貴方に伝えたい


 葵が住むマンションに着いた。しかし、最後の一押しが出来ない。インターホンを鳴らした後にどうするか。なんて話すといいのかとグルグル頭の中で回っており、考えが纏まらず足が止まってしまった。急に声をかけられ驚きのあまり情けない声を上げてしまった。


「侑?」

「ひゃん!」

 恐る恐る振り向いてみると、今最も会いたい人物がそこに居た。無理だ。

「……やっほー、葵」

「……」

 失敗した。絶対失敗した。ど、ど、どうしよう、何とかなるかいやない。

「侑、何か用?」

「……」


 葵が話題を振ってくれたのに何も言い出せない。しばし静寂が訪れる。

 葵は、そんなつもりないのだろうけど威圧感を感じてしまい私は動けなくなる。とうか逃げ出したくなる。

 私はここに来るまでその場の勢いというか謎の原動力で動いていたので、そのブーストが切れると何も出来なくなってしまう。この静寂の終わりを告げたのは葵だった。


「用がないなら帰って。あまり遅いと怒られるよ」

 葵はそのままマンション内に入ろうとしていたが、私は無意識的に、葵の服を掴んだ。

「何?」

「さ、散歩しない?」

咄嗟に思いついた事を、反射的に言う。

「……荷物置いてからでいい?」

「全然いいよ、うん」

「そう」



 私は、葵を連れて行く宛もなく歩いていた。その間何度も言うとして、踏み出せずを繰り返していた。葵は何も言わずただ付いて来ていた。


「あ……」

 そこにはかつてよく遊んでいた公園があった。確か名前は。何だっけ?

「釜池公園」

「そうそれ」

「昔よく来て遊んだんだ、葵は?」

「……私はあまりこういうとこ来なかった」

「ブランコ行こ!」

「……うん。わかった」


 前のように、葵と普通に話せている。懐かしい公園に来たことで童心に返ったのだろう。でも、私が葵に伝えたいことは、昔の私ではなく、今の私が伝えない意味がない。


「葵」

「何?」

「私ね、正直言うと家族の事を誰かに話す事を避けてた。怖かったんだ、家族の事を知られるのが、だから隠して、隠してバレないようにみたいに。だから、葵に言っちゃた時どうすればいいのかも分からなかった。あんな態度取ってごめんなさい」

「……」

 伝えたいことを伝えていると、思いが、気持ちが溢れてくる。

「でも、……っ私……このまま葵とさよならは嫌だよ!」

 視界が滲んできていることがわかる。

「私……っ私は……」

 葵が私を抱きしめてくれる。温かい感触が身体中に感じる。葵は囁く様に、安心させるように、どちらも含んだ声音で言葉を紡ぐ。

「うん。十分伝わってるよ。大丈夫私は一緒に居るよ」

 感情の起伏が収まるまで、その温みが逃げない様に抱きしめた。



「ごめん」

 と、謝りながらも私は、葵の服を掴んだままだった。

「いいよ、また好きなだけ泣いて」

「言うなよ!恥ずかしじゃん」

「ごめん、ごめん」

「もう、葵あの時は勇気がなかった。でも。いつか必ず伝えるよ。その時まで待ってて」

「うん待ってる」

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