「ふむふむ」

　サエナちゃんがヤギの乳搾（ちちしぼ）りをするのを見（み）せてくれる。

「えっと、指（ゆび）を順番（じゅんばん）にぎゅっと……」

「そうそう、そんな感（かん）じ、上手（じょうず）だね」

「えへへ」

　ここにいるメスヤギは全部（ぜんぶ）で8頭（とう）だ。

　もうひとりシリスちゃんという子（こ）も含（ふく）めて、今日（きょう）は3人（にん）で手分（てわ）けをして搾（しぼ）っていく。

　うんしょ、うんしょ。

　びゅーびゅーびゅー。

　乳（ちち）が飛（と）び出（だ）してバケツに集（あつ）まってくる。

　力（ちから）もちょっといる。

　私（わたし）は領主（りょうしゅ）館（かん）ではやんちゃだったので、力（ちから）も8歳（さい）児（じ）なので弱（よわ）っちいものの、ただのお嬢様（じょうさま）よりは断然（だんぜん）強（つよ）いのだ。

　器用（きよう）というか、ただの8歳（さい）児（じ）とは比（くら）べるべくもない、前世（ぜんせ）の記憶（きおく）チートにより難（なん）なくこなしていく。

　サエナちゃんとシリスちゃんが3頭（とう）ずつ、私（わたし）が2頭（とう）の乳搾（ちちしぼ）りを完了（かんりょう）した。

「よし、終（お）わりだね。トエちゃん、シリスちゃん、ありがとう」

「はい、お疲（つか）れさま」

「……お疲（つか）れ」

　シリスちゃんはちょっとクールというか口数（くちかず）が少（すく）ない感（かん）じだ。

　思（おも）ったよりも早（はや）く終（お）わったらしい。

　ヤギのミルクはそのまま孤児院（こじいん）の厨房（ちゅうぼう）へ持（も）っていく。

　これは沸（わ）かしておいて、冷（さ）ましてからお昼（ひる）に飲（の）むそうだ。

　ヤギ小屋（こや）の掃除（そうじ）などは、他（ほか）の子（こ）が担当（たんとう）していた。

　またその間（あいだ）にオスヤギと子（こ）ヤギを外（そと）に連（つ）れていく子（こ）もいる。

　分担（ぶんたん）作業（さぎょう）だ。

　ちなみにオスヤギは2頭（とう）を残（のこ）して2年（ねん）ぐらいで食用（しょくよう）に解体（かいたい）されてしまう。恐（おそ）ろしや。

「じゃあ次（つぎ）は？」

「私（わたし）たちの午前（ごぜん）中（ちゅう）のお仕事（しごと）はこれでおしまいだよ。あとは他（ほか）の子（こ）がやるから」

「そっか」

　まだお昼（ひる）までは2時間（じかん）ぐらいあるだろうか。

「ねえ、この丘（おか）全体（ぜんたい）が修道院（しゅうどういん）の敷地（しきち）なんだよね？」

「そうだよ」

「じゃあさぁ、この平原（へいげん）に生（は）えてる薬草（やくそう）とかは採（と）ってもいいのかな？」

「ん？　いいと思（おも）うよ。私（わたし）たちはお花（はな）を摘（つ）んだりするわね」

「そうなんだ、ふんふん」

　ヤギの放牧（ほうぼく）地（ち）なのか北側（きたがわ）斜面（しゃめん）は畑（はたけ）にはなっていなかった。

　南側（みなみがわ）斜面（しゃめん）は小麦畑（こむぎばたけ）、ブドウ畑（ばたけ）、野菜畑（やさいばたけ）が広（ひろ）がっていた。

「よし、じゃあ薬草（やくそう）を探（さが）してみよう」

「え、あ、うん」

「あの、私（わたし）はちょっとお姉（ねえ）ちゃんのところに行（い）ってくるね」

「え？　あ、うんいいよ」

「じゃあね、またね、ばいばい」

「ばいばい、シリスちゃん」

　シリスちゃんが行（い）ってしまった。

　次（つぎ）に仲良（なかよ）くしようとしていたのに、ちょっと残念（ざんねん）だ。

　でもまあ、今（いま）はサエナちゃんと仲良（なかよ）くしよう。

　二人（ふたり）で丘（おか）の広（ひろ）い北側（きたがわ）斜面（しゃめん）を歩（ある）く。

　下草（したくさ）はそれほど伸（の）びていない。

　タンポポのような草（くさ）や青（あお）い花（はな）、赤（あか）い花（はな）、いろいろな植物（しょくぶつ）があった。

　そうして見（み）つけたのが、薬草（やくそう）、ホワイト草（そう）だ。

「ほらこれが薬草（やくそう）」

「へぇ」

　サエナちゃんが感心（かんしん）した声（こえ）を上（あ）げる。

　他（ほか）の草（くさ）より葉（は）っぱが少（すこ）し白（しろ）っぽい。だから日本語（にほんご）でいうならホワイト草（そう）。

　ここに来（く）る前（まえ）、領主（りょうしゅ）館（かん）の周（まわ）りにも少（すこ）しだけ生（は）えていた。

　これは本（ほん）による知識（ちしき）だった。

　館（やかた）のメイドさんもこの草（くさ）は知（し）っていたので、知識（ちしき）をすり合（あ）わせてほぼ間違（まちが）いないことは確認（かくにん）済（ず）みだ。

　鑑定（かんてい）でも名前（なまえ）だけは確認（かくにん）できる。

　簡単（かんたん）に言（い）うと初級（しょきゅう）ポーションの材料（ざいりょう）になる薬草（やくそう）だ。

　だから冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドで買取（かいとり）をしている、はずなのだ。

　値段（ねだん）とか細（こま）かいことは知（し）らないけれど、もしかしたら少（すこ）しはお金（かね）になるかもしれない。

「どうかな」

「すごいとは思（おも）うけど、よく分（わ）かんないや」

「そうだよね。とりあえず同（おな）じ草（くさ）があったら集（あつ）めよう」

「分（わ）かったっ」

　二人（ふたり）でその辺（へん）を歩（ある）き回（まわ）り、ホワイト草（そう）を集（あつ）めていく。

　2時間（じかん）もあれば、かなり採（と）れた。

　両手（りょうて）に一杯（いっぱい）、持（も）つのが大変（たいへん）なぐらい。

　そして、まだまだこの辺（へん）には沢山（たくさん）生（は）えている。

　どうもこの北側（きたがわ）斜面（しゃめん）という少（すこ）しだけ日照（にっしょう）が悪（わる）いのが薬草（やくそう）の条件（じょうけん）によいらしい。

　領主（りょうしゅ）館（かん）でも木陰（こかげ）とかに生（は）えていたので、そういうことだろう。

　頑張（がんば）って孤児院（こじいん）まで持（も）って帰（かえ）る。

「ちょっと、ふたりとも、それは？」

　院長（いんちょう）先生（せんせい）に見（み）つかって、ちょっと怖（こわ）い顔（かお）を作（つく）って聞（き）いてくる。

　まあ実際（じっさい）には困（こま）った子（こ）ね、という感（かん）じだけど。

「これはホワイト草（そう）です」

「あっ、ああ、薬草（やくそう）の？　それがそうなのね？」

「そうです。見分（みわ）け方（かた）が簡単（かんたん）で間違（まちが）えることも少（すく）ないので、集（あつ）めてみました」

「そうね、確（たし）かに他（ほか）に白（しろ）い草（くさ）は生（は）えてないわね、うんうん」

　院長（いんちょう）先生（せんせい）の顔（かお）も機嫌（きげん）がよくなって、なんとか無事（ぶじ）に済（す）んだ。

　部屋（へや）に持（も）って帰（かえ）る。

　そして冒険者（ぼうけんしゃ）だったら、すぐそのまま納品（のうひん）するらしいんだけど。

　私（わたし）たちはこれをすぐに冒険者（ぼうけんしゃ）ギルドに持（も）っていくことができない。

　ギルドは丘（おか）を降（お）りて貴族（きぞく）街（がい）を通（とお）って市民（しみん）街（がい）の真（ま）ん中（なか）まで行（い）く必要（ひつよう）があって遠（とお）いのだ。それに私（わたし）たちは基本的（きほんてき）に孤児院（こじいん）と修道院（しゅうどういん）の敷地（しきち）から出（で）ないので。

　それでひと手間（てま）加（くわ）える。

　といっても簡単（かんたん）だ。

　10本（ほん）くらいを束（たば）にして根元（ねもと）を別（べつ）のホワイト草（そう）で縛（しば）って上下（じょうげ）ひっくり返（かえ）して、壁（かべ）に掛（か）けていく。

　これで乾燥（かんそう）して、ドライフラワーのようになる。

　ポーション材料（ざいりょう）として使（つか）われるんだけども、多（おお）くの場合（ばあい）下処理（したしょり）として、このように乾燥（かんそう）させる必要（ひつよう）があるのだ。

　特（とく）に冬（ふゆ）の間（あいだ）はこの草（くさ）自体（じたい）が枯（か）れてしまって生（は）えていないので、秋（あき）までに収穫（しゅうかく）したものを乾燥（かんそう）させて使（つか）う以外（いがい）になかった。

　だから乾燥（かんそう）させたほうがその手間（てま）賃（ちん）分（ぶん）、高値（たかね）で売（う）り買（か）いされる。

　えへへ。どうじゃ。

　これを売（う）って、お金儲（かねもう）けするんだ。